戦闘?
【ログイン34日目】※ゲーム内時間換算(27日)
随分と遠くに来たな。
街を出てから、もう何分も経っている。
《地図》で確認すると、俺の現在位置は森エリアの端。
山脈の山肌はまだ見えずとも、森の隅のほうまでは確実に来ていた。
前方にはラティが走っている。
《気力操作》と《魔力操作》で確認しているので、付かず離れずの位置を今も保っている。
が、少し面倒になってきた。というのが本音だ。
ラティが止まる気配はない。
プレイヤーの目は当然もうないので、速力に任せて捕まえてもいいだろうか?
俺はさっきからずっと考えていた。
捕まえた方がいいかどうか、について。
正直なところ面倒なので捕まえたいが、冷静に考えれば捕まえてどうするんだ、ということに先程気づいた。
俺はラティのテイム主でも何でもない。
捕まえたところで……何も出来ないのだ。
しかし、俺は今もラティを追いかけている。
その理由は単純な好奇心だ。
ラティが一体どこを目指して走っているのか。
それだけが気になったのだ。
ん?
俺の《魔力操作》と《気力操作》で見るところ、ラティが止まったようだ。
何かあるのか?
俺は現在《隠密》を発動させていない。
街からそのまま追いかけているので、いきなり消えたりしたらラティに怪しまれると思ったからだ。まあ、ラティが怪しむという思考を出来るかどうかは分からないが。
よって、俺はこの状況でもコソコソとラティの様子を伺わずに、ラティが静止した場所へと向かった。
鬱蒼とした森エリアでも、それなりの近距離ならば互いの姿くらいは見える。
ラティも俺に気付いたようだ。チラッと見たからな。
「ラティどうしたんだ? いきなり走ったりして」
意味がないと分かっていても、とりあえず言ってみる。
やはり、ラティの反応はなし。
何を思っているのか、ずっと俺を見ている。
ほんとにどうしたんだ?
いつも……というより、さっきまでのラティなら直ぐにプイッてするはずなのだが。
疑問に思い、ラティを見るが何も分からない。
そして、ラティはまだ俺の方を見ている。
「ルカが気になるのか? ルカは――」
俺が、話そうと息を吸い込んだ瞬間。
俺目掛けてラティが襲いかかってきた。
「ラティ!? 俺は敵じゃないぞ!?」
ラティの鋭い爪を避け、俺はラティに叫んだ。
いきなり爪で攻撃してくるとか……いやラティなら有り得るか。
だが、いきなりはおかしい。
何らかの状態異常にでもかかっているのか?
ふと疑問に思い、真偽を確かめるために《鑑定》してみるが、表示されたステータスはあのハテナマーク。
このウルフがラティということは間違い無いな。
それを認識し、さらに疑問が深まった俺。
しかし、その先を考え出そうとした瞬間、再度ラティの爪が振り下ろされる。
が、俺はそれを完璧に避けた。
初撃は完全な不意打ちだったため反応が多少遅れたが、攻撃してくると解れば対処は容易い。
なぜなら俺には《気力操作》と《魔力操作》があるのだから。
この二つのスキルによって、ラティの動きは文字通り手に取るようにわかる。
攻撃のタイミングや軌道、間合いすら把握済みだ。
このままなら、俺の集中力の問題すらなく永遠に避け続けることが可能だろう。
《回避》を使うことはない、と断言できるほどに。
だが、まあ。
《回避》のスキルレベル上げのために、《回避》を使う。
不思議だが、このスキルを発動すると身体が自動的にラティの攻撃を避けてくれる。しかし、再発動までの時間は数秒かかるので、連続で攻撃されたら危ない。
俺が自分で避けきれないような攻撃には、有効となるだろう。
性能的に優秀なのかは分からないが、俺的に保険が出来た気がするので、良いスキルだと思う。
脱線した思考の中、ラティの《爪撃》? を避けながら、さてどうするか、と俺は考える。
ラティを倒して良いだろうか、と。
ルカには申し訳ないが、攻撃してきたのはラティだし正当防衛はたぶん成立する。
一思いにやっても大丈夫だと思うのだ。
ステータスは分からないが、ラティの攻撃を楽々と避けれている時点で、俺の方がパラメータ的に強いのは明白。
俺の背中にある直剣でズバッとやれるだろう。
うーん。
……あ、そうだ。
いい案を思いついた。
新しく取得した武技スキルたちを練習しよう。
≪切断≫と≪圧殺≫、この二つは《鑑定》すらしていない。
取得したタイミングがルカとパーティを組んでいる時だったので後回しにしたのだ。
なので、いま《鑑定》する。
ラティの攻撃は目を瞑っても避けられると思うので問題はない。
というかPvPで目を瞑ったりしたら物凄く効果的な煽りになりそうだな。
俺は《鑑定》を発動させた。
ふむふむ。なるほど。
≪切断≫は純粋に貫通力が上がる武技スキルだった。
そして、使い勝手の良いことに《爪撃》以外の攻撃にも適用されるらしい。
俺はてっきり、《爪撃》で取得した武技スキルだから《爪撃》専用なのだと思っていたので、これは嬉しい誤算となった。
インターバルも数秒なので、使う場面は多くなりそうだ。
続いて≪圧殺≫は、とても面白いスキルだった。
効果は、自分の周囲全体へ衝撃波を放つというもの。
そして、この衝撃波によってダメージを与えることも出来るらしい。
恐らく、イメージは覇○色。
物理判定がある覇○色だと思えば良いだろう。
更に。
この武技スキルは動物にしか判定がないらしい。
森エリアの木などは勿論、魔法もすり抜ける。
プレイヤーや魔物のみに当たる衝撃波……。
少し本気を出そう……とか言って発動させてみたい。
だが、このスキルのインターバルは1時間。
戦闘時において軽々と使うことができない。
使い勝手というか使い所を見極めなければいけないスキルだな。
だが、純粋に俺が使ってみたいので使うことは多くなりそう。
こういうスキルって男の子にとっては大好物だろ?
「ウォン!!」
俺の意識がラティの攻撃へと全く向いていないのに気づいたのか否か。
苛立ったような咆哮を上げるラティ。
呼応して次々と攻撃が繰り出されるが、俺は難なく躱し大きく後退して距離をとった。
と同時に、背中の剣を抜く。
心地よい金属音とともに抜剣。
剣先はもちろんラティだ。
俺が武器を構えたことで警戒したのか、ラティは俺との距離を詰めようとしない。
俺から攻めるか?
このまま膠着するなら……。と思ったが躊躇う。
なぜなら。俺は剣道を齧ったこともなく、剣に関しては完全な素人。
相手の攻撃を受けてカウンターを合わせることは出来るが、自分から攻撃するとなると少しハードルが高い。
よって、ラティから攻撃してくれると有難いのだが。
しかし、そんな願いは届かず。
ラティが動く気配はない。
仕方ないか。俺から攻めよう。
HPが高い俺なら、多少なりとも攻撃されても大丈夫なはず。
俺は様子見のつもりで突撃する。
レイクさんを見習って片手で剣を握り、水平に振り払った。
ラティはそれを躱す。
俺はカウンターされないために追撃を仕掛けた。
深く考えずなんとなくで剣を振る。
筋力値が高いので、剣に重さは感じないし疲れない。
ラティは先程の俺のように回避ばかりしている。
爪で受け止めたりもせず繰り返し避ける。
自分の攻撃が馬鹿にされているようにも感じるが、事実ラティには一度も命中していない。
これがレイクさんなら違うんだろうなぁ。
1週間前の森エリアでの戦いっぷりを思い出しながら、自分のPSの低さに溜息をつく。
パラメータは俺の方が高いにも関わらず、ラティに攻撃を避け続けられているのは恐らくそういう事なんだろう。
剣を両手で握りなおす。
ラティが反撃してこないなら、それはそれで好都合。
武技スキルを試させてもらう。
まずは≪圧殺≫からだ。
≪切断≫を発動させても、攻撃を避けられては意味がないと判断した。
本当は、面白そうな≪圧殺≫を後にしたかったが仕方ない。
少し本気を出してやろう!
俺は武技スキル≪圧殺≫を発動させる。
次の瞬間。
自分の体を中心に、透明な何かが全方位に放出されるのを感覚的に理解する。
そして、それが自分の《念動力》であるということも同時に理解した。
俺の操作ではないので、スキルとして自動的にやっているのだろう。
《念動力》ってこんなことも出来たんだな。
≪圧殺≫の衝撃波を受けたラティは、体を大きく浮かせて吹っ飛んだ。
側から見たら、ラティだけが何かにぶつかったようで奇怪だろう。
そして、俺はもう一つ大事なことに気付いた。
≪圧殺≫の範囲についてだ。
この衝撃波が、俺の《念動力》によるものだと知覚できたことで、衝撃波がどこまで広がり消滅したかを確認できたのだ。
効果範囲は、俺を中心として半径約10メートル。
意外と広かった。
この範囲なら敵をまとめて吹っ飛ばせそうだが、味方を巻き込む可能性もあるため、使い勝手が良いかどうかは微妙といったところか。
実際に使ってみなきゃ分からないな。
かなりソロ向きの武技スキルなのは分かったが。
ラティは木の幹に打ち付けられる。
ラティのHPバーを確認すると、すでに60%ほど減っていた。
≪圧殺≫強ぇー。
ラティの具体的なHPが分からないため、数値として何ダメージ与えたのかは分からない。
しかし、ボアを易々と倒すラティを一撃でこれだ。
レベルの低いボアやウルフなら即死かもしれない。
次は≪切断≫を試してみよう。
ラティは地面に蹲っている。
立ち上がる気配はなく、激痛に耐えているようにも見える。
痛覚があるのか?
考えてみれば、痛覚を制限されているのはプレイヤーのみだ。
それに、普通の魔物は痛みを感じるだけの知能すらない。
マーナさんとかヒル辺りは痛みがあるのかどうか知らないが、前提として純粋な魔物なので痛覚はあるんだろう、多分。
ということは。
ラティも同様に、痛みを覚えるだけの知能がある。ということか。
うーん……。
ラティに武技スキルを試すのが躊躇われてきたな。
痛覚があるということを分かった上で、≪切断≫なんてスキルを好奇心で試すほど俺の性格は歪んでいない。
いくら正当防衛でも、やって良い悪いはある。
やっぱり武技スキルはやめるか。
トドメもささない。
≪圧殺≫の効果を試させてもらったことだけでも感謝。
俺は剣を握っていた手を緩める。
そして、背中に剣を納めた。
今だに、ラティの顔は地面に伏せている。
俺は《地図》で街の方向を確認し、歩き出した。




