11今季アニメ、何をみる?②~どれを見ようか迷っています~
こうして、昼休みの話の続きは芳子の家で、ということになった。放課後に特に予定はないのだが、一つ気になったことがあったので、彼女たちに聞いてみることにした。
「ねえ、今日は平日だけど、部活はどうしたの?」
こなではテニス部、麗華は陸上部の練習があるはずだ。今日は木曜日で平日である。芳子はすでに部活を辞めたようだが、二人が部活を辞めたとは聞いていない。それなのに、どうして平日の放課後に恒例の会議ができるのだろうか。
「ああ、喜咲って、情報に疎いところあるよね。まあ、そこが良いところでもあるけど」
「ねえ」
放課後、教室で隣のクラスのHRが終わるのを待ちながら、私たちは教室で雑談に興じていた。それなのに、なぜ、そんな哀れみを込めた視線を向けられなければならないのだろうか。私はただ、純粋に疑問に思ったことを口にしただけだ。
「それはね」
「遅くなってごめーん!」
芳子が質問の答えを口にしようとした瞬間、教室のドアが思い切り開かれた。どうやら、隣のクラスのHRが終わったようだ。ドアを開けて中に入ってきたのは、妹の陽咲だった。私のクラスのHRは彼女たちのクラスより10分以上早く終わったため、すでに教室には私たちしか残っていなかった。高校生は意外に忙しいのだ。部活に塾にと、二次元ほどゆっくりとことを進めてはいられない。
「ちょうどいいタイミングで陽咲が来たわね。陽咲はなんで平日なのに、部活がないのか、理由を知っているよね?」
陽咲の登場に、芳子は開きかけていた口を閉じて、質問の回答を私の妹に丸投げした。突然話題を振られたにも関わらず、陽咲は多少驚きはしたものの、私に視線を向けて回答する。
ちなみに、陽咲の後ろには麗華がいたが、なぜか芳子の言葉に戸惑っていたようで、しきりに私と陽咲に視線をさまよわせていた。
「お姉ちゃんって、やっぱりお姉ちゃんだね。ほら、あのユニホーム事件のこと、覚えてる?」
「さっさと質問に答えてよ」
結論を早く伝えてほしい。なぜ、部活が休みになっているのか知りたいだけなのに、まどろっこしい説明はいらない。理由など、芳子の家に行ってから聞けばよい。私の急いた気持ちを理解してくれたのか、一度大きなため息をつかれたが、陽咲は簡潔に説明してくれた。
「部活がないのは、今日が木曜日だからだよ!」
「木曜日?」
確かに今日は木曜日であるが、それがどうしたというのか。結論を聞きたかったはずなのに、あまりの簡潔さに今度は理由が聞きたくなってしまう。
「喜咲、ということだから、早く教室を出ましょう」
「そうそう。時間は有限でしょ。タイムイズマネー。高校生は忙しいの!」
理由を陽咲に説明させたことで満足したのか、芳子が私たちを教室から追い出そうと背中を押してきた。それまで黙って私たちの会話を聞いていたこなでも自分の席から立ち上がり、芳子に続いて私の背中を押してくる。
すでに荷物を鞄に詰めて帰り支度は万端だった私たちは、そのまま全員、教室を出て廊下を歩きだした。
ちらりと廊下側の窓を見れば、夕日が紅く不気味に光っていた。
『お邪魔します!』
「おや、芳子。友達を家に連れてくるとは珍しいねえ」
「何言ってるの。夏休みにも一度、呼んだでしょ」
予定通り、私たちは学校から出て芳子の家にやってきた。夏休み以来だったが、どうやら芳子の祖母は、私たちのことをすっかり忘れているようだった。玄関で出迎えてくれた彼女は、孫の言葉にそうだったかしら、と首をかしげていた。
「まあいいや、いつものように私の部屋に入ってこないでね。お菓子とか飲み物とかは私が台所から勝手に持っていくから、おばあちゃんは何もしなくていいよ」
「でも、せっかく来たお友達でしょう?」
「いいから」
自分の祖母をそっけなくあしらい、芳子は私たちを自分の部屋に案内する。私以外のこなで、陽咲、麗華は特に芳子の祖母の様子を気にすることなく、芳子の後に続いていく。このまま素直についていっていいものか、一言、何か言葉をかけてからの方がいいのか。
「あ、あの」
「喜咲、さっさと私の部屋に上がんなよ」
とりあえず、当たり障りのない言葉でもかけようと口を開いたが、芳子によって遮られる。二階にある芳子の部屋に行くために、私以外は階段を上がっていた。階段の途中で芳子が呆れたような顔をしていた。
「ああ、いいよいいよ、私のことは気にしないで、若いもんで楽しみな」
芳子の祖母が私の背中をぐいぐいと押してきた。仕方なく、私は芳子たちの待つ階段を上っていく。
「まったく、誰に似たのかしら?」
階段を上がっていく途中、ぼそっとささやかれた言葉が耳に入ったが、返事をしたところで何かいいことがあるとも思えない。老人の独り言は聞き流すことにした。
「はああああ」
「お疲れ。いつもこんな感じなの?」
芳子の部屋に入ると、一気に緊張が解けたのか芳子は部屋の隅に置かれたベッドにダイブする。大きなため息を聞いた陽咲がなぜかねぎらいの言葉を口にする。
「認知症が進んできているんだよね。調子が良いときはそうでもないけど、今日みたいな日はダメかな。ほら、今日ってあんまり天気が良くないでしょ」
今日の天気はと思い返すと、午前中は雨が降っていた。しかし、午後からは晴れてきて、夕日が紅く見えていた。天気が認知症と関係あるのか疑問に思ったが、口にすることはなかった。
「天気で気分が変わるとか嫌になるね。やっぱり、年代が違う人と生活するのは大変だね。おじいちゃん、おばあちゃん大好きっ子って、結構すごい子なんだなあって思えてきたよ」
「でも、私たちもいずれは歩むことになる道ですから、あまり芳子さんのおばあさまのことを悪く言うのはよした方が……」
こなでの言葉に遠慮がちに麗華が反論する。確かに私たちもいずれは『高齢者』という立場になるわけだが、何十年後の話だ。そんな未来の話をここで持ち出されてもあまり説得力がない。
パンパン!
私たちの意識を自分に向けるかのように芳子が手をたたく。少し重たい空気になりかけていたかもしれない。せっかく友達の家に遊びに来ているのに、こんなことではもったいない。
「まったく、何暗くさい空気になっているの!私がおばあちゃんたちと同居しているのはすでに知っていたでしょう?いまさら気にしなくていいの!いつも喜咲たちの家でお世話になるわけにはいかないから、私の家に呼んだというのに」
どうやら、芳子なりに私たちに気を遣って、今日は自分の家に呼んだらしい。まあ、私の母親は私の友達が来たところで、自分の娘の交友関係を知ることができてうれしいと泣いて喜ぶようなタイプだ。自分にはなかった青春時代を娘が送ることができて感動しているらしいので、私の家で二次元会議でも三次元会議でもしてもらって全然かまわない。




