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遊戯開始  作者: 羽ぐいす
2.交流と第一回イベント
91/106

準備?

お久しぶりです。


 【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)

 【イベント1日目】

 side:マカ



 目が覚めた場所は森だった。

 いや、普通の森じゃない。


 木は生い茂っているが地面に水がある。


 マカ的には嫌いじゃない感じだが、問題が一つあった。

 周りに誰もいない。


 レイクもサクヤも……。


 一緒にイベントに参加したはずなのに、どこにも見当たらない。

 

 

 「どこ行ったのよ……」



 ほぼ無意識に出てしまった言葉。

 その弱々しさに、ハッと我に帰るマカ。


 自分はなぜこんなに不安になっている?

 レイクはまだしもサクヤなんて要らないと思っていたのに……。


 ぷるぷる


 不意に気配を感じた。

 後ろを振り返る。


 すると、そこにはスライムがいた。


 淡い水色のスライムだ。

 可愛い。


 マカが魔物の種族としてスライムを選んだ理由は至極単純で、可愛かった、からだ。

 スライムという生物そのものが、マカにとっては美しくて可愛くて仕方がない存在。


 考えるまでもなく、ルカのようなサモナーといった方向に適しているだろう。

 ではマカはなぜ、自分自身がスライムになることにしたのか。


 それは彼女の性格によるものが大きい。

 

 サクヤの予想通り、マカは中学生だ。

 しかし、学校には親友と呼べる友達が居らず、マカ的には充実しているとは言いづらい。


 現実世界でマカは常々思っていた。

 

 『やり直したい。面白いことがしたい』


 と。


 そんな時、EOFの話を耳にした。


 これは神様からの贈り物だ、とマカは思った。


 もう一つの現実世界と言っても過言ではないEOF。

 この絶好の機会を逃す理由はない。


 当然、サービス開始と同時にログインしたマカ。

 だが、そこで問題が発生した。


 種族選択。


 先程も言ったことだが、マカには親友と呼べる友達がいない。

 そして同様に、今さら親友と呼べる友達を作れる自信もなかった。


 マカは絶対にソロとなれる種族になりたかった。

 現実世界との隔離を望んでいた。

 

 だから、すぐにゲームを始めることはしなかった。

 万が一でも、ゲーム内で現実世界の知り合いと出会うことを避けたかったのだ。


 マカはまず、学校で様子見を行った。もちろん友達には、マカがEOFをやっていることを伝えていない。

 

 マカが知りたかったことは、人気のない種族、誰も選んでいない種族、これだけだった。


 それとなく友達に聞いてみたり、ネットで情報も集めた。

 そして辿り着いた種族。

 

 それが魔物だった。


 

 「……そうよ。私は元々一人がよかったのよ」



 マカは、大事なことを思い出させてくれた目の前のスライムに、心の中で礼を言った。


 そして、レイクやサクヤのことを綺麗サッパリ忘れることにした。

 

 

 「まずは居場所ね……」



 周りを見ても、目に入るのは木と水。

 唯一、変わった景色があるとすればスライムくらいだ。


 ぷるぷる。ぷるぷる。

 ずっと震えている。


 まるで何かを伝えたいかのように……。

 

 

 「何か伝えたいの? 言葉わかる?」


 

 ぷるぷる。ぷるぷる。

 変わらず震え続けるスライム。


 マカは意思疎通を諦めることにした。

  

 気を取り直して、自分の取れる手段を確認する。

 レイクに言われていたことだ。


 『まずは自分の選択肢を見つけましょう』


 レイクと出会ってまもない頃、この言葉を言われた。

 まだマカに便利なスキルが存在していない頃のことだ。

 

 思えば、あの頃のマカは《触手》と《火魔法》という、今では全く使っていないスキルを使っていた。


 《触手》でボアの動きを阻害し、《火魔法》でダメージを与える。

 レイクのサポートがあれば、殆どボアに負けることは無かった。


 

 「ステータス……」


 

 マカは自分のステータスをもう一度見てみることにした。

 


_______________________________________

 ステータス


 レベル 22

 存在値 52

 名前  マカ

 種族  超吸収性涅生物兵器(ボトムレススライム)

 職業  兵士


 パラメータ


  HP336(∞)

  MP314(∞)


  速力158 筋力153 防力169

  器力169 精力169


 スキル

 〔種族スキル〕《次元吸収》LV 14《原子分裂》LV 21


 〔職業スキル〕《消化強化》LV46《決死》LV--


 〔通常スキル〕《火魔法》LV11《水魔法》LV12

  《触手》LV8《並列思考》LV26《美食》LV1

  《眷属命令》LV19《分身操作》LV19


 〔武技スキル〕



 SP153

 EP0

 PP21



 称号

 〈美食者〉〈変異者〉〈分裂者〉〈人格者〉〈非人道主義者〉


_________________________________________________


 

 

 「……ふぅ」


 

 よく分からない。その思いでいっぱいだった。

 グラフや表のようなものは苦手なのだ。


 こういうときにレイクさえ居れば、マカの良いところ悪いところを全て指摘してくれる。


 そのことを思い出すと同時に、さっきから自分がレイクやサクヤのことばかり考えていたことに気付いた。

 

 

 「うああっ……面倒くさいわね!」



 マカは考えることをやめた。

 

 元々考察することは得意ではなく、とりあえず実践してみる。当たって砕ける精神で生きてきたのだ。


 マカはマカ。当然だろう。

 

 

 「このスライムが何か伝えたいなら、眷属にするのが一番よね」


 

 思いついたら即実行。

 マカはどこかの狼と、根本的には似たもの同士なのかもしれない。

 

 ……本人たちは絶対に認めないだろうが。


 

 「《次元吸収》」


 

 マカは目の前のスライムを吸収した。

 

 突然だが、マカの《次元吸収》は次元を吸収できるスキルではない。

 正しくは、吸収したものをあらゆる次元に収納することができるスキルだ。


 次元という言葉の定義を正しく理解している者は少ない。

 そのため、もしサクヤが《鑑定》してみても、《次元吸収》の使い方は分からない。


 レイクでさえ完全に使いこなすことは難しいだろう。


 特殊な変異進化で得た《無限吸収》。その上位互換であるスキルはそれほど概念的なのだ。

 本来では発動させることもままならない。


 スキルの発動に必要なものは、所有者のイメージだ。

 だからこそ、サクヤの適当なやり方でもスキルは発動するし、レイクのような丁寧なやり方はスキルの効果を引き上げる。


 プレイヤーたちが思う以上に、このゲームは漠然としている。

 より抽象的な思考をできるプレイヤーこそが、このゲームを上手くこなせるのだ。


 通常、熟語で構成されるスキルは、熟語の数が多いほど強力なものが多い。


 レイクの ≪戦楽炎斧≫ や、ロイの ≪双剣乱舞≫。

 サクヤの《魔力操作》や《気力操作》など。

 

 どのスキルも、所有者にとって切り札となっている。

 

 長々と説明したが、結論として言いたいことは一つ。

 マカの《次元吸収》は他のスキルと比べても、ぶっちぎりの性能だということだ。


 

 「《眷属命令》」



 《次元吸収》で体内に取り込んだスライムを、《原子分裂》で外に出し、《眷属命令》で支配することで、見事に傀儡としたマカ。


 与えた命令は、私を導け、というもの。


 ぷるぷる。ぷるぷる。


 了解。と言ったように震えたスライム。

 すぐに動き出した。

 

 

 「そっちの方向なの?」



 ぷるぷる。


 頷くように震えた。

 マカは目の前のスライムに付いていく。


 

 「……遅いわね」


 

 ほんの数歩で我慢できなくなったマカ。

 スライムへもっと速く移動するよう命令する。


 ぷるぷる。


 頷いたようだ。


 スライムは動き出した。

 しかし、先程と速度は変わらない。


 

 「それが精一杯なの?」



 ぷるぷる。

 

 どうやらこの速度が限界のようだ。

 

 決して遅くはない。

 だが、レイクとサクヤの速度しか知らないマカにとって、スライムは遅すぎた。


 同時にスライムの目的地が近いようにも思えない。

 


 「どうしようかしら……」



 水のある場所を迂回して進むスライムに付いていきながら、マカは考えた。

 

 このうんざりする速度をどうにかできないか、と。


 そして浮かび上がったもの。

 それは皮肉にもサクヤだった。


 サクヤが使っていたスキルに、空中浮遊をできるものがあった。

 マカはそれで二回ほど空を飛んでいる。


 アレをやればいい。

 マカはそう考えたのだ。


 

 「まるまる真似るのは無理……けど、私には《原子分裂》と《分身操作》がある」


  

 マカは自分のアイディアを実践してみる。


 レイクに言われたイメージは水だった。

 しかし、水では実体がないため、サクヤのように浮くことはできない。


 だから、イメージするのは物体。

 

 マカを乗せることができる物体だった。

 


 「《原子分裂》……《分身操作》」



 細かく分裂させたスライムを操り、長方形に変形させる。

 イメージしたのは絨毯だ。


 空を飛ぶ魔法の絨毯。

 やはりマカも女の子だ。


 

 「《眷属命令》」


 

 大まかな形を作れば、あとは《眷属命令》で固定し、まとめる。

 なんとも便利なスキルたちだ。


 マカは目の前の絨毯に乗ってみる。

 単色のため見た目は絨毯ではないが、マカにとっては立派な絨毯。


 

 「けっこう上手くできた?」


 

 絨毯にはしっかり乗ることができた。

 試しに跳ねてみる。


 落ちることもなく、マカの身体はスライムらしい弾力に押し返された。


 成功だ。

 これを使えば移動は大幅に短縮できる。


 

 「さすが私」


 

 ぷるぷる。

 マカと、マカが作り出した絨毯が震えた。


 

 「ほらあんた、これに乗ってよ」


 

 のろのろと進むスライムに、マカは《眷属命令》で指示をする。

 スライムは大人しく絨毯の上に乗った。


 あとは《分身操作》で浮き上がるだけだ。


 

 「《分身操作》」


 

 マカは絨毯を構成するスライム全体にスキルを発動させるよう意識する。

 どれか一体でも違う動きをした瞬間、この絨毯は崩壊するのだから、慎重にスキルを使わねばならない。


 しかしそんな危惧とは反対に、絨毯は問題なく動いた。


 ゆっくりと木々の上まで上昇する。

 すると、スライムの向かっていた方向に、一際目立つ大木が聳え立っていた。

 

 

 「きっとアレね」



 マカは少しずつ絨毯のスピードを上げて行く。

 いきなり全速力で飛ぶほど、マカは馬鹿ではなかった。

 

 

 「この子、危ないわね」



 マカにとっては、それほどのスピードを出しているわけではないが、眷属のスライムにとっては違ったらしい。

 見てみれば、絨毯に必死にしがみついていた。


 これではいつ落ちても不思議ではない。


 

 「《次元吸収》」



 マカはスライムを《次元吸収》で収納した。

 吸収したわけではないので、また《原子分裂》でいつでも外に出せる。


 マカは絨毯のスピードをさらに上げた。


 大木まではかなり遠く、もしあのスライムの速度で行っていれば、どれだけ時間がかかったことか分からない。

 マカは自分のアイディアを褒め称えた。


 ……10分くらい飛んだだろうか。

 大木と思っていた木が、今ではマカの視界に収まりきらないほど大きくなっている。


 もしサクヤがこの場所に居れば、これが世界樹か、とコメントすることは間違いないだろう。

 

 そしてサクヤならば、この大木に何かある、と思い《鑑定》などを使って周囲をくまなく調べるだろう。

 それが一般的だ。


 しかし。


 マカの感性や倫理観は少し……いやかなり特殊であった。


 なぜなら。

 


 「この木、《次元吸収》できそうね」



 何を思ったのか、この大木を吸収しようとしたからである。

 


 「《次元吸収》」



 そして大木が消えた。



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