宝物庫
取り敢えず最初の横部屋を覗いてみた。
「おお、流石に多いな…………」
金鉱石の塊が部屋のいたるところから鍾乳石のように突き出ている。
自然発生のダンジョンだと、基本的に宝石も金銀も鉱石で取得することになる。まあ、そりゃギンギンの宝箱やら金の延べ棒やらは自然には出来んだろう。
そこそこ高レベルなので、腕力にモノを言わせて鉱石を手で叩き折りながらカバンに詰めていく。
が…………、
「…………あと4、5部屋でいっぱいいっぱいだな…………」
一部屋にある鉱石が他のダンジョンの倍はあるため、溜まっていくのが早い。
アイテムボックス系のアイテムかスキルがあれば楽なのだが、俺は習得出来ていないし、そういうマジックアイテムは市場に出回りにくいので入手しにくいのだ。
仕方がないので、取り敢えず折った鉱石は部屋の前に積んで放置しておくことにした。
パキペキと鉱石を折り、部屋の前に積むのを30部屋ほど続けていると、急に横部屋の模様が変わった。
ゴツゴツした岩壁ではなく、代わりにレンガの壁が現れたのだ。
その上、これまでの横部屋の10倍は広さがある。
しかし………
「なんだこりゃ?」
トランクが一つ、部屋の中央にポツンと置いてあるだけだった。
近づいてよく見ると、かなりの年代物で使い古した形跡がある。
俺は思わず眉根を寄せた。
ここは未踏破とされる自然発生ダンジョンである。
明らかに人の使った物がある 事はあり得ないのだ。
「どういう事だ………?ココのダンジョンは400年以上前からダンジョンに入る冒険者達を記録していたはずだが…………。まさか、それ以上前に攻略したのか?」
「イヤ、それはない」
横から俺の独り言に口を出してきたのは、吸血剣の思念体、クルトロン。
理論上は永遠に死ぬことのない吸血一族の成れの果て。
鍛え上げられた剣に己の心臓を融合させて肉体の退化を回避。心臓部分を聖別された聖剣で貫かれなければ死ぬことがない。
長年の相棒である。
「なぜだ、クルトロン」
「400年以上前にこんな深層ダンジョンを攻略したようなヤツは間違いなく英雄として名前が残ってるはずだ。少なくとも俺が知る限りじゃあこのダンジョンを攻略した英雄は居ない」
「お前が言うんだからそうなんだろうな......。じゃあ、このトランクは一体何なんだ?」
「考えても仕方ない。議会の査定機関に聞けば何かわかるんじゃないか?」
「そうだな。取り敢えず地上に持って帰るか」
とトランクを持とうとすると、妙なことに気がついた。
「何だこのトランク。鍵穴が5つもあるぞ」
「本当だな。なんで5つも.......っていうかコレの鍵はどこだ?」
部屋を見回すが、無骨な壁があるだけで何も無かった。
「こりゃ魔錠だな。珍しい、今の時代にも残ってるとは........」
「魔錠?」
聞き慣れない言葉にエレイスはクルトロンに疑問を投げかけた。
「構築者の魔力か、そいつの魔力を込めた鍵でしか開かない古代技術の錠前だ。理論上世界一強固な接着がなされてるから開けるのは不可能だ」
「古代技術か........また厄介な.......」