11今季アニメ、何をみる?①~どれを見ようか迷っています~
「ねえ、秋クールのアニメ、何見ることにした?」
11月に入ったある日の昼休み、いつものようにちゃっかり私のクラスでお弁当を食べていた陽咲が私たちに質問する。当然、一緒にお昼を食べているのは彼女の双子の姉である私、汐留喜咲と、クラスメイトの芳子とこなで、妹のクラスメイトの麗華である。
「そうだねえ、異世界転生物はもう、お腹いっぱいだからねえ。何見ようかといまだ検討中」
「私は、百合ものが今期もやっているので、それを一つと、後は陽咲さんのおススメのアニメを二つほど……」
「どうにも今期はめぼしいものがないかな……」
上から、芳子、麗華、こなでの返答だが、陽咲はこの場にいる全員に対して質問していた。そのため、最後の回答者となる私にじっと皆の視線が注がれた。
「ええと、私は……」
「お姉ちゃんはアニメなんて低俗なもの、見ないんだよね。何せ、自分は健全な人間だと思っているからね」
せっかく私が応えようと口を開いたのに、なぜか陽咲にバッサリと切り捨てられてしまう。そんなこと、私は思ったことはない。いや、多少は考えたことはあるが、面と向かって他人に言うべき言葉ではないとわきまえている。
「やはり、私たちは一歩、大人への道を歩み始めているということか……」
人の答えを切り捨てたと思ったら今度は、やけに達観した様子でふむと手を顎に当てて考え込みだした妹。まったく、わが妹ながら気分屋で何を考えているのか予想不可能である。
「なになに、ひさきっちも何見るのか、いまだ検討中ってこと?」
「ううん。なんとなく見たいものはいくつかあるんだけど、どうにも、テレビの前に30分、座っていられなくて……」
『なるほど』
何がなるほどなのか。芳子とこなでのハモりに調子に乗った陽咲が自分の意見を主張する。どうやら、今回はアニメについてのうんちくを語りたいようだ。調子に乗った陽咲は自分の話が終わるまで止まらないので、放っておくことにしよう。
私は、妹とおそろいの弁当箱に入っていた、これまた同じ弁当の中身を黙々と口に入れていく。今日は、昨日の夕食の残りである肉じゃがと卵焼きにソーセージである。
「なんかね、最近、アニメに興味がなくなってきたの。どうしてかなって考えたんだけど、これはもう、私たちが大人になった証拠だと思うことにしたわけ!」
「ううん、それはどうかな」
「絶対そうでしょ。だって、今まで通り、いや今まで以上にたくさんの数が毎クール、アニメ放送しているわけでしょ。それなのに、その中のどれ一つ、興味がわかないなんて、感性が大人になったわけで」
「私は違うと思うけどな」
こなでの否定的な言葉に、陽咲がそんなわけないと言っている。それに対して、芳子もこなでと同意見のようだ。ちらりとこの場で一緒にお昼を共にしているもう一人の様子をうかがうと、彼女も私と同様、黙って自分のお弁当を食べている。麗華の今日のお弁当の中身はオムライスのようで、スプーンで上品に卵とケチャップライスを口に運んでいる。その間にも彼女たちの論争は白熱していく。
「たぶんだけど、私たちの感性がどうとかじゃなくて、アニメを作る側に問題があるのかもしれない」
「アニメ側?」
彼女たちの話しを無視して弁当を食べていたが、芳子の言葉に少しだけ興味がわく。陽咲の言葉はありえないと思っていた。実は私も彼女たちと同様に、今期に視聴するアニメの数が少なくなっていたので、どうしてだろうと自分なりに考えていたのだ。
「そうそう。だってさ、例えば、今期の秋クールのアニメのラインナップを見てみてよ」
証拠と言わんばかりに、芳子が自分のスマホで秋クールのアニメ一覧の画面を開いて私たちに見せてくる。つい、私も陽咲たちと一緒に画面を覗きこんでしまう。
「これとこれが、異世界転生系、いわゆる『私は小説家系』でしょ。これはラブコメ系、これは日常系。これはアクション系だけど、作者は有名な死神の人。これはまあ、異色だけど、私たちの趣味には会わないね。それとこれは分割2クールの2期目だね」
よどみなく、芳子がアニメの説明をしてくれる。よくぞここまですらすらと解説ができるものだ。見るものがないと言いながらも、しっかりとアニメの概要を把握していた。そんな彼女の様子を見ていると、大人の感性が育ったとは言い難い。
「このラインナップから、どうしてアニメ側の問題だと言えるのでしょう?タイトルだけ見たら、いつもと同じように見えるのですが」
麗華も彼女たちの話しに興味を持ったようだ。一緒に芳子のスマホの画面をのぞき込み、疑問を口にする。
『わかったわ!』
『それが問題なのね!』
突然、こなでと陽咲の言葉がハモりを見せた。結構な音量でのハモりに、慌てて辺りを見渡すが、今は昼休み。クラス内は賑わいを見せていて、特に私たちのグループが注目されることはなかった。まあ、すでに陽咲たちの奇行ぶりはクラス中に知れ渡っているので、今更叫ぼうが気にしないのかもしれない。慣れとは恐ろしい。
まさか、自分の発言にハモりを見せるほどの言葉だとは思わなかったのだろう。麗華は驚いて辺りをきょろきょろと見渡しているが、私と視線があうと、困ったように笑いかけられた。私も同様に苦笑を返す。
「二人とも、麗華の言葉だけでわかるなんて、優秀だわ。さすが、私の相棒たち」
褒めてつかわせよう。
なぜか上から目線で陽咲たちをほめたたえだしたのは芳子だが、自分を何者だと思っているのだろう。まあ、そこに突っ込むことはしないけれど。それより、彼女たちの回答が気になった。そのため、本当に仕方なく口をはさむことにした。
「お昼休みももうすぐ終わるから、さっさとわかったことを話してくれる?」
「もう、お姉ちゃんったら、そんなに私の言葉が聞きたいなんて、シスコンだね!」
「ひさきっちがいうのなら、仕方ない」
陽咲とこなではアイコンタクトで、どちらが先に話すかを語り合っていた。先に口を開いたのは妹の方だった。
「大人の感性とか言っていたけど、前言撤回するわ。私もこんなところにまで頭が回らなかった。そう、そうなのね。私たちがアニメを見なくなったのは、このラインナップが原因だったことには、気づきもしなかった」
「そうそう、まさか私もこんなところがって、盲点だった」
「つまり、彼女たちの言葉を要約すると」
飽きが来てしまったの。
彼女たちの話しは毎回、結論にたどり着くまでが長いのが難点だ。それにしびれを切らした芳子が正解を口にする。とはいえ、その答えは私と麗華には理解不能だった。
「飽きが来たっていったい……」
「キーンコーンカーンコーン」
ここでタイムアウトとなってしまった。この後の展開は容易に想像できる。どうせいつも通りに私の家で。
「じゃあ、この話は放課後、私の家でやりましょう。ちょうど、撮りためて見ていないアニメもたくさんあるから、解説がてら消費できるし」
『さんせーい』
こうして、放課後、私たちは芳子の家でこの話の続きをすることになった。




