キャラメイク2
「ど、どういうことだ?」
『どの事を言ってるのよ』
おっと、驚きすぎてよく分からない質問をしてしまった。
「いや何でもない」
俺は少し冷静になり、GMにそう言った。
とにかく、何故GMがここにいるんだ?
普通に考えると俺の、魔物になれるのか? という質問のせいという事になる。
未だに混乱しているが、せっかくなので聞ける事は全て聞こうと思う。
「で、魔物になれるのか?」
『なれるわよ。大半のプレイヤーがこの質問をしないけどね。というか質問自体をするプレイヤーが少ないのよ』
なるほど、日本人は勘がいい。
という発言はそういう事だったのか。
「何故、GMが出てくるんだ?」
『AIじゃ、詳しい説明が出来ないからよ』
なるほど。
単純にAI性能の問題だったらしい。
『じゃあ、説明するわよ』
「あ、ああ」
どんどん話を進める気らしい。
もう少し聞きたいことがあったのだが。
『まず、魔物は街には入れないの。中身がプレイヤーでもね。そして、魔物だと装飾品なんかを装備出来ないのよ。その補正の分、人型のプレイヤーと比べた時にステータスが低くなってしまうの』
いきなり爆弾を落とされた。
……これは、もの凄いデメリットだな。
街に入れないのは分かるが、ステータスの補正がなくなってしまうのが痛いな。
ステータスの差はかなり大きい筈だ。
攻撃力、防御力に関わってくるからな。
確かにこれだけデメリットが強いと、魔物をやめてしまうプレイヤーが多いのは当然だな。
ということは魔物プレイヤーの数はかなり少ないのか。
『次だけど、人種のプレイヤーから見た魔物は普通の魔物かプレイヤーの魔物か分からなくなっているわ』
なるほど。
これは……魔物になりたく無い筈である。
仮に、俺が魔物を選んで他のプレイヤーにキルされたとしても、そのプレイヤーがPKにはならないって事だ。
俺が魔物なのだからな。
当然っちゃ当然だが酷いことである。
魔物の生き辛さが極まっているな。
それにしても、デメリットが多すぎないか?
こんなの魔物をやらないでくれ、と言っているようなものだぞ。
リアルに作られている弊害か?
良いのか悪いのか分からないな。
『それで確認だけど、本当に魔物でいいの? 今ならまだ、変えられるけど?』
「ああ、頼む」
俺は少し悩んだあと、答えを言った。
すると、初めてGMは驚いたような顔をしたのだ。
そんなに意外だったのかな?
『本当に!? 他にもこの説明をした人はいたけど、みんな普通の人種を選んでたわよ?』
「ああ、本当だ」
当然である。
逆に、ここで選ばない筈がないのだ。
魔物になる事に悩むことはない。
どんな魔物になるかは悩むけどな。
魔物スタート。
面白そうじゃないか。
しかし、人種スタートのプレイヤーが圧倒的に多いのだろう。
まあ、それはしょうがない事だ。
俺の中では割り切っている。
『本来なら魔物になるのを止める為に私達が直々に説明しに来ているのに……』
GMが困っているようだ。
しかし、驚きの新事実である。
魔物になると何か不都合でもあるのか?
「止めなくていいのか?」
本当に不都合があるならば、ここで止める筈だ。
『あくまで、プレイヤーの自由ってなってるのよ。このゲーム』
なるほど。
ただ単に魔物プレイすることが厳しいだけのようだ。
親切な運営である。
わざわざ説明をして、アカウントの作り直しをするプレイヤーを減らすための配慮なのだろう。
まあ、もともと言われなくても自由にやるつもりだったけどな。
それは今でも、魔物になったとしても変わりはしない。
楽しむだけだ。
『じゃあ、説明の続きをするわよ。まず、メリットの事だけど、隠しパラメータの食量ゲージが存在しないわ。魔物は空気中の魔素を取り込んでいるって言う設定だし』
ん? 隠しパラメータ?
さらりと重要な事を言わなかったか?
てか、説明の続きがあるのか?
てっきり、メリットは無いと思っていたのだが。
「隠しパラメータって何だ?」
とりあえず、1番聞きたかった事を聞く。
『ステータスに表れない数値のことよ。食量ゲージはお腹が極度に空くとステータスが下がる、という仕組みになってるのよ。ちなみに、この情報も魔物側のメリットよ』
うん。
やはり重要な情報だった。
GM曰く、他にもレベルアップ時のステータス上昇に関係する隠しパラメータも存在しているようだ。
危うく聞き逃すところだった。
「その情報を今教えてもいいのか?」
素直に気になったことだ。
今、種族を変えることも出来るのではないか?
『大丈夫よ。もう魔物にしかなれないように設定してるから。あ、デメリットまでは誰にでも教えるわよ』
おお、流石GM。
やっぱり親切では無いらしい。
デメリットだけを先に説明するとは。
抜かりなく意地の悪いことをする。
『じゃ、種族を決めて貰おうかしら』
そして、問題の種族決めだ。
魔物と言っても種類がたくさんある。
ゴブリン、オーク、スライムなどの代表的な魔物から、カニ、サカナ、鳥、ライオン、トカゲなどの魔物までいる。
そこに昆虫、魚、鳥、なども加わるのだ。
多すぎるくらいだと思う。
人種に比べて魔物の種族の多さも、魔物プレイヤーのメリットなのだろうか?
判断に迷う所である。
この中から1つを撰ぶ訳なのだが、どれにしよう?
……
…………
……………………
………………あ、そうだ!
「ランダムって有りなのか?」
『まぁ、有りだけど。職業と違って直接のメリットは無いわよ?』
メリットは無いのか。
本当に、選べないならランダムって事か。
「じゃあ、ランダムで」
『分かったわ。あ、何になっても自己責任よ』
「大丈夫だ」
何になっても後悔はない……と思う。
流石に虫とかだったら無理かもしれない。
神様、いやGMに願うとしよう。
お願いだから虫はやめてくれ。
GMが何か操作している。
お、システムウィンドウらしきものを出した。
ランダム選択をするようだ。
『決まったわよ』
何になったのだろう。
虫だけは嫌なのだが。
『 " ウルフ " になったわよ。良かったじゃない、色物の種族じゃなくて』
どうやら当たりを引いたらしい。
ウルフか。
うん、カッコよくて良いじゃないか。
虫よりは何倍もマシだ。
そして、ウルフの場合には最初からスキルが存在しているらしい。
種族スキルというやつだ。
ちなみに一部の虫には存在していない。
本当に虫でなくて良かった。
種族がウルフというのは強力なのだろう。
ランダム選択で良かったのかもしれない。
サクヤでウルフか。
良いんじゃないかな?
次は、職業決めだ。
「魔物でも職業があっていいのか?」
『そこは平等よ』
答えが怖かった質問をした。
しかし、幸いにも返ってきた答えには安心できた。
魔物に職業は無い、という答えじゃなくて本当に良かった。普通にあり得そうだからな。
まあ、確かに職業があるのと無いのではステータスの補正にも大きく関わってくるのだろう。
職業があるのは当然ということか。
魔物が職業を持つというのも違和感があるけどな。
で、何にするか。
説明を見ると、職業はランダム選択をすると中位職業を含めたランダムになるという。
それだけのリスクがあると注意されているが、中位職スタートというのはかなり大きいだろう。
何せ、1段階強い状態で始めることが出来るのだからな。
そういう訳で、俺はランダムを選ぶ。
種族でいいのが当たったので、今日ならランダムでも良い職業が出るような気がする。
「職業もランダムで頼む」
『はあ、分かったわよ』
少し呆れられてしまった。
真面目に選べ、ということか?
残念ながら真面目に選んでいないのでは無くて、真面目に選んでいるのだが決められ無いのである。
いい表現をするなら、優柔不断というやつだ。
GMはシステムウィンドウを操作している。
しばらくしたら、ウィンドウが消えた。
お、決まったのか?
種族決めの時よりも早い気がするのだが。
『 " 探偵 " ね。残念ながら中位職じゃなくて下位職になったわね』
なるほど。
世の中そんなに甘くは無いらしい。
あわよくば、と思ったのだがな。
それにしても探偵か。
ウルフで探偵ってありか?
相性はいいのだろうか。
とりあえず、初期スキルを決めなくては。
種族スキルと、職業スキルの確認もしないと。
種族と職業を決めるだけでここまで時間がかかるとは、流石に予想していなかった。
まあ、種族を魔物にした俺が悪いのだが。
もうキャラメイクを終えてログインしているプレイヤーもいるのだろうか?
俺にはそんな事とても出来そうにない。
はあ、後どれだけ時間がかかる事か。
出来るだけ早く決めたいのたが。
……うん。無理そうだな。