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僕らは、銅貨5枚ちょっとの命を。

作者: 蛍さん


僕らの命は、平等だ。


平等に、銅貨5枚だ。


誰もが、誰かと同じような、灰に変わっていくのだろう。

銅貨5枚で。



ーーーーーーーーーーーー


やけに景色がゆっくり感じた。



目の前でゆらゆらと動き出したそれが、まるでコマ送りかのように思えた。


「ああ、ここで死ぬんだな。」


自分でも驚くほど、冷静にそう感じた。


足掻きとか、考えられないほどに、猛烈に、それは脳内を支配した。




ちょっとだけ、それでもいいと思えた。

銅貨5枚の命は、ここまでだったんだって、感じた。




ただ、視界の隅に、倒れたパーティーメンバーの姿が見えた。



彼は、僧侶だった。


幾度もなくピンチを救ってくれた。


骨折だって切り傷だって、彼に任せればなんだって治してくれた。


勿論、それだけじゃない。

酒を朝まで飲み明かしたし、風呂にも入ったし、まじめな話だって、沢山した。



どうでもいい話で、心の底から笑いあえるような、そんな奴だった。



「そんな奴が、もうすぐ、銅貨5枚になる。」





違うほうに、倒れこむ二人がいた。



彼女たちは、魔法使いと、弓術士だった。


僕らは、最初から、それこそ、一番最初の戦闘から一緒だった。


ろくに魔法も打てなかった魔法使いと、弓よりも短剣の扱いのほうが様になる弓術士だった。


正直、全然強くなかったし、性格だって、褒められるような奴らじゃないかもしれないけれども、


あいつらの思い出話だったら、何時間でも語れる。


「そんな奴らが、もうすぐ銅貨5枚になる。」





そう、いつだって、命は平等に銅貨5枚だ。



死んで、灰になる。

それにかかる費用は、銅貨5枚だ。




親友であろうと、赤の他人であろうと、銅貨5枚だ。




もう一人、ここにいないもう一人、僕らにはパーティーメンバーがいた。


そいつは、僕たちを残して早くに死んでいった。

あまりにも、あっけなく。


当然、僕らは銅貨5枚を支払った。


その時の感情を、ずっと覚えている。


「たった、銅貨5枚だ。

一日の食費にも満たないこんな金額で、あいつは、他の誰かと同じような、灰に変わったんだ。」


それから、僕は、そいつが好きだった酒を一本墓に置いた。




今になって、何故か思った。


そいつの命は、きっと、銅貨5枚と、「ちょっと」だったんだと。


置いた酒と、僕らの思いの分の、「ちょっと」だ。





埋め尽くされた思考の中で、少しだけ、笑えた。



それから、痛みでうまく動かなくなった腕で、剣をしっかりと握った。


その瞬間、コマ送りみたいだった目の前の怪物は突然スムーズに動き出した。



それを、冷静に捉える。



チャンスを、逃さないように。











僕の命は、銅貨5枚だ。

あいつらの命も、銅貨5枚だ。


銅貨5枚のこの世界で、僕は、「ちょっと」が欲しい。







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