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ワガママ王女は今さっき死にました  作者: あまみや瑛理
とにかくワガママな王女は今さっき死にました
5/15

ダンスパーティー…ですか?






今朝の一件が、頭から離れない。


《パーティー?聞いてないわよ》


毒づきたくなる話だ。

おしゃれは好きだ、お菓子も好きだ、でもお見合いは嫌いだ。

他にも理由はある。


《これで寿命が縮まったりはしないだろうか》


という不安。


《こんな戦の雲行きの中で、ダンスパーティーなんて開くと公言していいのだろうか》


という心配。

軍事費が減って財政が厳しくなってもおかしくないだろうし、そんな時に他国から人も、はたまた国内の子息、令嬢も集まらない気がする。


そして最後に、私のお相手が伝えられていない。


これは奇妙だ。

王女のお披露目という口実も説得力に欠ける。

お母様やお父様なりの考え方もあるのだろうが、納得できない。

ああ、もうやめよう。

考えてもきりがない。

直接聞くのが一番だ。






謁見の間から離れ、昼食を食べに部屋へ戻ると、夕食の集まりの為に大広間へと移動する。

一昨年まで朝食と昼食はそれぞれだったが、夕食は毎日一緒だった。

それが週に一度に減らされた。

クレアの甘えようを見ずに済むのはありがたいが、お母様とお父様とはもっと話したいと不満もある。

…どれもこれも戦争のせいなのだろう。


お母様とお父様。その間にクレア。

私はお父様の後ろをついて歩く。

その後ろを位の高い順に、侍女と執事が歩く。

なんという光景だろう。

心底笑いたくなる。

私とクレアは本来、お父様とお母様の後ろについて歩くべきなのに、まるで私だけ仲間外れにされているようだ。


「クレア、列に戻りなさい」

「いやです、お母しゃま」

「クレア、駄目だよ」


二人に怒られたクレアは、ゆっくり頷いて私の隣に戻る。

内心少し笑ってしまった。


《昔の私みたい》


姿の似たクレアに、自分を重ね合わせるのは初めてかもしれない。

いつもクレアと私は違うのだと、言い張っていた気がするが、やはり私達は姉妹なのだ。血の繋がった姉妹。


だが意識すればするほど、否定したくなってくる。

私の方がすごいのだと。

───ただの悪足掻きだ。私はクレアに劣っている。

随分と前から暗示か、事実か見分けがつかなくなっている。そしてもう、根拠を見つけてしまった。


《私は完璧を求められていない》

《私はずっとほっとかれている》

《クレアが完璧を求められている》

《クレアの方が私より優秀だから》


クレアが前に行こうとするのが、横目に見えた。

ここで制すのが姉としての役目なのだろうが、自分にそんな権利があるとは、とても思えなかった。


「クレア駄目でしょう?」

「ほら、着いたよ」


お父様とお母様の声が重なって、クレアに向かう。

いつも見ている風景なのに、今日はやけに寂しく思えた。





部屋にはテーブルクロスを引いた、長机がある。

私達の食卓だ。


奥にお父様。お父様の近くにお母様。

お母様の向かいに私。その隣にクレア。

執事達が椅子を引き、席に着く。

座ると、昼食の美味しい匂いが漂ってきた。

お腹が空いたと思うとすぐに、全員の顔を見たお父様が合図をして、昼食が始まる。

お母様は優雅に、ゆっくりと食べる。

私は好きな物を取り皿に乗せ、極力優雅に見えるように口に運ぶ。

クレアは私より優雅に、けれど落ち着きなく食べる。

お父様も取り皿に乗せるが、あまり噛まず、早く食べていく。

お行儀悪いといわれても、仕方がないかもしれない。


昔、『どうしてそんなに早く食べるの』と聞いた事がある。

お父様は『食べる時間を仕事に回したいからだ』と答えた。

お母様は笑って、『出会ったばかりの頃はもう少しゆっくり食べていたのに、だんだん早くなっていったのよ』と言っていた。

あの時、クレアは居なかった。

色々な記憶が思い出されるが、クレアの居た記憶が大半を占めている気がした。


「ダンスパーティー…」


ある程度食事が進んでから、箸を置いて話す。

視線が私に集中する。


「お見合いのお相手はどなたですか?」

「サルフォレッド公爵の御子息よ」

「ルシと同い年だ」


公爵なら国内だから、国から出る事もない。

政略結婚で国の力を高める為といった所。

だけどそんな事のために、大々的なダンスパーティーなんて開くだろうか。


「なるほど。でもなぜ今?」

「どういう事だ」

「一般的にお披露目は、十歳から十五歳が普通です。私は来年で十三歳ですから、クレアが十歳になるのを待ってもいいと思ったのですが」


戦について話すのはタブーだから、他にも理由があると思っていたが、話したがらないのは何故だろう。


「早い方がいいと思っただけよ、でもどうしたの。変えたいの?」

「いいえ、いいのなら別に」


戦や私について以外の理由なら、口を出す事ではない。

直感に従ってデザードが出るのを待つ。

視線がまだちらちらと来る。

無言が苦しかった。

女官が運んできたデザートは、チョコレートクッキー?

食べた瞬間、驚いた。

レイチェルが昨日作ってくれたのと、ほとんど同じ味。そして何より、私がこれまで食べてきたクッキーの中でも、特に美味しかったから!





昼食が終わると、バラバラに部屋を出る。

暗い考えから解放される気がして、レイチェルを呼んだ。


「ねえレイチェル、昨日のクッキーって自分で考えた?」

「ああバレちゃいましたか?あれは、女官長様のレシピを真似たものなんです」

「女官長のなの?」

「ええ、そうですが?」


考え事をやめると、暗かった意識も一気に変わったようだった。

レイチェルと部屋を出て、女官長を探す。

善は急げと言うが、そんな小難しい事ではなく、気分転換に出かけた。

そして当初の予定を実行する事にした。


《女官長に仲間になってもらおう》


女官長はすぐには見つからなかった。

けれどあのとても美味しいクッキーは、なんとかしてまた作ってもらわなければならない。

女官や執事をあたってはすぐに部屋へ来るように、と伝えてもらう。





昼食から約二時間後。

女官長を仲間に引き入れたいとレイチェルに話すと、あっさり賛同を得、私が部屋で昨日の物語を読んでいた時、ドアをノックする音が聞こえた。


「誰?」


白々しいとわかりつつ、女官長の返事を待った。


「女官長サフィナ・キャングレフでございます」

「どうぞ」


ドアを開ける。


「女官達に聞き、参りました。…何の用でしょうか、ルシ王女様」

「チョコレートクッキーなんだけど」

「チョコレートクッキー?今日のですか?」

「そうそう!あれ作ったのって、あなた?」

「はい。そうですが、どうかなさいましたか?」


女官長は心配そうにこちらをみる。


「チョコレートクッキーがね、すごく美味しかったのよ!」

「はぁ…。驚かさないでくださいませ」

「ふふふっ、そんなつもりじゃなかったの。ごめんなさいね」


女官長はとても、ただとても驚いたように見える。

何故だろう。

謝ったからだろうか。


「…そんな事じゃなくて、言いたかったのはチョコレートクッキーを作って欲しいの。私に」

「そんな事でお呼びになったのですか?」

「もちろん!あんな美味しいクッキー、初めて食べたわ」


女官長がかすかに微笑んだのが見えた。


「ね?だめかしら?」

「いいですが、食べすぎないようにしてくださいね。栄養の面で心配です」

「わかったわ。そうそうお菓子は取りに行くわね」

「届けさせてもいいのですが?」

「結構よ。女官長に直接取りに行くわ。チョコレートクッキーがもっと美味しく食べれるように、お腹は空かしておくつもりよ」


女官長は笑った。

そして夕食の準備があるのでと、部屋を出た。

そこからはレイチェルの世話係時代の話、昨日の物語で盛り上がった。





ずっと話していた私達に、夕食の時間は早く訪れた。

支度をして、昼食と同じ部屋に座る。

着いた時には既に、クレアとお母様が居た。


「ルシお姉しゃま」

「クレア。相変わらず早いのね」


私とクレアが話す事は滅多になかった。

私のひとりでな対抗心によって。


靴の鳴る音がする。お父様だ。

そしてお父様が席に着くと、夕食が始まる。

会話はクレアについての事が多い。

勉強の進行度についても話す。

私は会話に加わっては、自己中心的な言動でかき乱していた。

だが、これからはやめようと思う。

直球だけを伝えよう。

これは新たな挑戦と、思考を休ませたいという切実な願いだ。


「お母様。サルフォレッド公爵の御子息と私は、許婚になるのですか?」

「ええ。結婚にはまだ早いでしょう」

「私はいつ結婚しゅるのでしょう?」


会場はどこかという次の質問をしようと口を開くと、クレアが横槍を入れる。

クレアに縁談の話が持ち上がるのは、恐らくダンスパーティーが妥当だろう。

そしてお父様もお母様も、私とは違い、そう簡単にクレアを手放そうとはしないはずだ。

そう考えると、また胸が苦しくなってきた。


「クレアはいつだろうね」


ほら、曖昧。


「クレアは可愛いから、きっともうすぐだよ」


確かにそうだろう。

クレアは可愛い。いくつもの縁談話が持ち上がるかもしれない。その時はお父様は恋愛結婚を許すだろうか。


《クレアの方が優秀だから》


頭がクラクラしてきた。

かろうじてデザートを食べ終わり、解散まで持ち堪えた。

自分の存在はなんなのだと、ついつい考えずにはいられなかった。





部屋への帰り道の途中、女官長の元へ寄った。


「チョコレートクッキーを貰いに来たの」

「あの、ルシ王女様。もう夜ですよ?」

「仕方ないじゃない。体調不良で夕食を十分に食べれなかったんだもの」

「はあ、では持って来ますね。ここで待っていてください」

「ありがとう」


女官長は応接間に私達を残し、ひとり厨房に消えた。


「レシピ、見れなかったわね」

「いいんです。あの味は女官長様しか作れませんよ」

「レイチェル、胸が苦しい時ってどうすればいいかしら?」

「私なら深呼吸ですね」

「深呼吸か…」

「女官長様に教わったんです。あの人は優しくて、お母さんみたいな人です」

「レイチェル、私いい事考えたわ」


女官長は丁度いいタイミングで現れ、箱に入ったクッキーを渡す。


「ルシ王女様、あんまり食べ過ぎないように。お願いしますね」

「…ええ。わかったわ」


食べたくなるのを堪えて、しぶしぶ頷く。


「あのね、女官長。私が悩み事話せば、女官長は聞いてくれる?」

「ええ。ですが的確なアドバイスは求めないでくださいね」


女官長は『よく厳しすぎると言われる』と、笑った。

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