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1家族紹介②~双子の妹~

 母親の説明をしたところで、次に妹の紹介をしていこう。私には双子の妹がいる。一卵性の双子で、名前は汐留陽咲しおどめひさき。喜咲と陽咲なんて変わった名前を付けられて、双子でなくても、すぐに姉妹だとばれてしまう。


 妹は、私と違って常識とか世間とかを気にしないようだった。両親、特に母親がおかしいことに疑問を持ちつつも、普通に生活をしていた。



「喜咲、一緒に学校行こう。」


「喜咲、新しい映画が今週末公開みたいだから、一緒に見に行こう。」


「喜咲、この百合マンガ、結構面白いから読んでみて。姉妹物で共感できると思う。」


「喜咲、一緒に……。」


 いや、こいつも普通ではなかった。なぜか、ことあるごとに私にべったりと張り付いてくる。重度のシスコンを患っている。



「陽咲、いい加減、高校生にもなったんだから、私以外にもだれか一緒に過ごす人を見つけなさいよ。」


 そう、私たちは4月から高校生なのだ。重度のシスコンの妹は、当然、私と同じ高校を受験して、見事に合格した。一卵性ということもあり、学力は私たち双子に差はなかった。一緒に学校に通うことは仕方ないとしても、高校に入っても、この状態が続くと思うとぞっとする。高校を機会に姉離れするように伝えたのだが。


「いやだ。もしかして、高校で彼氏でも作るつもりでしょう。そんなことはさせない。そもそも、中学の時に彼氏がいたことが信じられない。こんなに可愛い妹が居ながら、目にくれずに他のどこの馬の骨とも知らない男と付き合うなんて。」


 妹の反抗はさらに続いた。


「それに、こんなに寛容な両親がいるのに、それをわかっていない喜咲はおかしいよ。母親は論外だとしても、男ならせめて、父さんくらいいい男にしないと。理想は高くだよ。あんなクズみたいな男と別れて正解だけど、高校でも作るつもりなら覚悟しておくように。」


 なぜか、私の中学の時にいた彼氏のことをバカにされてしまった。確かに私も最後の方は、自分の彼氏をクズ男だと思い、高校を機会に別れようと話を切り出したが、それでも、自分の彼氏をけなされてうれしいなんてことはない。クズ男とは言え、少しは好きになった男だ。


「そんなことを陽咲に言われる筋合いはない。あんただって、中学生にもなって、その男嫌いはどうにかならないの。そんなことだと、人類半分を敵にして生きているようなものでしょう。」


「うっつ。」


 男嫌いという言葉に陽咲は言葉に詰まる。そうなのだ。妹は重度のシスコンであると同時に、極度の男嫌いなのだ。理由はわかるが、そこまで嫌悪することがあるのかと思うが、本人はあの事件がトラウマのようだ。いわずもがな、あのくそな母親のせいだ。


 そう、幼稚園の頃、私に衝撃を与えたあれが、まさか、そこまでトラウマになるなんて思わなかった。あの日は特に何もなかったように終え、その後も問題なく妹は生活を送っていた。





 それが崩れ始めたのは、中学に入学して少し経った頃だった。たまたま、部活動の市内大会が行われるということで、私と陽咲は、一年生ということで、試合の応援要員として会場に向かっていた。ちなみに私たちは吹奏楽部なので、本来他の運動部の試合なんぞを応援する必要はないのだが、なぜか応援しに行くことになってしまった。市内大会ということで、授業は休みとなっていたので、遊べると思っていたのだが、そうではないようだった。


 とにかく、私たちは確かバスケ部の試合の応援に行くことになった気がする。そこで、例のトラウマが発動してしまったというわけだ。そこまで忘れていたのか、記憶の底に閉じ込めていたのかわからないが、何かの拍子に思い出してしまった。


「試合を開始します。」


 審判が挨拶をして、ボールを高く投げる。両者の代表がボールを奪い合おうと高く飛び上がる。両者ともに、中学生だが、鍛え上げた身体が宙に舞う。


「お、思い出した。」


 ボールを奪うことに成功した選手が自分の味方にパスをする。ボールを受けた選手もドリブルをしてゴール目指して走りだす。あたりは熱気に包まれている。観客の声援、ベンチや試合をしている選手の声でにぎわっている。それなのに、なぜだろうか。観客席隣に座る妹は、それとは反対に青白い顔をして、唇も紫に変色していた。カタカタと震えだして、今にも倒れそうだった。



「何を思い出したんだって。」


 あまりの様子に思わず声をかけた。あたりと隣の妹の温度差がひどすぎる。いったいこの短時間で何があったのだろうか。


「い、いや、喜咲も覚えているでしょう。幼稚園の時のあの事件。」


「事件って、いろいろありすぎて覚えてないけど。」


「ほ、ほ、ら、母さんが、すき、な、B、Lボーイズラブの、まんが、」


 それなら覚えている。しかし、なぜ今ここでそんなことを思い出すのか、当時の私にはわからなかった。


「だ、だって、あの、ときの、まんがのない、よ、うって、たしか、ばすけ、だった。」


「ああ、でも、別に試合中じゃなかったような、むしろ試合後の控室で致していたような。」


「ギャーーーーーーーーー。」


 突然叫びだす妹。周りもさすがに試合中にそんな悲鳴じみた奇声を発する妹に何事かと視線を妹に向ける。妹は錯乱状態で正気ではなかった。叫びは続き、対処できるのは、その場に私しかいなかった。


「す、すいません。私の妹が突然具合が悪くなったみたいです。医務室に行ってくるので、ご心配なさらず。さあ、行くよ、陽咲。これ以上叫んだら、会場に迷惑をかけるから、少しの間おとなしくして。」


 その後、声を潜めて耳もとであるささやきをしてやった。こういえば、おとなしくするしかないだろう。


「もし、まだ叫び続けるようなら、思い出した『あれ』の続きを母さんに借りて、あんたに強制的に読ませようかな。結構人気で、続編もあったきがするなあ。」


「なっつ。そ、それだけはやめ。」


「じゃあ、どうすればいいかわかるよね。妹の陽咲は優秀だから。」


 私の言葉に陽咲は黙って頷いた。すくっと立ち上がると、周りに一礼する。


「先ほどは取り乱してしまってすいませんでした。少し落ち着きましたが、念のため、医務室で診てもらいます。いこう、喜咲。」


 周りに謝罪して、私に席を離れるように促した妹。あまりの変わり身の早さに苦笑しつつも、特に異論はないので、私も周りに一礼して席を離れた。




「はああ。」


 妹のトラウマを引き出した中学の頃の出来事を思い出し、ため息を吐く。その後は大変だった。結局、医務室には行くことはなかった。原因はわかっていたので、おとなしく家に帰ることにしたのだ。家に帰り、詳しく事情を聴いて、なるほどと納得したが、私には理解できなかった。





 家に着いた私たちは、自分たちの部屋で話し合っていた。


「ええと、試合中に叫びだしたことはごめん、でも、どうしてかわからないけど、あの光景が突然、頭の中にフラッシュバックして、離れなくなって。」


「覚えていたんだね。忘れたかと思ってた。」


「いや、あの試合が始まるまでは覚えていなかったんだけど、バスケのユニホームきた選手を見た瞬間に、こう、頭にバッとあ、あれが……。」


 ハアハアと、前触れなく息を切らし、苦しそうにしだす妹に、それ以上話させてはダメだと話を止めるように促す。


「むりに話す必要はないよ。」




「ピンポーン。」


 妹が落ち着くように背中をさすっていると、タイミングが悪く、インターホンが鳴る。そういえばと、母親が荷物を頼んでいたことを思い出す。仕方なく、インターホン越しに相手を確認すると、予想通り、運送会社の人が荷物を抱えて外で待っていた。


「ごめん。ちょっと、荷物が来てるみたいだから、ハンコ押してくる。」


 一言断って、玄関に向かう私に、妹は無言でついてきた。


「すいません。今開けます。」


 ハンコをもって玄関のドアを開けると、中年の男性が荷物を持って外で待っていた。荷物を配達してくれるいつもの人だ。


「宅急便です。汐留雲英羽さんあての荷物です。」


「はい。いつもありがとうございます。」


 お礼を言って、荷物をうけとりつつ、受領証にハンコを押し、配達のおじさんに手渡す。その様子を玄関越しにじっと見つめる妹。何も言わずにじっと見つめる妹の視線に居心地が悪かった。配達のおじさんは、次の配達に向かっていった。


「ねえ、陽咲。」


 荷物をリビングにおいて、私たちは再び自分たちの部屋へと向かう。そこで、深刻そうな顔をして陽咲が話を再開する。



「私、男アレルギーになったかも。」


 いや、意味がわからなかった。どうして、今までの話からそんな言葉出てくるのか不明だった。





「何を思い出しているのか知らないけど、人に向かってため息とはいい趣味しているよね。」


「あんたが男アレルギーを発症した日のことを思い出していたの。」


「ああ、あれね。思い出しただけでも忌々しい。」


「でもさあ、いくら何でも、男全般を無理だと思うのは大げさだと思うけど。だって、いくらあれが男同士のあれでも、しょせん二次元のもの、この世のものではない。あくまでフィクションなんだから。」



「いや私にとっては同じこと。おかげで私は確信した。男とはくそな生き物だと。どこでも股を開く低俗でどうしようもないクズだと。」


「だから、あれは二次元でフィクションだと。」


「でも、女は違う。決めた。私はあの時から女を愛することに。」


 どうやら、高校に入っても、妹は妹のままのようだ。陽咲にわからぬように私はそっとため息を吐いて、これからの高校生活を憂いた。すべてはこの状況を引き起こした母親のせいだと思いながら。



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