13缶目 Don't Drink and Drive
「さて、街はどうなっているかな ? 」。
酉井は、さほど遠くもない街の人工的な煌めきを目を細めて眩しそうに眺めた。
「そ、そうだ、母さん ! 」。
零は慌てたようにスマホを取り出すが、その焦り顔がすぐに落胆する。
「……ダメだ……電波が届いてない……今時そんな場所あるの…… ? 」。
「この山はどうも電波が悪いんだよ。家だとネット経由で通話アプリが使えるが……」。
酉井は大手携帯キャリア会社の料金プラン並みに難解な顔で言った。
「……やっぱり山自体、呪われてんじゃないの ? どうしよう……母さん、無事かな ? 」。
零の顔はますます悲痛なものとなる。
「心配なら、直接様子を見に行ってみるか。さあ乗れ ! 」。
酉井は颯爽と、山道に放置され、恐らく永遠に持ち主が取りに来ることはないであろう大型ワゴン車の運転席に乗り込み、助手席のドアを開けて零に手を差し出した。
その様は零に昔見たアニメ映画で空飛ぶ魔法の絨毯に乗った主人公がヒロインに向かって手を差し出す場面を想起させたが、実際はアルコールを飲んだばかりの男が運転しようとする無法の放置車だ。
伸ばされた手をとりかけた零は寸前で正気に戻る。
「いや、いやいや、一瞬なんかキュンと来ちゃったけど、ちょっと待って酉井さん、あんたさっきストロング系酎ハイ飲んでたよね !? 飲酒運転になるよ !! 免許取り消し三年だよ ! 」。
スナックでバイトしている彼女は、その辺りに詳しい。
慌てて酉井を止めた。
「安心しろ ! 俺は元々無免許だ ! 」。
「何運転しようとしてんだよ !? 余計安心できねえし ! 死んでるから病気にならないみたいな論理展開すんなよ ! 無敵かよ ! それに5年以下の懲役、または100万円以下の罰金が課されるんだよ !? 」。
「……お前、母親が危ないかもしれないのにお金の心配なんて……。 芥川の『杜子春』だったらお前は仙人に殺されるタイプだな……」。
「私が心配してんのは、今から遠くない未来に酩酊したあんたに轢かれる無辜の市民のことだよ ! 」。
酉井はわざとらしく溜息を吐いた。
「……お前がその反社会的な見た目と違って法令を遵守する人間なのはわかった。だが今は恐らく非常時だ。選べ。さっきみたいなゾンビが溢れているかもしれない街中を徒歩で行って襲われるか、それともちょっとやそっとでは壊れない日本一の車メーカー謹製の大型ワゴン車で安全にお前の母親の店まで行って、彼女を救出してそのまま街を脱出して避難するかを」。
「なんなの ? その後者を選ばざるを得ないような恣意的な選択肢は !? 政権を批判したくてたまらない大手新聞社のアンケートかよ !? 」。
零は天を仰いだ。
そして色々なモノを心の天秤にかけて、結論を出す。
「……わかった。でも安全運転で行ってね」。
「まかせろ ! 」。
そう頼もしく返事をして、運転席のドリンクホルダーに早速ストロング系缶酎ハイをセットした酉井を零は思い切り叩いた。




