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7夏休みと現実~私以外は腐っていますが、楽しい日々を過ごしています~(1)

「それで、今年はどうしたの?嫌いなお父さんとこの実家に帰ったの?」


「帰ったよ。だって、私たちは彼らを嫌いだけど、彼らは私たち孫のことを嫌っていないからね。帰ると必ず、お小遣いくれるからいい金づる」


「言い方悪いねえ、陽咲は。まあ、そんなものか。お母さんとこの実家には帰ったの?」


「いや、なんだかくそは、私のお母さんがなぜか今年は帰らないって言って聞かなくて、帰らなかった」




 お盆明け、また学校の補習と名のつく強制授業が始まった。今は授業が終わった後で、私の席の近くにいつものメンバーが集まっていた。私と芳子とこなでは同じクラスだから違和感はないが、なぜかそこには陽咲に麗華がいた。午前中で授業が終わってお腹は減っているが、高校生にそこまでお金はないので、今日はコンビニで買ってきたパンを昼食代わりに食べながら話していた。


 ちなみに、私のくそ母の両親、母方の祖父母は、くそ母によく似ていて、よく喧嘩している。今回もその喧嘩が原因で帰省がなくなった。とはいえ、同じ県内に実家はあるので、帰ろうと思えば、お盆や正月以外でも気楽に帰ることができるので、特に問題はなかった。祖父母はくそ母のオタクを知っているらしいが、さすがにBL好きなことまでは隠しているようだ。似ているとは言っても、彼女のようなオタクではなく、言いたいことをズバッと言ってしまう性格が似ている。


「それにしても、喜咲のお母さんは実際に見たけど、聞いた話を照らし合わせるとすごいねえ。自分の性癖を隠すことなく他人に話せるなんて。私には到底無理だな」


「私もこなでに同感。家でも自分の部屋には立ち入るなって家族には念押ししているもの。だから当然、自分の部屋の掃除は自分でしているけど」


「そうなんですか。私もこの格好を最初は両親に不審がられましたが、最近はもうすっかり慣れてもらって、特に隠したりすることはなくなりました」




 私たちは、お盆の過ごし方をそれぞれ報告し合っていたはずだ。それなのに、話はなぜか妙な方向にシフトしつつあった。どうしてこうなってしまったのか。私は頭を抱えたくなった。


「夏休みも、もう終わりに近づいてきたかあ。なんかこう、二次元だと、高校一年生の夏って、もっと刺激的なことがいろいろ起こりそうなものなのに、現実はやはりというか、平凡で普通の夏休みだったねえ」


「ですが、それはそれでいいことではないですか。ある小説の中の高校生は、夏休みをエンドレスでものすごい回数過ごしていたと聞きました」


「確かにそれはいくら記憶がなくても遠慮願いたいね。でもさ、もう少しこう、何かあってもいいと思わない?例えば、夏休み中に、イケメンの男に会って恋するとか」


「それこそ、どうやって出会うの?合コンでもすればだけど、現実問題、高校生で合コンってできるのかという疑問だよね。それに、男と言っても、二次元のイケメンに慣れた私たちが恋できるような男って、その辺に転がっているわけ?」


「反論の余地はありません……」


 話は、どんどんやばそうな話に向かっている。これはまた、体育祭と文化祭の話のような展開になっていくのではないか。


「あ、あのさあ。そんなこと嘆いても仕方ないでしょ。あれは、あ、あくまでフィクション、創造物で、現実ではない。そのことは、あんたたちが一番わかっているのでは?」


 つい、無駄な話に発展するのではと声をはさんでしまった。それが、泥沼の夏休み談議につながるとは知らず。


「ええ、どうして?夏休みと言えば、いろいろ妄想掻き立てられる素晴らしい機会でしょう?この機会を使わずして、いつ妄想しろというの!」


「なに、喜咲はフィクションと現実を一緒にしているってこと?やあね、自分と他人の考えを一緒にしないでよ」


「私も別に現実と二次元を混同したことは一度もありませんが」


「わああ、一番痛かったのは喜咲だった」


 芳子にこなで、麗華に陽咲、私以外の面々に一度に問い詰められてしまった。


「いやいや、私はみんなを心配して……」





「お前ら、さっさと帰れよお。いつまでもしゃべりたいのはわかるが、外でやってくれ」


 ナイスタイミングで、担任から声がかかる。担任のことは、体育祭と文化祭の件以来、苦手意識が強かったが、今回に限っては感謝しかなかった。


「すいません。今すぐ帰ります」


『さようなら』


 私が担任に返事をするなり、彼女たちの行動は驚くほど速かった。すぐに鞄を持つと、私以外の四人は声をそろえて担任に挨拶して、私一人を残してさっさと教室から出て行ってしまった。


「あいつら、妙に行動が早いけど、もしかして、汐留はいじめにでもあっているのか?」


「いえ、それは大丈夫です。心配されるようなことはありません」


「ならいいが。何かあったら先生に相談するんだぞ」


「わかりました」


 私は、薄情者の彼女たちの後を追うように急いで教室を出た。担任はその様子をじっと見ていたが、別に特に何もなさそうなことがわかったのか、自身も教室を出ていった。





「おそい!担任と何か話でもしていたの?」


「別に特に何も。ていうか、どうしてあんなに早く出ていったの?」


 ぜえぜえ、と息をきらせながら、私はやっとのことで玄関前までたどり着いた。ちょうど玄関が見えてきたところで、彼女たちを発見したので、何とか一緒に帰ることができるよう、そこまで全速力で走っていた。一階にある私たちの教室は、玄関から一番遠い場所に位置していた。



「なぜって言われても、私たち全員、あの先生嫌いだから」


 はっきりと嫌い発言をしたのは、芳子だ。他の三人も、彼女の発言に同意するように頷いている。しかし、嫌いだとしても、あの迅速な行動はやりすぎだろう。おかげで私が一人取り残されてしまった。


「いやいや、いくらみんなが私のクラスの担任が嫌いだからってそれはないでしょ」


「まあ、それはそうかもしれないけど、ところで、この後の予定はどうする?」


 しれっと私の言葉は受け流されて、今日この後の予定を聞かれるが、どうもこうも、このまま家に帰るのが普通だ。


「別に予定はないから、家に帰って、夏休みの宿題を……」





「ということで、私の家で夏休みと、今後の高校生活について、二次元と三次元の違いを思う存分話し合いましょう!」


『おー!』


 私以外は、どうやって親密度を計ったのかは謎だが、この短期間に急激に仲を深めているようだ。芳子のかけ声に他の三人が声をそろえて右手を高く掲げていた。


芳子と陽咲はともかく、こなでと麗華は部活があったのではないだろうか。部活のことを聞ける雰囲気もなかったので、今日はないのだろう。もしくは、この前の芳子の話を聞いて、退部届を出したのかもしれない。そんなことを考えている場合ではないのだが、私は現実逃避もかねて違うことを考えていた。


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