それぞれ
お久しぶりです。
【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)
【イベント1日目】
side:レイク
「――とりあえず、3時間後には始まるので準備を怠らないよう気をつけて下さい。私はマカさんにも言ってきます。では」
私はサクヤさんへ警告し、通信を終えました。
サクヤさんは突然のことに戸惑っていたようでしたが、いまは一刻を争う状況のため、詳しい説明ができないことは仕方ありません。
しかし、あのサクヤさんのことです。
自力で何とかしてくれるでしょう。
さて。
私が降り立った場所は墓地でした。
周りには、誰のものかも分からない墓が溢れており、時折り人魂も飛んでいました。
幸い、私は恐怖への耐性が高いですが、苦手な人にとっては辛かったでしょう。
私達……サクヤさんとマカさんと一緒に参加したイベントですが、目が覚めれば墓地には私一人。
少し混乱しましたが、行くべき場所はすぐに分かりました。
なぜなら、人魂たちが私を導くように動いていたからです。
私はその後を追いかけました。
かなり歩きました。
同じような墓と枯れた木が並ぶ墓地を、ただただ歩きました。
歩くにつれ、並行する人魂の数も増えていたので、私が間違った方向へ進んでいないことは分かりました。
30分くらい歩いたでしょうか。
すると、簡素な墓から豪華な装飾を施された墓へと、景色が次第に変わりました。
そして、その中心に置かれている棺を見つけました。
見れば、人魂はその棺に吸い込まれるように消えています。
当然、私は棺を開け、中を確認しました。
棺の中には、王冠をつけた一つの頭蓋骨がありました。
《鑑定》などを使わなくとも、その禍々しさが伝わってきました。
頭蓋骨本体もさる事ながら、特に頭に付いている王冠から暗く黒いオーラが噴き出しており、何らかの呪いや怨念が確実に取り憑いているでしょう。
明らかに触れてはいけない物です。
いつもの私なら、ここで頭蓋骨を触ることをやめていました。
しかし、私には最近獲得したスキルがあります。
《清浄》です。
このスキルには状態異常を解除する能力があります。
この頭蓋骨に《清浄》をすることは効果的なはずです。
私は頭蓋骨に触れ、《清浄》を発動しました。
すると、瞬く間に頭蓋骨から伝わる禍々しさが霧散し、その王冠に輝きが戻っていきます。
これは成功でしょうか。
私はそう思いました。
そして、それは間違いではありませんでした。
『侵攻開始まで残り3時間32分。防衛情報は未確認。緊急収集を実行可能です』
頭蓋骨の口が動き、そう言葉を発したのです。
当然驚きましたが、私はすぐに言葉の意味を理解しました。
侵攻とは、恐らく人種プレイヤーたちのイベント開始のことです。
防衛……つまり私達は守る側、人種プレイヤーたちの敵になるということです。
この頭蓋骨は私達への救済措置、ガイドブックのような存在なのでしょう。
私は、キャラメイクの時にいたNPCと同じような存在だと推測しました。
そして、それならばこちらからの質問にも応答するはずです。
私はまず、サクヤさんと通信ができないか尋ねました。
推測通り応答がありました。
頭蓋骨の答えはYESでした。
これで完全な孤立は避けられました。
次に私が質問したことは、私達の状況についてです。
大まかに、なぜ別々なのか、なぜ人種プレイヤーの敵なのか、何をすれば良いのかを質問しました。
答えは返ってきました。
しかし、その返答はあまり意味のあるものではありませんでした。
私たちが別々である理由は、このイベントが元々そういうものであるため。
人種プレイヤーが敵である理由は、このイベントが元々そういうものであるため。
何をすれば良いのかというと、人種プレイヤーからの侵攻を4日間受け止めること。
私の質問に、頭蓋骨はそう答えたのです。
分かったことは4日間の防衛のみで、それ以外の具体的なことは何一つわかりません。
さて、どうしましょうか。
☆☆☆☆☆
【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)
【イベント1日目】
side:ルカ
「ラティ……ついにきたよ」
『ルカ。そうだね』
森エリアの少し奥、ちょうど街からは見えない場所で、私とラティはイベントの開始を待っていた。
約2週間。
私とラティは全力でレベリングと準備を行った。
クエストのクリア条件は、このイベントでサクヤを1位にしないこと。
それを達成するためには、サクヤと戦うこともあるかもしれない。
いまの私たちで……。
いや、いまの私たちなら勝てる。十分勝機はある。
『ルカ。エリアはどこにする?』
山村、墓地、湿林、洞窟の4つのエリア。
私たちとの相性を考えると、最もいいのは山村か湿林エリアのように思える。
私はラティにそう話した。
私よりも賢いラティならもっと良い意見があるのかなと思った。
「湿林か山村だけど、どっちがいいかな」
『難しい。ルカに決めてほしい』
しかし、どうやら私に従うみたい。
さてどっちがいいかな?
☆☆☆☆☆
【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)
【イベント1日目】
side:ガーランド
なんでこんなことに。
俺はそう思うと、心の中で大きな溜息を吐いた。
すでにイベントは開始されており、フレンド達は皆それぞれイベントエリアへと行っている。
生産プレイヤーの何人かは街に残って武器やら道具やらを売っていたりもするが、俺みたいなやつは……まず居ないだろう。
俺は現在、街に滞在しながら、自分でもよくわからない状況に立たされている。
場所は、とある庶民的なレストラン。
なぜイベントに参加せず、こんなところにいるのか。
……本当になぜだろうか、俺が一番聞きたい。
そんな現状を再確認するため、俺はさりげなく伏せていた顔を上げた。
しっかりと前を見れば、そこにいるのはバラザ師範。
そして右を見れば、ガッツリと女の格好をした奇怪な男。
左を見れば、顔や体におかしなペイントを施した少女。
側からみれば、ヤバい、としか形容できない様。
あのバラザ師範がまともに見える時点で……いやバラザ師範もまともではない。
なぜなら、バラザ師範の服は今日も汚いから。
一瞬でもまともだと思ったのは、俺の感覚が麻痺していたからだろうか。
……否定できない。
「で、何のようかしらー?」
大袈裟な素振りをしながらそう言う女装男。
見ていて色々と厳しい。
俺の口調はドワーフっぽく職人っぽく、出来るだけ厳粛なものを目指している。
が、こういうおかしな奴の相手はしたくない。そのためだったら口調を崩すことも厭わないほどに。
「まあそんな急ぐな。久しぶりに飯でも食おうぜ」
久しぶり、と言っているが俺は初対面。
旧知の中なら尚更、なぜ俺を連れてくる必要があったのか分からない。
「あららー? あんたが奢りー?」
「そうだ」
「珍しいこともあるものねぇ。なら遠慮せずぅー」
言われてみれば、確かに珍しいことだ。
俺が知る限り、バラザ師範は自身の懐が痛むようなことは絶対にしない。
「ほら、イズもなんか頼めよ。ガーランドも今日は特別だ」
「は、はい」
急に振られて驚いた。
イズと呼ばれた少女は無言で頷いている。
師範の奢り……か。
こんなこと、これから先に何度あるか分からない。
そんな貴重な機会を逃すのは勿体ないだろう。
師範も特別だと言っているし、遠慮はいらないな。
俺は自分の頼みたいものを頼みたい量だけ頼んだ。
すると数分も掛からずに食事が出てきた。
元々信じられないくらい早いが、今日はイベント初日だ。プレイヤーが全くいない分、早いのだろう。
食事が出された途端、イズと呼ばれた少女はすぐに食べ始めた。
そんなにお腹が空いていたのか。
バラザ師範と女装男も食べ始めている。
俺も慌てて食べ始めた。
普通にうまい。
「さぁて、本題を早く言ってちょうだいバラザー?」
料理に手をつけて数分後。
女装男がそう言った。
たしかに早く言ってほしい。
俺も何のために来ているのか分からないからな。
「少し頼みがあるんだけどなぁ」
勿体ぶった口調の師範。
そんなに言いづらいことなのか。
「早くいいなさいよー」
食事を口に運びながら話す女装男。
イズと呼ばれた少女は、興味なさげに黙々と食べ続けている。
「少し遠出しようと思っててなぁ」
遠出?
この街の外に行くのだろうか。
一応、バラザ師範はNPC。
街の外に出れるとは考えづらいのだが。
そう疑問に思ったが、バラザ師範の言葉は続く。
「重ね重ね頼み事になるんだが、エリーかイズ。どっちかガーランドの面倒を見てくれねぇか?」
「え?」
俺は食事を進めていた手を止めて、その場でフリーズした。




