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銀のためにお金を求めて

「へー、美術品を作る旅ね。」

「いつか自分のお店を持つのが夢なんです。」

「で、今まで作ったのはどこにあるんだ?」

「今、僕の右側にある鞄の中にあります。」

「随分小さいな……」

「こだわりがあって時間がかかってしまうんです。」


 本当は魂謄本の左頁に保管されるのだが、自分が魂の救済者であることは秘密にしなければならない。

 魂の救済者であることを、魂の救済者以外に知られたなら知った者を49日以内にこの世から消さなくてはならないのだ。そうしなければこちらの存在が崩壊することになっている。


 農村を通り抜け、ナーラ王国の首都に着いた。


「さ、銀を買ってきなよ。」

「実は十分にお金を持っていないんです。」

「ん?賞金首を狩るのもアリベラーレはやってたんだろ?」


 信じていない様子だ。


「日が昇る早朝に兵に引き渡して、僕のことを誰にも言わないという条件で懸賞金は受け取り拒否していました。変に目立つと落ち着いて旅ができなくなるので。」

「じゃあ、これからどうするんだ。」


 残念に思われているのが彼の顔からわかる。きっとこの人は嘘をついてもすぐばれるんだろうな……


「働いて稼ぎます。それまで旅は中止です。」

「う、ん?それだと戦闘中の銃は見学できないな……すまない!俺は自分の旅に戻ることにする!」

「それがいいと思います」


 インセニレとはあっという間に別れた。

 都を歩いて職を探していると、従業員募集の張り紙がある店を見つけた。


   料理 冬の暖炉


 人手不足の飲食店だった。衣食住付きのようだ。ここで働こう。


「ふーん、旅の人なんだ。私はエルテミ、よろしくね」


 若い女性が仕事内容を指導してくれた。主に接客をやって欲しいと言われた。


「お待たせしました。牛のローストとラム酒です」

「いらっしゃいませ、ご注文は?」


「アリベラーレ!サラダと鶏肉のソテー持っていってくれ!」

「はい!」


 辺りが暗くなった頃、身長2mはある大男が入って来た。店の中が急に静かになった。


「おい!いつもの!」


 彼が叫ぶと円状に人がいない空間ができ、彼はそこに座った。


「新人くん、ちょっと厨房で仕事してて」

「僕はまだその仕事内容は……」


 言い終わる前にエルテミは用意された料理を大男へ大量に運んでいく。あれ?彼はあの料理を注文していないはずだ。


「今はここで仕事してなさいな。お皿は洗える?」

「明日は俺が簡単な料理を教えてやるぞ」


 店主のスワビタが仕事をくれて、料理人のカリデはこう言ってくれた。

 皿洗いをしていると、エルテミと大男との会話が聞こえてきた。


「はい、お客様、例の料理でございます。」

「よしよし……」


 エルテミが厨房に戻ってきた。小声で訊いてみる。


「エルテミさん、彼は?」

「うん、後で詳しく教えてあげる」

 静かに答えてくれた。


 大男は黙々と30分程食べ続け、満足したと見えて帰っていった。

 深夜になり、閉店時間を過ぎた。


「後片付けも終わったわね。新人くん、君は筋がいいね。」

「ありがとうございます。そういえば夕暮れ時に来た、あの人は何者なんですか?」

「最低の下衆野郎。」


 いきなりきつい口調に変わった。


「……」

「あ、ごめんねー、聞き苦しいわよね。でもあいつには気を付けて。」

「できる限りの情報をください。」

「んー、そうねぇ。名前はモルファス、狩人で、乱暴者。いつも大きな棍棒を持っていて、少しでも自分に気に入らないことがあると他のお客さんに突っかかっていく。代金を払わせるとか、喧嘩したり。テーブルが壊れたこともあったわ。それからはお客はみんなあいつに近づかない。

『暖かい料理がすぐ出せるように、俺が来るまでに作り終えておけ』だってさ。とにかく特別扱いされないと気がすまないみたい。

 それで、

 私以外の接客係が出てたらダメだっていうのよ、もーーーー!!!」


「ありがとうございます。早く厨房でも活躍できるように頑張ります。」

「う、冷静ね。とにかく、止められる人がいないからここ数ヶ月あのまんま。毎日違った時間に来るし……お仕事お疲れ様。住み込みだったわよね?」

「はい」

「案内するわ、こっちよ」


 自分のベッドの場所に案内された。二段ベッドと机がある小さな部屋だった。


「本当はふたりで一部屋なんだけどね。みんな辞めちゃってねー。私はもう行くわ。お休みなさい。」

「お休みなさい。」


 疲れていたのですぐに寝てしまった。



 9日目。今日も順調だ。


「お待たせしました。川魚の……あ……」


 給仕をしたお客の雰囲気がインセニレそっくりで、思わず料理名を言うのをやめてそのお客をまじまじと見てしまった。

 服装も荷物も似ている。


「どうか、しましたか。」


 話し方と声がインセニレのものではない。


「あ、いえ……川魚の塩焼きとパンです。ごゆっくりどうぞ。」


 少し驚いて、逃げるように厨房のほうへ向かった。

 しかし、顔も全然違った……インセニレはつり目の三白眼で口が大きくて巻き毛だったが、このお客は半眼の三白眼で口が小さくて直毛だ。気のせいだったのだろうか。

 このお客の観察をしようと思ったら、モルファスがやってきてしまったので断念した。

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