続く敗北
【ログイン34日目】※ゲーム内時間換算(27日)
は、速いっ!
流石、俺と同じステータスを持つ相手。
速力368を全力で出している。
目にも止まらぬほどの速さで俺の前まで来ると、素早く右手を振りかぶる。
殴ってくる気か。
思えば、俺は武器を何も持っていない。
よって、この偽物にも使える武器は無いのだろう。
その部分は不幸中の幸いだったな。
俺の思考を中断するように、右ストレートが迫る。
ここは、素早く避けてカウンターが望ましい。
しかし。
完全に後手となった俺に、今更この攻撃を避けることはできない。
なので。
仕方なく左手で受けることにする。
全力で打ち込まれる右手に、左手を合わせるように動かす。
攻撃を外すことなく受け止めた。
瞬間、左手に物凄い衝撃。
筋力365はこんなに重いのか……。
だが、驚いている暇はない。
俺はレイクさんを真似た上段回し蹴りを繰り出す。
見よう見まねだが、形は中々良いと思う。
俺の攻撃は相手の肩あたりに当たる。
と思った。
現実は違ったのだ。
俺の攻撃は相手の体を擦り抜けた。
確かに相手の体に当たっているが、擦り抜けた。
どうゆうことだ?
あまりの出来事に一瞬、動きが止まる。
そして。そこを突くように、拳が放たれる。
放たれたのは……相手の胸から。
合計三本の腕が生えている。
そんな攻撃を予測できる筈もなく、俺は防御も出来ずに喰らう。
俺の身体が宙に浮く。
3メートルほど吹っ飛んだ。
だが。直ぐに体制を整え、相手の出方を伺う。
しかし。
又も突進してくるかと思いきや、相手は静止している。
……さっきの腕が3本生えたように見えた現象。
アレに心当たりのあるスキル。
俺はそれに気づいた。
恐らく≪残像≫だと思う。
文字通り、自分の残像を作り出すスキル。
見た目や気配は瓜二つだが、実体は存在しない。
そして。
物質としては存在するのだ。
どうゆう事かと言うと。
残像に水を掛ければ弾くし、魔法は当たる。
しかし。プレイヤーや魔物などの、生きている者の接触は擦り抜けるのだ。
これはとても使えるスキル。
それ故に厄介。
俺の攻撃を擦り抜けた原理はこう。
≪残像≫を発動し、体を後ろに傾ける。
すると。
俺からは残像が壁になり本体が見えない。
なので、残像を本体だと思い攻撃する。
しかし、その攻撃はもちろん当たらない。
後は、予想外の状況に呆然としている俺に、残像を貫通して殴るだけだ。
≪残像≫を応用した見事な策。
俺はそれにやられた。
……PSの差を早速見せつけられてしまったな。
少しへこんでしまう。
まあ、そんな事も言ってられない状況な訳だけど。
俺を吹き飛ばした偽者は、ファイティングポーズを取っている。お前ふざけてんのか? 馬鹿にされてるみたいで何かムカつく。
俺は勢いに任せて突進する。
今度はこっちの番だぁ!
相手との距離を詰め、ボクシングみたいなノリで右ジャブ。
参考になる格闘がこれしか浮かばなかったのだ。
しかし。
偽者は俺の遅くはないジャブを軽々避けた。
そして、そのまま流れるようにカウンター。
俺の顔面にヒット。
痛みはないので、直ぐに立ち直る。
今度は左ストレートは放った。
それも避けられる。
そして、同じくカウンター。
よ、避けられねぇ。
暫くボクシング擬きをしたが……1ヒットも当たらない。
全て躱されカウンターで返された。
そして、その頃の俺は完全に自信を無くしていた。
パラメータが同じなので、HPは大して減らない。
だが、心のHPはもうとっくに0だった。
魔法を使っても相殺され、格闘ではフルボッコ、永遠に逃げようとしても何故か追い付かれる。
パラメータは一緒なんじゃないの!?
《人化》を解いて狼になっても結果は一緒。
逆に《爪撃》や《噛撃》を使われて更にボコされた。
というか、武技スキル強すぎて困る。
≪残像≫の応用の仕方は分かったが、やられる身としては辛過ぎる。
段々と、残像なのか本体なのか分からなくなって疑心暗鬼に陥るほどには追い詰められてた。
何より、≪残像≫を使われたカウンターが痛い。
例えるなら、強制的に先出しジャンケンをやらされている感じだ。
俺の攻撃が通過してから、あの偽者は攻撃してくる。
そりゃ攻撃が当たるわな。
正直に言うと、完敗だ。
俺のHPが一桁に入った。
幾らHPが減りにくいといっても、こんなに殴られてたらHPは枯渇する。
せめてもの救いは武器を持っていない事だ。
武器があったら瞬殺だっただろう。俺が。
そんなことを考えながら、ぼんやりとHPを見る。
今も、偽者は攻撃してきている。
俺はそれを何とか避けているのだ。
避ける動作だけなら、PSは関係ない。
それに、こっちから攻撃しなければ≪残像≫によるカウンターも受けない。
そう考えての行動だ。
しかし、現実は違う。
何故か俺は被弾するし、避けきれない部分が当たる。
不思議だねぇ。
俺なりに最適な回避をしてるつもりなんだが……。
普通のAIを持つ偽者を相手に、一枚も二枚も下手らしい。
……あっ、躱し切れない。
偽者がブリーズアローを撃ちながら突進したため、ブリーズアローの処理に遅れた俺が、無防備な体を晒した。
偽者の右手が、俺の腹を抉る。
雀の涙ほどだったHPが消し飛ぶ。
その瞬間、俺の視界は黒く染まった。
☆☆☆☆☆
目を開けると鏡の前だった。
色素が濃い。
……どうやら戻ってきたようだな。
「へぇ、どうだったの?」
「……強かった」
「ふふ、まあそうね。ちなみにモードは何?」
「ノーマルでやった」
「ノーマルぅ? そりゃあ強いよ。普通はイージーからでも大苦戦するの。ノーマルなんて……無理無理」
そうなのか……。
というか、それを先に言って欲しかった。
知っていれば俺もイージーにしたのに。
心の中で文句を言う。
もし、わざとだったら承知しない。
「もう一回やる?」
「やりたくない」
「やらない、じゃないのね。なら、情報の取引といきましょうか?」
別にやりたくないでも良いだろ。
何か見透かされた気がして嫌な気分だ。
しかし。
逆に、ノウズは何処までやれるのだろうか?
プレイヤーランキング6位なら相当なステータスの筈だが、それに見合うPSがあるのかどうか。
まあ、確かめようのないことだがな。
本人に聞いても嘘をついてたら意味ないし。
「ああ。で、何を話せばいいんだ?」
「そうだねぇ。君の正体は話してくれなさそうだし……プレイヤーネームからかなぁ?」
まるで、こちらの事を既に分かっているかのような口振り。
そして、いきなりピンチだ。
……何か最近こういうの多いな。
全部気のせいだと信じたいが。
プレイヤーネーム。
シンプルな内容で、普通のプレイヤーならさして問題にはならない。
だが、俺は別。
寧ろ致命的な情報になり得る。
サクヤ、と言ったら有名らしいしな。
プレイヤーランキング6位のノウズなら、知っていて当然だろう。
ましてや情報屋なのだ。
知らないなんて事は絶対に無い。
主な選択肢は二つ。
普通に誤魔化すか。
言えない、と拒否するか。
この場合、リスクが大きいのは拒否する方だ。
いつもならこの選択肢は取らない。
しかし、今回は別。
このノウズというプレイヤーは、一般的に比べてかなり鋭い。
下手な誤魔化しは返って自分の首を締めかねないのだ。
どっち道情報を落とすことになるから、被害が少ないほうを選ぶのが吉。
俺はそう考えた。
「言わない」
さっきの事を学習して、言いたく無い、とは言わなかった。
成長したのだ。褒めて欲しい。
「ふーん。じゃ、レベルは?」
「それも言わない」
レベルも言わないぞ?
だって、正直に答えても1だからな。
ここは信憑性を持たせるために敢えて言わない。
ネームは言わないでレベルは言う、ってのもおかしな話だからだ。
「うーん。中々難しいわねぇ」
「存在値も言ってくれないでしょ?」
「もちろんだ」
存在値が一番アウトだろう。
84なんて数字は俺以外にいるはずが無い。
直ぐに特定されて、終わりだ。
当然ながら黙秘を選択。
「……これ以上、情報を引き出せそうも無いわね。これから言う事は、全部私の独り言だから君は答えなくていいから」
「私の予想だと、君はプレイヤーランキング1位の " サクヤ " 。何かしらのスキルで人になる事が可能になり街へ来た。その目的は観光かリア友と遊ぶこと、が濃厚かな。人目につかない路地にいた理由としては十分だし、明らかに初心者のパラメータじゃないのに初心者振る理由にも説明が付く。中身は高校一年生くらいかな?」
……。
……合ってる。完全に。
体から汗が止まらない。
実際に汗は出ていないだろうが、今の心境としては正しい。
や、やばいぞ。
黙ってるだけじゃ不味いのは流石に分かる。
しかし、何を言えば良いのかが分からない。
とりあえず反論すればいいのか? だが、それで更に情報を与える事にならないか? 黙秘を決め込む? 否定できないという事は肯定と捉えられるのでは?
俺の頭の中で、ぐるぐるとハテナマークが回る。
完全にパニックだ。
……いや、落ち着くんだ。落ち着け俺。
自己暗示をかけるが虚しく。
一向に効く気配はない。
その間にも、沈黙の時間が過ぎる。
考えれば考えるほど追い込まれていく。
ど、どうすれば……。
「もし、君が " サクヤ " だって認めてくれたら……100万G出そう。そして、私専属の情報提供者になって欲しい。待遇は厚いよ? ちゃんと贔屓もするしね」
ひゃ、100万G!?
マジで言ってるのか?
そもそも、そんな額が出せるとも思えないが……。
もし、本当だったらかなりうまい話では?
「そ、そんな額が出せるのか?」
「その時点で認めたようなものだけど……出せるよ」
「…………な、なら、認めよう」
「じゃあ、交渉成立だね!」
肉弾戦も頭脳戦も大敗北。
今日は本当に良いとこなしだなぁ。
結局、ノウズのいいように乗せられた気がするし。
ただ、自分の実力がまだまだなのはよく分かった。
反省点も沢山ある。
今日は、沢山の課題と沢山の金を得た事ので良しとする。
じゃなきゃ、もうメンタルが……。
悲観的に考察し楽観的に行動する。
何かの本で見た言葉を思い出した。
うん、良い言葉だな。
それに習うとしよう。
それから。
俺はずっと、心の中で言い訳を並べていたのであった。




