キャラメイク1
視界がクリアになる。
起動ワードを言ったらいきなり意識を持ってかれたので、かなり怖かった。出来ればこんな体験もうしたくない。
ログインする度に何回もこれを受けなければならないと考えると、少し嫌な気分になった。
俺が慣れれば問題はないのだが……不安だ。
周りを見てみると、学校の教室のような場所に立っていた。
こういう最初って、真っ白い部屋なのが普通じゃないのだろうか? 俺の偏見かな?
それとも、何か不具合でも起きたのか?
流石にそんなことはないと思いたいが、ゲームからのアクションが何もない。
[キャラメイクを行ってください]
「わぁ! なんだ!?」
何か不具合が起きたのか調べようとした瞬間に、耳もとに機械的な音声が聞こえて来た。怖いって……。
これは誰でも驚く。
俺の脳内に直接話していると言った方が適切だろう。
こいつ、俺の脳内に直接……。
茶番だ。一度やってみたかった事の1つだ。
「まったく、この先が不安に……ん?」
キャラメイク選択が出来るという事は、何の問題もなVRMMO内にダイブ出来ているという事である。
それは感動している。
しているが。それにしてもこの世界……リアルすぎないか?
教室内の黒板、チョーク、椅子、机に窓ガラス、外の景色、どれを見ても現実のものと変わらない。
いくら最新の技術力でもここまでのクオリティを出せるものなのか?
なるほど。
確かに、説明書に書いてあった通りの世界。いや、それ以上だな。
……ワクワクしてきた。
この世界が本物のもう一つの世界ならば、あの説明書に書いてあった通りの事が本当に出来るか――
[キャラメイクを行ってください]
おっと、機械に急かされてしまった。
とりあえず色々決めてしまおう。
「ふむふむ」
さっきから左上に表示されているアイコンをタップしてみる。視界は常にAR状態のようだ。
すると、選択画面が表示された。
しばらく、項目を確認してみる。
なるほど。
これは……
「多すぎるな」
全て見ようとするとかなり時間が掛かってしまいそうだ。
まずは、大きな項目だけでも見て行く。
こんな事ならちゃんと説明書を読んどけば良かった。
俺は早くも少し後悔した。
☆☆☆
よし、だいたい把握した。
やはり全て見るのに時間が掛かってしまった。
ここで決められるステータスにはプレイヤーネーム、種族、職業、初期ステータス、初期スキルがあるらしい。
一つずつ説明していく。
・プレイヤーネーム
文字が入っていれば、何でも良いらしい。
英語などの読めない文字があれば、自動的にプレイヤー本人の母国語へと変換されるみたいだ。どういう仕組みなのかは謎だが。
・種族
初期選択ができるのは主に人、エルフ、ドワーフ、獣人、と分けられている。
他の種族も表示されていたが、これら以外はあまりオススメされていなかった。
それぞれの特徴を言っていくと、
人は器用貧乏。育てれば安定した強さになりそう。
エルフは魔法向け。かなり誘惑される種族だな。
ドワーフは生産向け。生産職はこの種族だろう。
獣人は物理向け。凄く怖そうである。
レベルを上げていけば、恐らくだが他の種族にもなる事が出来るのだろう。
流石に、この4種類のみという事は無いと思う。
というか思いたい。
実はこの他にもなれる種族はあるのだが、明らかにこの4つの種族を運営が勧めている感じに大きく表示されている。なので、大体の人が選ぶのではないだろうかと思った。
だが、これ以外にも種族は多くある。
それはそれは多くある。中には……いや、いいか。
・職業
凄い数がある。
そしてレベルを上げて行けば、より強い職業へと転職が出来るようなのだ。これは事前情報。学校で加藤に嫌になるほど聞かされたことだ。
そして、聞いてみると職業は下位職、中位職、上位職といった感じで分かれているらしい。
ここで選べるのは下位職のみと言われた。
当たり前だろうな。最初から上位職が選べても楽しみが薄れてしまう。
しかし、例外もある。
ランダムを選択すると中位職も含まれた職業になるのだとか。
ただし、アカウントを削除した場合は三週間アカウントを再作成することが出来ないと注意された。
リセマラ対策もバッチリだな。
職業ランダムはメリットもあるがリスクを伴うという事だ。
何せ職業は数多くある。もちろん中にはヤバイ職業もあると思うからな。地雷職ってやつだ。
・初期ステータス
種族と職業を決定した後に決めるらしい。
パラメータの種類は7つ。
HP 、MP、筋力、速力、防力、器力、精力。
この7項目に振り分けるらしい。
振り分けられるポイントは合計で30ポイント。
よく考えなければ。ここが分岐点になるかもしれない。
・初期スキル
かなり期待していた項目なのだが、ほとんど初期ステータスと同じ感じだった。
職業と同様、数え切れない量のスキルがあった。
これでも全体から比べると少ないらしい。ちなみに聞いた情報だ。
しかし、ここのスキルから派生する物があるということか。
全く、恐ろしく思えて来た。
この中からスキルを選ぶわけだが、スキル取得するためには、ポイントがいるらしい。
そのポイントも30ポイントだ。
しかし、取得するスキルによってポイントの消費が変わるらしい。
見てみたところ、スキルの種類は3つのようだ。
3ポイント消費、5ポイント消費、10ポイント消費。
この3つだ。
10ポイント消費を3つか、3ポイント消費を10つか……。
どちらが良いのだろう?
迷うところだ。
まずはプレイヤーネームの選択だ。
プレイヤーネームと書かれた項目をタッチしてみる。
入力画面が出てきた。
なんと、10字以内しか入力出来ないみたいだ。
どうしようかな。
実は何も考えていなかったのだ。
良い名前が思い浮かば無い。
とりあえず俺の本名の 咲良陽紀 をもじって……。
「サク」
単純すぎるだろうか。
名字の最初の2文字だ。
昔から分かっていたが、俺にはネーミングセンスってモノが無いのだ。
[既に、同名のプレイヤーが存在しています]
ダメだった。
じゃあ、好きな食べ物でどうだ?
「おはぎ」
[既に、同名のプレイヤーが存在しています]
嘘だろ⁉︎
もう、アイディアが尽きたぞ。
……
…………
……………………
………………これなら?
「ネイザン」
[既に、同名のプレイヤーが存在しています]
何でだよ!?
難易度高すぎないか?
考えるのを辞めてしまおう。
どうせ良い名前なんて出てこない。
もう思いつくものを全て言っていくことにした。
「ダイ」
[既に、同名のプレイヤーが存在しています]
「シャイン」
[既に、同名のプレイヤーが存在しています]
「エイハ」
[既に、同名のプレイヤーが存在しています]
「サクヤ」
[……同名のプレイヤーは存在していませんでした]
[ " サクヤ " で決定しますか?]
やっとだ。
これだけで疲れたような気分になってしまう。
流石に、何万人もダイブしているだけはある。
ありきたりな名前だと被ってしまうのだろう。
自分のネーミングセンスの無さを呪いたくなる。
まぁ、被っていなかったんだしこの名前でいいか。
俺は決定ボタンを押した。
[プレイヤー " サクヤ " が登録されました]
よし、無事決定された。
次は種族決定だ。
重要な項目なのは間違いないだろう。
取り返しがつかなくなる可能性もあるのだ。
慎重になって損は無いと思う。
ネームの決定で時間をかなり使ってしまったけどな。
個人的な考えだが、普通の人が1番良いのでは無いのだろうか?
エルフは魔法特化になりそうだし、ドワーフは生産特化、獣人は物理攻撃特化になりそうだ。
俺としては、育てれば万能になる事が出来る可能性のある人の方が好みだ。
その場合、本当の器用貧乏にならないように気をつけなければいけないが。
器用貧乏はかっこ悪い。が、俺は理想を追い求めることにした。
そんな訳で、俺は人を選ぶ。
だが、ここで普通に選んでも面白くない。
せっかくこの世界を自由に冒険する事ができるのだ。
思いっきり楽しむのは当たり前だろう。
もしかしたら他の選択肢があるかもしれない。
何が出来るのか探してみても損ではないと思う。
「種族を変える事は出来るのか?」
声に出して聞いてみる。
[もう1度、初期設定を行う場合には種族を設定し直す事が出来ます。しかし、1度アカウントを削除すると3週間再作成する事ができません。なので、お勧めはできません]
なるほど。
もう1度、設定をする場合か。
含みがある言い方だな。
後からでも種族を変える方法はあるのかもしれない
急いで決定していれば、得られなかった情報だな。
心を落ち着けるという行為は大切なことなのだ。
どんな時でも冷静に。
それが俺の理想である。
これが中々、出来ないんだよなぁ。
よし、この調子でもっと有用な情報を得られればいいのだが。
簡単にいくだろうか?
もう1つの疑問を聞いてみる。
「種族は魔物でもいいのか?」
そう。この疑問だが、俺は種族決定の時にリザードマンという種族を発見したのだ。リザードマンって魔物と人のハーフのような種族だろう?
ということは。
別に魔物にも種族として、なれるのではないかと思ったのだ。
まあ、実際になるかどうかは別としてだが。
俺はただの好奇心で聞いたに過ぎない。
なるかどうか、それはこの質問の返答次第になるだろう。
俺はNPCの返答に集中する。
[特定のワードを確認。GMへ報告します]
へ? ん?
特定ワード? GMに報告?
待て待て待て。
冷静になって考えるんだ。
俺が冷静になるのを妨害するかのように、NPCの目の前の床が光り輝き出す。
そして、教室は一瞬、白い閃光に染まる。
『はぁ、日本人って勘が良いのかしら? 本当に面倒くさいわ』
目を開けるとなんか出てきた。
出てきたのは女性。
髪は金髪で白人。
いかにも西洋にいそうな美人だ。
はあ、冷静になる余裕なんて与えてくれないようだ。
誤字修正しました。