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その後(フレデリック殿下視点)

3パターン目で投稿しました…






 ───いつからだったろうか……アリアが私に対して『フレディ』という愛称を使わなくなったのは。

 それはまさしく、アリアにとって線引きだったのだろう。




 いま私はアリアの屋敷にやってきている。

 それはいつものことだが…今回は少し勝手が違った。なぜか公爵子息であるロディアス・ベリドに呼ばれたのだ。ロディはアリアが慕っているエリーザ嬢の兄で私にとって幼なじみとも言える存在なのだが、なぜ彼からアリアの屋敷に来るように連絡が来たのか解せない。


 侍女に案内され、応接間に向かうと…そこにはアリアとロディだけではなく、エリーザ嬢までいる。これはどういう状況なのか、さっぱり理解できない。

 そしてアリアが驚いた目でこちらを見つめている。どうやらロディが私を呼び出したことを知らなかったようだ。3人は私が部屋に入ると立ち上がる。


 アリアの目を丸くしたかわいらしい表情に思わず笑みを浮かべるとロディが咳払いをした。…うるさいぞ。


「いや~、忙しいだろうに悪いな?呼び出したりして」


 全然悪いと思っていないのが伝わってくるが、ロディの隣にいるエリーザ嬢が表情を堅くしているのが目に入った。

 淑女としての礼をとるエリーザ嬢の所作はさすがに美しい。アリアが絶賛するのも頷ける完璧さだ。

 とりあえず座るように3人に告げると、エリーザ嬢が口を開いた。


「恐れ多くも殿下をお呼び立てするなど…愚兄の所業にはお詫びの言葉もございません」

「そうです、ロディさま。なぜ殿下をお呼びになったのですか?」


 アリアの言葉に私は思わず眉をひそめた。


 母である王妃に呼ばれ、幼い頃より王宮によく来ていたアリアはロディともよく顔を合わせていたから親しい。だから愛称で呼ぶのも分かるのだが…。

 アリアはロディを今でも愛称で呼ぶが、私のことは呼ばなくなっている。そのことを思うと胸が痛む。理由は何となく分かるから、何も言えない。


「ここは腹を割って話し合ったほうがいいと思ってな。エリーザも遠慮はいらないから、フレディに存分にぶつかれ。いいよな?フレディ」

「それは構わないが…」


 エリーザ嬢にはいつも丁寧に接してもらっているが距離を置かれているのが分かる…つまり、あまり好意を持たれていないのだ。その彼女が私に話があるというのは腑に落ちない。


「では、お言葉に甘えます」


 いつもは物腰柔らかいエリーザ嬢の瞳が鋭いものに変わった。


「このたび、マリアリアを王太子妃に選ばれたと伺っておりますが、お考え直しいただけませんか」

「……なに?」

「エリーザさま!」

「ブハッ!直球だな、おい」

「お兄さまは黙ってらして!」


 エリーザ嬢は途端に目を潤ませた。


「だって、あんまりではありませんか…わたくしのかわいいマリーへのこの仕打ち…決めました。王太子妃にはわたくしがなります。どうか、マリーを解放してくださいませ!」


 ……衝撃発言に固まりかけたが、つまり…エリーザ嬢はアリアと同じように勘違いしているらしい。お飾りの王太子妃にしようとしている、と。

 だが、アリアが慕う彼女の人柄に間違いはないようだ。自分が身代わりになると宣言しているのだから。


「違うのです、エリーザさま」

「何が違うの?わたくしは知っているのよ。以前、殿下が恋人と会えるように尽力していたこと」


 その言葉に私はハッと息を呑んだ。確かに、かつての恋人との逢瀬にアリアに協力してもらったことがあるからだ。


「マリーはお兄さまのところに嫁いで幸せにしてもらったほうがいいのです」


 青ざめて言葉を失くした私にさらに追い打ちをかける発言。どういうことかと目で問いかけるとロディはニヤリと笑った。


「ああ、そういう話もあったな。親父はマリーちゃんをかわいがってるがそれだけじゃなく、宰相としてマリーちゃんの知識を気にしていたしな」

「知識…?」


 呆然と呟いたのはアリアだった。

 宰相であるベリド公爵は王宮によくやってくるアリアを確かにかわいがっていた。こう言っては何だが…厳つい顔をしている彼に家族以外の少女が懐いてくるのが嬉しかったらしい。


「子どもの頃から親父に相談していたんだろう?民の生活利便性のためにできないかと色々アイデアを出して」

「でも、それはダメ出しも多くて…」

「お父さまはおっしゃっていたわ。マリーの知識は他国に持ち出してはならないと」

「マリーちゃん、自覚ないだろうけど不思議な知識持っているからな。だから王太子がダメなら、俺に娶れって言われてな~」


 思いも寄らないことだったのだろう。アリアは複雑な表情を浮かべている。

 きっとベリド公爵はできるだけ高位の者にアリアを嫁がせ、万が一にも他国に存在を気づかれて手出しされないようにしたかったに違いない。その点は私が理想の相手だったのだろうが……私にその気がないとなると息子に白羽の矢を立てたか。


 私はかつて、恋人を愛している姿をアリアに見られている。だから、すぐに婚約に踏みきれなかった…できるだけ時間をかけて、今はアリアを想っていることを知ってもらいたかったのだ。父である国王が急かさなければまだ婚約は先延ばしにしていたに違いない。


 ロディには感謝しなければならない。私がアリアに想いを寄せていることを知っていてのらりくらりとベリド公爵の思惑を避けてくれたに違いないのだから。


「お兄さまなら、マリーを大切にしてくれますわ」

「いや、大切にはするけどさ~」


 ロディが早く言えと目配せしてくる。私は頷いた。


「エリーザ嬢が心配されるのは最もだ。だが、今の私はアリアを愛している。この先、アリア以外を愛することはない。神に誓ってもいい」


 口をぱくつかせてリンゴのように真っ赤になったアリアが目に入る。あまりのかわいさに抱きしめたい衝動に駆られるが、ここはエリーザ嬢に認めてもらうため辛抱だ。


「……マリーを妹のように思ってらした方が、いつから女性として意識してらしたのか、お聞かせ願えますか?」


 まだ納得できないらしいエリーザ嬢は問うてきた。

 ロディが興味津々といった感じで目を爛々とさせてくるから答えづらかったが…アリアとのことを避けてくれた恩もあるしな。


「次に私が祝福されない相手を妻にと望んだ時に妃に選んでほしいと言ってきた時だ。……本当に驚いた。あれから、アリアから目が離せなくなった」


 同時に自分のことしか考えてないことに気づいて恥ずかしくなった。民を守るべきはずの自分がこれではダメだと前を向こうと考えたのだ。


「ああ!あの頃からだよな~。マリーちゃんを『アリア』って呼ぶようになったの。自分だけが呼ぶ愛称が欲しいからって…ブフッ!独占欲強過ぎ」


 すぐ察するところは有能である証だが、こんな時にその有能さは必要ないぞ。


「も…もう勘弁してください~。わたし恥ずかしさのあまり、ベッドに潜り込んでしまいたくなります…」

「しっかりしなさい、マリー。ここはせっかくの場、殿下を吊し上げ…もとい、しっかりお話を聞くのです」


 完璧な淑女とはいえ、さすがはロディの妹というべきか。本音は吊し上げ…。

 しかし照れているアリアはかわいい。ベッドと言ったか…私も一緒に入りたい。アリアを抱きしめて眠ったら幸せだろうな…。


「あ、これは良からぬことを考えてるぞ?優秀な王太子さまもマリーちゃんには形無しだな」

「え?え?」


 もう我慢できない。この顔ぶれだと遠慮はいらないだろう。私は立ち上がるとアリアを引き寄せた。


「な、何をっ…」

「アリアが足りないから」


 ぎゅっと抱きしめると心が満たされる。この腕の中に幸せがあると感じた。しかし、私は過去にアリアを苦しめた。これからは誰より幸せにすると誓いたい。


「あーあ、幸せそうにしちゃって」

「殿下のあんな表情…初めて見ましたわ。これは認めるしかありませんわね」


 兄妹は呆れ半分、だが微笑ましいと言わんばかりの笑顔でそっと部屋を出て行った。2人には後でたっぷり礼をしよう。


「で、殿下」

「…アリア、もう一度チャンスをくれないか」


 エリーザ嬢は認めてくれたが、私への恋心を諦めたアリアとの距離は一向に縮まらない。どれほどの時間をかければいいだろう。


「ご心配なく。わたしの心は、殿下の───()()()()さまのものですよ」


 いま、空耳が聞こえただろうか。アリアが『フレディ』と呼んだ。何より、アリアの心が私にあると、そう聞こえた。


「わたしは…すごく幸せです」

「アリア……ありがとう」


 私はいま世界中で一番幸せな男に違いない。側近が呼びに来るまでいつまでもアリアを抱きしめた。






なろうさんの機能を色々知ることができた作品になりました。

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