動き
【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)
【イベント1日目】
side:マカ
「とかげ?」
それはどこからどう見てもトカゲだった。
体表は黄緑でしっぽが長い。四足でしっかりと地面を踏み締めていた。
かわいいとは思えないわね。
爬虫類は苦手というわけじゃないけど、好きでもない。
ウーパールーパーはかわいいと思うけどね。
あれ……ウーパールーパーって爬虫類? 両生類だったかしら?
「まあ、一応トカゲだ。私はゼリア。君はプレイヤーなのか?」
爬虫類特有のクリクリした目を瞬きさせながら、ゼリアと名乗るトカゲは質問してきた。
やっぱりプレイヤーみたいね。
私たち以外にも魔物プレイヤーがいたことには少し驚いたけど、同時に嬉しくもある。
まあ、まだ数は少ないみたいだけど。
「プレイヤーよ。マカっていうの。見た通りスライムをやってるわ」
「見た通りではないような気もするが……」
言われると確かに自分でも、もう純粋なスライムではないような気もする。
けど、スライムはスライム。そこに変わりはないの。だから気にしないことにするわ。
「そこはいいのよ。それで、あっちの熊さんは?」
未だに、私の触手で身動きが取れずにいる熊さんを見ながら聞いた。
「彼もプレイヤーだ。サイという。掲示板で連絡を取って合流したんだが、直後に目印の大木が消えてしまった。何か知らないか?」
あ、それ間違いなく私ね。
ていうか、掲示板で知り合ったのね。イベントで一杯一杯だったからすっかり確認するのを忘れてたわ。
「それは私のせいね。まあそんなことは置いといて、イベントの話をしましょ」
「お、置いといて……」
「イベントとは関係ないからいいのよ」
「そ、そうか」
ゼリアは明らかに動揺しているけど、気にしない方がいいわね。
この話はこのまま流しましょうか。
「い、いやおかしいだろ! そんなことが――」
『――もしもし、マカさん聞こえてますか?』
サイというらしい熊が話し出した瞬間、レイクさんの声が聞こえた。
けど、サイは話し続けているしゼリアの表情に変化もない。
私にしか聞こえてないみたいね。
とりあえず、サイを無視してレイクに応えることにした。
「レイクなの?」
『はい。私です。イベントについて伝えたいことがあります。時間がないので手短に言いますね。まず――――というようです。詳しくは隣のGMに聞けば、大抵のことは答えてくれると思います』
「ちょっとレイク」
『なんでしょう?』
「GMって何? そんなのいないわよ」
『……おかしいですね。GMを介して通信してるんじゃないんですか?』
「私にだけ直接聞こえてるみたい」
『……まあいいでしょう。とにかく時間がないので注意してください』
レイクはそう言うと通信を切った。
随分と焦ってるみたいね。
「さっきから一人で何を話しているんだ?」
不審そうな表情でゼリアが聞いてくる。
サイは黙っちゃったみたいね。
確かに側から見たらかなり危ない人に見えるわね。
「私の友達から連絡があっただけよ。ついでだし、あなたたちにも教えてあげる」
私はレイクからの話をゼリアに伝えた。
プレイヤーが攻めてくること、時間が残り2時間もないことを。
「な、なに!? 絶体絶命じゃないか!」
予想した通りの反応のゼリア。
顔はトカゲなのに驚きで溢れてるのがよく分かる。
不思議なものね。
「あぁ……終わりだ」
対して、サイのほうはもう諦めているよう。
熊の表情が暗く爛れている。
この人は何で魔物になったのかしらね。本当に不思議。
「とりあえず準備しなきゃいけないわ」
そんな二人の面倒を私が見なきゃいけないなんて。
不運ね私。と思った。
けど、これでも数少ない魔物プレイヤーという仲間なのだから、協力し合わないといけないのよね。
「私は周辺のスライムを吸収してくるわ。二人はプレイヤーが出てきそうな場所を探しながらGMっぽいのを見つけて」
「GM? ま、まあ分かった」
「サイの面倒はゼリアに任せるわ」
「ああ、分かった」
サイのことは押し付け、私は湿林の奥へ歩く。
ゼリアたちはゼリアたちで歩き回るでしょうし、もしかしたら私がGMを見つけるかもしれないものね。
途中で見つけたスライムはちゃんと吸収しておく。
使えるものは少しでも増やしておかないと。
いつプレイヤーが来るのか正確な時間は分からないけど、戦いになるのは確定してる。
よく分からないけれど強そうな種族に進化したことだし、簡単に負けることはないはず。
どちらかといえば心配なのはゼリアたちね。
まともに戦えるのかしら。
サイのいかにもな様子を思い出し、さらに不安になる。
「ん?」
なにかいる。
ゼリアたちを発見した時と同じ感覚。
また新しい魔物プレイヤーかしら?
新規が多いのはいいことだけど、なんで私のところにくるのかしら。
サクヤとレイクのところにも来てると思いたいわね。
「ファイヤアロー!!」
矢の形をした炎が私目掛けて飛んでくる。
声のした方に目をやると、3人の人が立っていた。
あら?
普通のプレイヤー?
☆☆☆☆☆
【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)
【イベント1日目】
side:ロイ
湿林エリアのエリアボスを発見。
この情報はイベントが開始してすぐに出回ったらしい。
ランキング上位者たちが話し合いをしている間、その他の多くのプレイヤーが挑み、敗れ、情報を取っていた。
俺が湿林エリアへ行くころには、エリアボスのほぼ全てが既に暴かれていた状態だった。
「にしてもデタラメだな。こいつ」
「な」
エリアボス情報 " 湿林 " を見たカムイは顔を顰めながらそう言う。
無理もない。
顔には出さなかったが俺も同じような心情だ。
なにが「湿林エリアは最も簡単だろう」だ?
いや、ブランも簡単とは言ってなかったか。
しかし優先度は最も低い。
なぜなら、このエリアに割り当てられた上位プレイヤーは、俺たちのみだからだ。
「物理、魔法のどちらも全く効かない? 冗談だろ」
先駆者の書き込みを見ながら、俺は思わずそう呟いた。
エリアボスは巨大なスライムのようで、湿林の奥にいるらしい。エリアボス以外に目立ったモンスターは居ないみたいなので、エリアボスに集中できるのは良い。
「スライムねえ……」
カムイはどうしても意識してしまうようだが、それも無理は無い。
寧ろ、あの時のことを思い出さないほうが無理だろう。
「どっちにしろこっちのエリアボスも強そうだし、応援は呼んでおいた方が良さそうだな」
「そうだな」
俺はブランにメッセージを送った。
上位プレイヤーの殆どは墓地と洞窟に行っている。湿林に居るのは俺たちのパーティのみだ。
それだけ俺たちのことを評価してくれているということだが、今回ばかりはそれに応えることは出来なさそうだ。
明らかに俺たちで何とかなる相手じゃない。
俺、カムイ、クッキー、ミノ。
この4人のパーティはゲームを始めてからずっと一緒に続けてきたメンツだ。
全員リアルでも知り合いで、他のマルチゲームも一緒にやる仲だ。
俺が前衛の剣士、カムイがサポートの斥候、クッキーが後衛の魔法使い、ミノが回復兼タンクの盾使いだ。
バランスは良いと思う。それぞれが自分の役割をちゃんと分かってるし、このゲームの中でもかなり上位のパーティだと自負している。
「ロイー、メルちゃん達呼ぼうよー」
「おい、クッキー。お前がただ好きなだけだろそれ」
俺とロイの後ろでクッキーとミノが話している。
クッキーはメルのことを気に入っているようだが、こいつは誰にでもこんな感じなので当てにならない。ちなみに男だ。
ミノはかなり真面目なタイプだ。ゲームでもその真面目さは変わらず、NPCに優しかったりPKをかなり嫌う。
「……ッ、みんな何か来るぞ!」
カムイが慌てて声を出した。
何かを察知したんだろう。
ミノと俺が、カムイとクッキーを守るように前に出る。
ミノは盾を構えて警戒している。
何が来るのか。
俺は警戒しながらも心の中でそうつぶやいた。
……ザ……ザ……ザザ……。
微かに音が聞こえる。
何の音だ?
ノイズのような小さな音の正体が分からず思案していると、その音がどんどん大きくなっていった。
次第に大きくなる音に耳を澄ませ、その正体に思い当たる。
「おい、まさか……」
「これヤッベェぞ……!」
「逃げなきゃッ!」
ザアアァァッッ!!!!
林の奥から見えたのは大量の水。
木々を押し倒しながらこちらに向かって進んでくる津波だった。
そして、もはや逃げることは出来ず。
俺たちはその渦に呑まれていった。




