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6夏休みと帰省①~それぞれの祖父母~

 待ちに待った夏休みがやってきた。私は、せっかくの長期休暇を思う存分満喫しようと浮かれていた。陽咲も顔に出さないが、夏休みが近づくにつれ、そわそわと落ち着かなくなってきて、夏休みを心待ちにしていると思われた。私のくそ両親も、学校の教師という職業上、休みを取りやすいため、夏休みが始まる前から、こちらも陽咲と同様の挙動不審ぶりだった。


「とはいえ、高校生って補習があったんだね」


「そうだね。進学校ってことが原因かも。でも、そんなこと言っても、今更仕方ない。だって、それがわかっていて、入学してるから」


『はあ』


 私と陽咲は同時にため息を吐きつつも、一学期と変わらず、夏休みも毎日のように学校に通っていた。七月中は毎日のように「補習」という名の強制授業が待っていた。






「そういえば、お盆に、いつものようにおばあちゃんたちに会いに行くみたいだね」


「うわ、私、あいつら苦手なんだよね」


「陽咲とあのくそ両親は、嫌っているみたいだけど、私としては、まあ、あの人たちはオタクに関してだけは、私とどういけ」


「違う。喜咲と彼らでは根本が違う。だって、喜咲はオタクが何かを理解している。理解したうえで、ツンデ」


「それ以上は、いくら妹でも容赦しない」


「とりあえず、お盆は憂鬱だね」


「へえ、喜咲たちは、お盆は実家に帰省するんだね」


「そうかあ。そうなると、遊べるのはその前後というわけだね。ていうか、高校生って普通、青春の一ページとか言って、もっと休みを満喫できるようになっているはずなのに、どうしてこんな鬼畜なスケジュールなのおおおおお!」


 補習が終わった昼頃、私たちは近くのファミレスに来ていた。午前いっぱい補習が行われ、やっと昼に解放される。疲れ切った私たちは、ファミレスで昼食を食べつつ、たまった鬱憤を吐き出していた。


「それはわかる。まさかの夏休みの大半が、補習と部活で終わろうとは思わなかった。今日はたまたま休みで、こうやって一緒にご飯食べられるけど。ていうか、青春スポコン漫画ならいざ知らず、うちらは弱小運動部。毎日部活する必要ないよね。ああ、やっぱり、オタクを隠すために運動部なんて入らなきゃよかった」


「いやいや、それならやめればいいだけでしょ。ていうか、私はもう退部届出したよ。最初だけでしょ、強制部活参加って」


「その手があったあああああああ」


 こなでは、ファミレスの机に身体を押し付ける。ちなみに、すでにメインは食べ終わり、追加デザートを頼み、それを待っている状況で、机の上は片付いていた。


「でもまあ、それも現実だとかみしめて、私たちは精一杯生きていくしかないね。そういえば、喜咲たちは実家に帰省すると言っていたけど、おじいさんやおばあさんってどんな人?帰るってことは、同居していないんだよね?」


 芳子がこの話題は終了とばかりに私たちに質問する。





「お待たせしました。デラックスパフェでございます」


『あ、こっちにお願いします!』


 芳子とこなでが同時に手を挙げ、自分たちの前に置くように店員に指示する。芳子が私たちに質問した直後、店員が食後に注文したデザートを運んできた。


店員がパフェをテーブルの上に置くと、すぐにスプーンを持ち、食べ始める芳子とこなで。デラックスという名だけあり、二人分はありそうな大きなパフェだった。それを口にしながら、世間話のように先ほどの質問を繰り返す。


「ああ、食後のデザートは別腹なのは、本当よね。ええと、そうそう、実家に帰るって話をしていたんだった。それで、喜咲たちはどうなの?」


「ううん、同居はしていないけど、私は彼らが苦手なんだよね。特にお父さんの方の実家には近づきたくない。二人は同居しているの?」


「うちは、お父さんの方のおじいさんたちと同居で、お母さんの方はすでに亡くなっているから、実家に帰省って言うのはないかな」


「私は、すでに四人とも亡くなっているから、おじいさんとかおばあさんっていう概念がどういうものなのか、実際にはわからないね」


 デラックスパフェを幸せそうな顔でシェアしながら、芳子とこなでは、自分たちの家族事情をさらりと説明する。あまり楽しくなさそうな話題になりそうで、私は別の話題にすり替えようとしたが、陽咲によってそれは邪魔された。


「その話はやめておこう。せっかくの夏休みだし、どこに遊びに行くかの計画を……」


「芳子は同居しているから、あんまりうれしくないけど、こなでは少しうらやましいかも。ああ、これは不謹慎な発言になっちゃうね」


「別に構わないよ。事実を話しているだけだし。同居は確かに少し息苦しいところもあるのは確か。でも、親とおじいさんたちとの問題だから、子供の私たちがどうこうできる問題でもない。今は我慢、かな」


「そうなんだ。でも、おじいさんやおばあさんっていう存在は、少しうらやましいかも」



「おう、さてはおばあさんっ子に憧れる?」


 芳子が少し意地悪そうに尋ねると、こなでは罰が悪そうに正直に答える。


「お年玉がもらえないから」


「ハハハハハハハ、現金だねえ。こなでは、それしか老人に意味はないってか」


「こなでに同意だね。私たちも実家に帰ると、お年玉もらえるから、そこは感謝しているところもある」


 芳子たちは話しながらも、食べることはやめず、黙々とデラックスパフェ食べ進めていく。私たちはすでにお腹がいっぱいで、食後のコーヒーを飲んでいた。二人の食欲に感心していた。どこにそんな大量のパフェが入っていくのか不思議だった。


「それで、私たちのことはいいから、喜咲たちのことを話してよ。私たちはほら、帰省して会うっていう感覚がないから」


「えええ、面白くないよ。さっきも言ったけど、私は彼らが苦手だし」


「そうかあ。話したくないことを無理やり聞き出すのも悪いか。じゃあ、喜咲の言う通り、夏休みにどこに行くか計画を立てようか!」


 私たちは、それから夏休みの計画を立て始めた。やはり、彼女たちは生粋のオタクたちで、ファミレスでは話してよいことかわからない過激な内容もあり、結局、どこに行くかをファミレスで決めることはできなかった。



「今度は、私の家に来てよ。喜咲たちの家にはこの前遊びに行ったから、そのお返しもかねて」


 ファミレスからの帰り際、芳子が自分の家に来ないかと誘ってきた。もちろん、誘いに乗ることは簡単だが、芳子は祖父母と同居していると話していた。友達を呼んでも大丈夫なのだろうか。


「喜咲、もしかして、祖父母がいるから遠慮しているの?イイ子ねえ。気にしなくていいよ。それに、知りたいでしょ。他の家族がどうやって祖父母と生活しているか?」


『どうでもいい』


 私と陽咲、こなでの声がそろった。


「即答かよ!でもまあ、祖父母との生活を知ったところで、二次元の楽しみに役に立つわけがないよね。そもそも、二次元だと、同居とかほとんどないし、むしろ、高校でなぜか一人暮らしも多いから、そういう点において、私は二次元の主人公なりえないね」


「そんなこと!芳子がそうなら、私もだよ。だって、この前の体育祭と文化祭の配役見てみなよ。裏方だよ」


 そんな感じでどうでもいいことを話しているうちに、駅に到着して、私たちは別れた。






「はい、はいはいはい。ええ、わかっていますよ。お義母さん、子供たちはいい子に育っています。私にはもったいないくらいです。ええ、それなら私たちに預けろ、いえ、そういう意味で言ったわけではないですけど。ああ、仕事をしないでもいい?御冗談を。子供の面倒を見るためには、仕事をするな?さすがにお義母さんと言えども、許容できませんよ、今の発言」


 家族そろって夕食を食べ、食後のまったりタイムをリビングで過ごしていた私たちの緩い雰囲気を壊したのは、一本の電話だった。母親が率先して受話器を取る。電話のディスプレイに表示された番号に、私は嫌な予感がした。



「うわああ。今の電話、絶対お母さんが取っちゃダメな奴だった。お父さん、今からでも遅くないから、電話代わってあげたら?」


「そうする。雲英羽さん、電話代わるよ」


「出たよ、くそ父の両親からの電話」


嫌な予感は的中した。電話はくそ父親の両親からだった。理由は詳しくは知らないが、どうも、私のくそ母とくそ父の両親は仲が悪いらしい。お盆と正月に帰省することになっているため、その時期に近づくと、毎年電話がかかってくる。


 そして、電話を取るのが、なぜかくそ母なのだ。せっかくナンバーディスプレイに設定しているのに、どうして受話器を取ってしまうのか。



「ええ、わかりました。電話を悠乃さんに代わります。今年ですか?ええ、もちろん、帰省しますよ。私はいらない?そうですか。ええ、でもまあ、喜咲も陽咲も高校生になって忙しいですから、そんなに滞在はできないですよ。わかりました。では」


 ばっと、くそ父が出した手に受話器を勢いよく渡すくそ母。それを見事にキャッチして電話に代わるくそ父。電話を終えた母親は、はああああとでかいため息をつく。



「あんのばばあ。人が素直に聞いていれば、毎回毎回、言いたい放題言いやがって」


「お母さん、電話の番号を見てから受話器を取りなよ。それをしないから、毎回、ストレスがたまることになるんだよ」


 くそ母の盛大な独り言は無視し、律儀にアドバイスをする陽咲。それにしても、と私はくそ母とくそ父の両親の関係を思い出す。彼らはもともと、仲が悪かったのだろうか。いや、最初から悪かったのだろう。何しろ、あのくそ母だ。最初からに決まっている。そうと決まれば、どうして結婚を認めたのだろうという疑問がわいてくる。



「わかっているよ。喜咲と陽咲を連れて、今年もそっちに帰るから。ああ、もちろん、雲英羽さんも一緒に決まっているでしょ。それがダメなら帰らないから。それは無理?無理なら仕方ないね。オレも楽しみにしていたんだけどな、実家に帰るの」


 とはいえ、くそ父の両親は、くそ父のさらに上をいく、くそ両親ぶりだった。私としては、くそ父の方がましとも思えるような感じで、陽咲たちと同様に実は口には出さないが、私もくそ父の両親、私の祖父母をあまり快く思ってはいなかった。



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