第21話 Player’s Prayer !
画面上にはずらりと並ぶ「 A 」の文字。
「……『戦乙女』のお姉さんの画面と違うな…… ? なんか英単語ばっかりだし……」
「そうだね~。でも『 A 』ばっかりだからすごいんじゃない~ ? 」
二人の目が唯一「 D 」と判定されている項目に止まる。
「これ、なんだろうね~ ? ひょっとして弱点なのかな~ ? 」
詩は人差し指を細い顎に当てて、小首をひねる。
「……この文字、確かγだったな……。あれ ? γ-GTP って確か…… ? 」
『……どうやらこれは『勇者』の健康診断の結果のようですね』
二人の左手の薬指から同時に機械的な音声が流れた。
「大変だ~ ! 『 D 』判定だよ~ ! 要精密検査だよ~ ! 早く病院行かなきゃ~ ! 」
焦ったような詩の声。
「落ち着けって。とにかくこっちの世界に帰還してからだろ。……それにしてもどうして『勇者』のステータスだけ健康状態が示されているんだ ? 確かに状態と言えばそうだけど……」
夕夏も右手を顎に当てて、思案顔となる。
『……『勇者』もしくはその仲間の所持するアイテムに『鑑定』を妨害されたようです。おそらく『鑑定』系アイテムの最上位のものを所持しているのでしょう。ステータスを敵に鑑定された場合、不利になりますからね』
「そうなんだ~。残念~。でもやっぱりお酒飲みまくってるから、肝臓が弱点なんだね~」
「妨害されてるんなら、心の声も見れないのか ? 」
「ええ……心の声の方は『勇者』が所持する剣の声が表示されるように設定されていますね」
「『勇者』様の剣って~たしか女神様の分霊が宿ってるんだよね~ ? 」
一ヶ月ほど前の配信の内容を思い出した詩が言った。
「ああ、あのちょっと病みぎみで一人称がボクの……」
夕夏はどうしてか、少し身体を震わせる。
「でもなんだかんだ勇者様に協力してたから~実は忠誠心があるのかも~リングさん~表示してみて~」
その声に応じて、画面が切り替わる。
──勇者…… ! どうせボクを……都合よく使う気なんだ…… ! 許さない…… ! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……
「ひぃ~ ! 全然なかった~ ! 」
「……いや、ちょっと待て……一番下を見てみろ」
詩は夕夏の声に従って、画面の下を見る。
──死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね……でも……ちょっとだけ……好きかも……
「……これはツンデレっていうのか…… ? 」
「ツンとデレの配合割合がおかしすぎるよ~ ! 食品だったら、デレの割合が少なすぎて成分表示しなくても罰則に当たらないレベルだよ~ ! 」
二人はその震えからか、身体を寄せ合う。
「……最後は銃を使った『不審者』って呼ばれてる人だね~」
「ああ、近所を徘徊してたら思わず通報してしまいそうなくらいの『不審者』っぷりだな……。実際に銃刀法を犯してるし……」
画面が切り替わる。
「あれ~ ? モザイク~ ? 」
「文字が全然読めないな……。やっぱりステータスを鑑定されるのを拒絶してるのか ? 」
『……いえ、私に備わった検閲機能が作動しました。あまりに卑猥なので純潔な乙女に閲覧させるには不適切と判断しました』
「……ステータスが卑猥って……どんなんだよ…… ? 逆に難しいだろ。ステータスでセクハラをかますなんて…… ! 」
夕夏は形のよい細い眉を顰めた。
「じゃ、じゃあ心の声は~ ? 」
『……表示します』
画面は切り替わる。
「……なんで心の声が動画なんだ ? 」
「モザイクだけど~裸の人だ~ ! これって……」
『……今現在、この動画のことを思い出しているようです』
「この非常時になんでエロ動画のことを考えてんだよ ! 」
夕夏は怒鳴り、詩は頬を赤くした。
────
「……回復したのは二人か……。なかなか強力で即効性のある毒だったみたいだな」
床に倒れ伏したまま、再び立ち上がることの無かった数人の兵士を見やり、酉井は軽く首を振った。
「……ちくしょう ! なんでだ !? せっかく死線をくぐったのに…… ! クソ……」
ベニャトは座り込んだまま、床を殴る。
マルガリータは彼らの前に跪き、胸を手の前に組み、小さな声でこの世界の神に祈りを捧げると立ち上がり、酉井達に向き直った。
「……助かった。礼を言う。……ところで貴殿達は……『稀人』か ? 」
「稀人 ? ……確かに稀にしかいなくて、子ども達が遊ぶ公園とかにいたら緊張が走るような人がいるけど……」
零は「不審者」を見やる。
「ひひ、きっと彼女が言ってるのはそういう意味じゃありませんよぉ。恐らく異世界からの転移者をそう呼んでいるんですよぉ。そうならば肯定しなければなりませんねぇ」
「不審者」はニヤニヤと笑いながら零の疑問に応えた。
「やはりそうか ! 『稀人』は我らに多くの恵みを授けてくれると聞く。王都に案内せねば……」
はやるマルガリータを酉井が押しとどめた。
「待て。俺達は確かに異世界から来たが、ちゃんと目的がある。偶然この世界に迷い込んだわけじゃない」
「目的…… ? 」
「……本来死ぬ運命にあるお前を救い、この世界にいる魔王を討伐する……それが軍神の御使いからの要請であり、俺達の目的だ」
珍しく、驚愕から見開かれたマルガリータの青い瞳を見据えて、酉井はなんてことのないように言った。
「な、ならば……ひょっとしてあなたは……『勇者』……様…… ? 」
「ああ、そうだ」
「……よかった……本当に…… ! 『勇者』様でなければ『魔王』を討伐できない…… ! なのにその肝心の『勇者』様が消息不明で……私の……私達の戦いは……決して勝利に結びつかない……無駄な行いなのかと……不安に感じていました……」
マルガリータは戦場では、部下の前では決して見せなかった顔をする。
「これで……散っていった者達の命は無駄ではなくなりました。勝利のため、この世界を護るために捧げた……意味のある命だったのです」
そして彼女は笑った。
ほころぶ花のように。
────
カチッ。
「ん ? 今なんか音がしなかったか ? 」
「え ? そう ? 気のせいじゃない ? 」
カチッカチッ。
「……カウンターよ」
「え ? ……マジかよ !? なんで増えてんだよ !? もう後は『戦乙女』一人だったはずなのに…… !? 」
カチッカチッカチッ。
「なにこの『その他』って項目 !? お供か何か !? 」
「まあいいじゃねえか……。ゆっくりやれば……」
「何言ってるの !? 私はさっさとクリアして…… 」




