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不思議なヒト

 東に進んで森に入り、店での思い出に浸りながら歩いていると、あの、雰囲気がインセニレそっくりのお客のことを思い出した。

 そういえば、あれ以来見ていない。インセニレの血縁者なのだろうか、などと考えていると、水の音が聞こえてきた。川が近くにあるようだ。水を汲んでいこう。


 木々の間をすり抜けて川にたどり着くと、誰かがいた。……あのお客だ。なにか手に持っていて、その何かを様々な方向に向けている。

 声を掛けようと近づく。すると彼はこちらに気がついた様子で道具をおろし、話し掛けてきた。


「何か用ですか。」

「いや、あなたがなにをしているのかを知りたくて。」

「動物の声を聞こうとしていたのです。」


 確かに彼が手に持っているものは音を集める道具に見える。


「動物の声?」

「そうです。ただ、普通の動物は言語を持っていませんから、私には聞こえません。なので、使い魔といった特別な動物の声を聞こうとしていたのです。」

「何か聞こえましたか。」

「いいえ。ここにはそういった動物はいないようです。……近くで変わった動物を見ませんでしたか。」


 どうにも違和感のある声だ。疑問を投げ掛けているのは、はっきりわかるが。


「いや、会っていませんね。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「ところで、なぜ動物の声を聞こうと?」

「私はこの森にいるという魔女を探しているのです。しかし人間からの情報はとても少ない。そこで動物から情報を聞き出そうとしています。人間の知らない噂を知っていたりするらしいのです。私はまだこの……魔性聴声器を手に入れたばかりなので詳しいことはわかりませんが。あなたはここへなにをしに来たのですか。」


 ……わかった。イントネーションはあっているけれど抑揚が足りないんだ! 変わった人だ。


「水を飲みに来たんです。……僕はそれが済んだら行きますね。」

「私もそろそろ諦めるところです。無防備のままこれを使うのは危険でした。」


 岩場に膝をついてしゃがむと、川底が見えた。手で水をすくって口へ運ぶ。


「やっぱり、魚も捕っていこうかな……」


 ひとりごとを呟くと、こちらに向かってくる足音が聞こえた。振り返ると、聴声器の彼が戻ってきていた。


「魚……そういえばまだ水の中の音は聞いていませんでした。気付かせてくれてありがとう。」


 そう言うと彼は堂々と服を脱ぎ始めた。下半身の下着だけになると、聴声器を持って川へ潜った。




 水の中。

 聴声器を上流側に向けると、高い声が聞こえてきた。


『♪カラスがこわい、な~ぜ?』

『♪だって狂暴なんだもの!』

『♪太陽から突然現れた、七羽のカラスが暴れてる、それ!』


『『♪カラスがこわい、カラスがこわい、カラスがこわい……』』


 何かが歌っている。……陸へあがろう。



 水を飲み、水筒に中身を入れ終えると、聴声器の彼がぬるりと水面に顔をだした。


「どうでしたか?」

「歌が聞こえてきました。七羽のカラスが暴れてる、と。」


 彼はこちらに近づきながら答えた。


「カラス……やっぱり魚が歌っていたんですか?」

「それはわかりません。見えませんでしたから。」


 彼は陸にあがって身体を拭き始めた。


「そうだ、私が魔女の居場所を見つけるまでついてきてくれませんか。なにせ聴声器を使っている間に何かに襲われると、気づくのが遅れますから。」


 こちらの目を見て提案してきた。


「僕はナフリネ山に行くつもりなのだけれど、それで大丈夫ですか?」

「それはどちらの方角ですか。」

「東です。」

「丁度私の向かおうとしている方角です。」

「……僕はアリベラーレです。あなたは?」

「私はブラータと言います。よろしくお願い致します。」


 ブラータが丁寧に頭を下げた。


「よろしくお願いします。」

 こちらもつられて普段よりも深くお辞儀をした。



 二人は森の中を東へ東へと歩いていった。お互いの旅の目的を話したりもした。ブラータは社会の秩序を守る最善の方法を探して旅をしているらしい。生物の生態をヒントにすることもあるそうで、時々図鑑のような本を開いてはびっしりと細かい字で何か書き込んでいた。


「私は魔女を退治しに来ました。魔女によって行方不明になる人が多く、人々は恐怖を感じ、人間の生け贄を捧げるなどの秩序が乱れる行為が起きているのです。それも百年もの間。」

「秩序を守ることもするんですね。」

「そうです。紙の上で理想を並べ立てているだけでは現実が見えなくなってしまう。」

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