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3周囲の人々⑥~陽咲のクラスメイト~

 私のクラスには、おかしな奴がいる。


汐留陽咲しおどめひさきです。男アレルギーで、男の人との接触は不可、私に用があるなら、女子に用件を伝えてください。それから、私には双子の姉がいて、隣のクラスにいます。私は姉が大好きです。よろしくお願いします」


 自己紹介が印象的だった。私の中で、一番印象に残る自己紹介だった。衝撃的な内容の自己紹介にも関わらず、紹介している本人のテンションがものすごい低かった。


 まるで、他人が自分の紹介をしているような、そんな感じの違和感ありまくりの紹介だった。無表情で話す内容でもないのに、おかしな話だ。


 自己紹介で気になった彼女のことを観察していると、興味深いことがわかった。同時に、私は彼女のせいで、あるものにどっぷりとはまってしまった。私の人生を変えるような趣味を持つことになってしまった。




 彼女、汐留陽咲は、自己紹介通り、隣のクラスにいる双子の姉の元に、毎日足繁く通っている。本当は休み時間ごとに行きたいらしいが、移動がある授業もあるため、昼休みの時間のみが、彼女が隣の教室の姉に会うことのできる時間だった。


 四時間目が終わる頃になると、そわそわと落ち着きがなくなり、チャイムが鳴って、先生の授業終わりの合図があると同時に、お弁当の包みを持って教室を飛び出していく。あまりの行動ぶりにクラスメイトも最初は驚きと戸惑い、興味を持って彼女の行動を見ていたが、それも慣れてくると、ただの日常となる。


 私もその一人だった。毎日飽きもせず、隣のクラスに姉に会いに行く彼女のことを最初は気になったが、一週間もすると、気にならなくなるはずだった。




「汐留さんって、変わっているよねえ。いつもは無表情で何を考えているのかわからないけど、お姉さんのことになると、目の色を変えて行動するよね」


「おどろきだよね。シスコンに男アレルギーって、二次元のキャラ設定じゃないんだからって感じ」


「それだけど、まだキャラ付けがあって」


 汐留陽咲は見た目も相まって、クラスメイトの興味の対象となっていた。見た目は、美少女なのだ。それが無表情を貫いているのだから、クール美人として、クラス内でも話題となっていた。姉のことになるとその表情が動き出す。そのギャップに好意を抱く男もいるらしい。


 しかし、本人の自己申告通り、男アレルギーは本当のようだ。彼女が自己紹介で忠告したにも関わらず、興味本位で話しかけた男がいた。男アレルギーなんてあるわけがない。ただ、男が苦手なだけで大げさに言っているだけ。そう思っても不思議ではないだろう。私も同じ考えだった。男が苦手なだけだろうと軽く考えていた。


「ねえ、汐留さん、今度の休みに一緒に遊びに行かない?」


 クラスでイケメン枠に入るような少しチャラ目の男が彼女に話しかける。


「……」


「どうしたの?もしかして、本当に男アレルギーとか言い出すの。ねえ、黙っていないで返事をくれよ」



「無理、これ以上話しかけないで」


 男は、ナルシストらしく、女子から無視されたことがないのだろう。無視している彼女にイライラを隠せないようだった。私は彼女の様子が気になって目を離せないでいた。彼女は男に話しかけられた瞬間、びくりと身体を震わせた。ガタガタと音がするほどの震え方にまで発展した。顔の表情まで見ることはできないが、顔色がよくないだろうことは想像できる。このままだと倒れそうだと思った私は、無意識に彼女をかばっていた。


「汐留さん、困っているみたいだし、お前に話しかけられて迷惑しているんじゃない?わかるだろ。さっさと失せろよ」


 つい、言葉がきつくなってしまった。そもそも、彼女に話しかけた男は中学の同級生だった。私はタイプじゃなかったので、話しかけられても無視したり追い払ったりしていた。それを聞いた男は激昂する。


「なんだ、お前かよ、麗華れいか。オレは汐留さんに話しかけてんだよ、邪魔すんな」





「失礼しまーす、妹の陽咲います、か」


「お、おねえちゃん!」


 突然、今までの様子が嘘のように彼女が動き出す。向かった先は、自らの姉、汐留喜咲のもとだった。たまたま、妹に用事があった喜咲は苦笑いでその行動をたしなめる。


「どうしたの?なんか、元気ないみたいだけど、いや、だからって、公共の場でこんなに引っ付かれても」


「だって、だって……」


 高校生にもなって、だってだってと言い訳のように彼女は姉に向かって、先ほどの行動を説明する。話を聞いた喜咲は、途中から無表情になる。



「ふうん。そう、まあ、元の一番の原因はあの、くそ母だけど、ここはひとつ、そのくそ男に一言、言ってやろうかしら」


 ぶつぶつと何やら物騒なことを言いだす始末。それを聞いていた彼女も同じく無表情になる。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんが手を下すまでもない。ただ、ちょっと、いきなり男子に話しかけられたから驚いちゃって」


 その様子を見ていた男は、彼女たちの様子が普通じゃないことに、ただならぬものを感じたのだろう。負け犬みたいな捨て台詞を吐いて、教室から出て行ってしまった。


「お前らみたいな姉妹に誰が興味持つかよ。姉妹同士でべったりとくっついて気味悪いんだよ。それに、男アレルギーだなんて、意味わからん!」


 汐留姉妹は男の行動に、同時に目をぱちくりさせると、今度は同時に笑い出す。


「何あれ、私たちと勝負していたつもりなの?負け犬みたいで超受ける」


「あいつに話しかけられた時は、どうしようかと思ったけど、あんな奴だったのなら無視を貫けばよかった」


 彼女たちの言葉に周囲もやっと緊張が解けたのか、くすくすと笑いが沸き起こり、空気がようやく和みだした。




「ええと、お騒がせしました。あの、えっと、自己紹介でも伝えた通り、私……」


「汐留さんは、正真正銘、男アレルギーだから、以後、男子は彼女に話しかけるのは厳禁。もし必要なら、女子を通すか、彼女を怖がらせないような配慮をすること!」


 彼女の言葉を私は引き継いだ。なんだか、急に彼女のことがかわいく思えてきた。教室での姉妹のやり取りを見て、なぜか胸がドキドキした。彼女たちの仲を裂くものに殺意を覚えた。



 この気持ちは一体何なのだろうか。彼女のそばにいればいずれわかるだろうか。私は、彼女のことをこれからも観察することに決めた。そのために、私はある決意をした。それについては、驚くべきことに何のためらいもなく、実行に移すことができた。





「れ、麗華。どうしたの、その髪。長くてきれいなのが自慢だったのに。それにその格好」


「いやいや、麗華、いったい何のつもり?その格好、まるで……」


「麗華、お前何やってんだよ。中学の時から気に食わないとは思っていたが、それにしたって」


 親しい友達や中学の時の同級生が口々に私の変化に戸惑いを見せるが、そんなことを気にする必要はない。


 私の努力が成果を結び、今では私は彼女の中で、一番親しいと思われる人間にまでなっていると思う。もちろん、姉の喜咲にかなうはずもないので、そこには届かなくても私は大満足である。



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