前編
ずっと読み専でしたが、嬉し恥ずかし(笑)の初投稿です。気まぐれにボチボチ書いてみようかと……どうぞ、よろしくお願いします。
美しい音楽に合わせて、色とりどりのドレスに身を包んだご令嬢たちが舞っている。そのご令嬢たちをそつなくエスコートする貴公子たち───ごちそうさまです、とそれをニマニマ眺めるわたし。まあ、通常仕様と言えるだろう。
わたしはマリアリア・リーデンス…一応、侯爵令嬢という肩書きがついてたりする。今日は待ちに待った王宮での夜会に参加して、美男美女ウォッチングを楽しんでたりしているわけで……ああっ、あのカップルすごくお似合い!と、こんな具合である。
ダンスは踊らないのかって?いや~、当然のごとく壁の花状態ですよ。皆さんの様子を見るのが大好きなので気にしませんが。
16歳となり、社交界デビューしてから2回目の夜会……デビューの時は主役の一人でもあったのでロクに楽しめなかったが、今回は存分に楽しむ予定だ。美男美女探しに勤しもう。そして並び立つ姿をさりげなくガン見するのだ!仮にも淑女たるもの、さりげなくね。
王太子妃選びも兼ねている夜会に参加しながら普通のご令嬢と違うという自覚はもちろんあり……というのも、わたしには地球の日本人だったという前世の記憶があったりする。
記憶が戻った時は昔のヨーロッパ風の周囲に時代を逆行して生まれ変わったのかとも思ったが、国名は聞いたこともなく、地図を見ても見たことがない形のものだったことから異世界(もしくは別の惑星?)だと判断した。
日本人だったわたしだが、中世~近世ヨーロッパのドレスに憧れていた。さらに言えば、幼い頃は王子さまとお姫さまのラブロマンスに憧れていたのだ。
もちろん自分がお姫さまになりたいわけではなく、お姫さまと王子さまを第三者として見たい。
(あ~、でも王太子妃選びがあったんだよな~)
第三者としてならテンションが上がるだけのネタだが、面倒くさい…と心中でぼやくのを許してほしい。御年21歳になられる王太子殿下・フレデリックさまには未だに婚約者がいらっしゃらない。しびれを切らした国王陛下が本日の夜会はめぼしい令嬢とダンスだけでなく少しずつ時間をとって過ごすようにと厳命されたのだ。
伯爵家以上の婚約者のいない令嬢にもそのお達しがあった。……ええ、つまり該当してしまったわけですよ。でも、わたしには今さらな感じだし、外してもらって良かったのに。
王妃さまとわたしの母は従姉妹同士で、幼い頃からよく王宮に連れて行ってもらっていた。娘のいない王妃さまがわたしを伴うことを希望され、それはもう可愛がってもらっていたものだ。フレデリック殿下とは顔を合わせることも多かったし、幼なじみのようなものだろう。当然のようにかつての恋人の存在も知っている。
『マリーが社交界デビューして嬉しいわ。フレデリックのこと、お願いね』
王妃さまのお言葉が頭をよぎる。これって、王太子妃選びに協力してほしいということだよね…と慌ててご令嬢の情報を集めたので、わたしとの時間の時にフレデリック殿下に報告するつもりだ。
ちなみにイチオシは公爵令嬢であるエリーザさまだ。知性・美貌・人柄と三拍子揃ったお方だ。こんな方がお妃に選ばれないことなどあっていいのか、いいや、ない。
「アリア」
悦に入っていると、涼やかな美声がわたしの名を呼んだ。わたしの普段の愛称は『マリー』だが、この方───フレデリック殿下だけはいつからか『アリア』と呼ばれるようになった。
「殿下。ご無沙汰しています」
振り返って淑女の礼をとると、本当になと恨みがましく返ってきた。
「おまえは本当に薄情だ。社交界デビューが近くなった途端に王宮に顔を出さなくなったからな。母も寂しがってる」
「いくら親戚とはいえ、さすがに以前のようにはいきませんから…ましてや殿下はご婚約者すら決まっていませんし」
チラッと見上げると拗ねた表情が目に入る。何コレ、美形でもかわいいとか反則なんですけど!
フレデリック殿下は銀髪に紫の瞳という王族の特徴を揃えた容姿に加えて群を抜いて美形である。ちなみにわたしも一応王族の血が入っているので紫の瞳を持っているが、髪は前世の影響もあるのか黒髪だ。個人的には気に入っている。
「………ようやくおまえの番になったからな。残りの時間はたっぷり私と過ごしてもらうぞ」
「え?短時間…」
「おまえが最後だ、問題ない」
え?ちょっと待ってくださいよ…夜会が始まってそこまで時間経ってない…。本当にそれぞれのご令嬢との時間を取ったのだろうか…と疑問に思っているうちに腰に手を回された。
「さ、疲れたからバルコニーにでも避難しよう」
「え…」
「おまえはすぐ他の誰かを観察し始めるだろうからな。人気の少ないところに行こう」
「そんな~…」
まだまだ美男美女を見ていたいわたしはうなだれた。
はい、こちらバルコニーです。月明かりが庭園の花々を照らしていてどこか和みます。わたしも気を取り直していこうではありませんか。
仕方ないので、美男美女ウォッチングは次回にでも期待することにしよう。
心の中でメガネをかけて会社のプレゼン(前世では会社員でした)よろしく、水魔法を展開してプロジェクターの代わりになるものを作る。そう、この世界には魔法があるのだ。なんて素晴らしい。
「それは?」
「まあまあ、見てください」
わたしはあらかじめ取り込んでいたご令嬢の情報を水の魔法で作ったプロジェクターに綺麗に映し出す。水を凍らせ、なおかつ画像をキレイに映し出せるようにしたのだ。
「こちらには本日、王太子妃候補と目されているご令嬢たちの情報を載せています」
わたしの珍しい魔法にしばし瞠目していたフレデリック殿下だが、その内容を聞いた途端に溜息をつかれた。
「必要ない」
「え?ですが」
「アリアのことだ。エリーザ嬢を薦めるのだろう」
……当たりですが。付き合いの長い殿下には丸わかりだったようだ。
「王太子妃ならもう決めてある」
な、なんですと!?驚きのあまり、パカッと大口をあけてしまったことを許してほしい。
「ど、どちらのご令嬢ですか!?ああ、ようやく王子さまとお姫さまのラブロマンスをこの目で見ることができるのねっ」
興奮して涙目にまでなったわたしに殿下は深々と溜息をついた。
「アリア」
「はい」
「………」
「あの?じらさずに教えていただけると…」
…また深い深い溜息ついてるし。何なんだろう。
「だから、おまえだ、アリア」
「は…?」
「王太子妃はアリアだ」
わたしが、王太子妃。それは昔からの約束……つまり、それは───お飾りの妃になれとの宣言に他ならなかった。
「あー、そういうことですか……」
フレデリック殿下はわたしの力ない反応を不思議そうに見つめている。それもそうだろう、彼からしてみれば約束していたことを実行しようとしているだけなのだから。
「了解しました。精一杯務めさせていただきます。落ち着いたら、相手の方を紹介してくださいね」
「どういうことだ?」
「子どもが出来た際の段取りも決めないといけないし…まあ、それはもう少し先になりますか」
「おい、アリア?」
ダメだ。これ以上はここにいたくない。
「殿下、申し訳ありませんが少々気分が優れなくなりまして…わたしはこれにて失礼します」
「待て、アリア」
わたしはフレデリック殿下の呼び止める声を聞こえなかったふりをして、その場を走り去った。
もし読んでくださった方がいらっしゃったなら、感謝します!