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ワガママ王女は今さっき死にました  作者: あまみや瑛理
とにかくワガママな王女は今さっき死にました
13/15

悪夢は慣れない 下

『悪夢は慣れない 上』の続きです。

長くなると思って、思い切って分けてみました。

繋げた方がいい、繋げない方がいいなどご意見、感想等、よろしくお願いします。







レイチェルに支えられ、やっとの事で謁見の間から離れる。

部屋へ戻り、たんまりとチョコレートクッキーを食べる。

なのに全然落ち着かない。クラクラは治まったが、なんだかいつもと違う。


《気持ち悪い。体が重い…。なんでだろ》


この対応も、この後のことも。全て経験してる事なのにな。


昼食の集まりの為に大広間へと移動する。この後クレアと顔を合わせるのは夕食の時か。

この頃は多分まだ、週に一度の家族で食べる夕食。

今日以降、なかなかお母様とお父様とは会えないのは寂しいが、どれもこれも戦争のせいだ。

それにもっと長生きできれば、きっと二人も振り向いてくれる。…はずだ。


お母様とお父様。その間にクレア。

私はお父様の後ろをついて歩く。

その後ろを位の高い順に、侍女と執事が歩く。


《やっぱり私だけ仲間はずれ》

変わらない光景だ。


《気持ち悪い、だるい。なんかやだ》


やはりこれは、おさまらない。


「クレア、列に戻りなさい」

「いやです、お母しゃま」

「クレア、駄目だよ」


そうだったそうだった。

全然変わらない。だから落ち着かないのかもしれない。

にしてもどうしようか。

ダンスパーティーから、どうにかして抜け出せはしないだろうか。

でも『確定事項』。

どうしようか。

骨折…は、王女として守りが固すぎて無理。

毒…は、死んでしまうからやだ。


《あれ?ああ、そっか》


やけに簡単に思ってしまったが、考え見れば、まだ生きられると決まった訳ではないのだ。

ならいいではないか。

ダンスは程々に練習して、何においてもダンスは二の次にしておこう。

ダンスパーティー…。気が引ける事に変わりはないが、やめさせるのは無理なのは絶対だろう。


クレアが前に行こうとしている。

ここで制すのが姉としての役目なのだと、マリアンヌ先生は『姉として』と言っては、こういった事も教えてくれていた。


《でもごめんなさい、マリアンヌ先生。私できない。酷く、疲れてもいるし。ここで怒ってお父様とお母様がクレアをかばうのも見たくない》


「クレア駄目でしょう?」


《クレアには二人はこんなに優しいんだもの。多分庇うでしょう?》


「ほら、着いたよ」


お父様とお母様の声が重なって、クレアに向かう。

二人の声は、クレアを優しく先導するようだ。

そしてその手は、決して私には向けられていない。


《やっぱり寂しい…な》


だめだ、こんなことでは。

こんな事では……。

この後のことがわかっているから、余計に寂しいのかもしれない。でも最期くらいと、前回の巻き戻りは思ったけど、私ならまだ会えるんだから。まだまだ会えるんだから。





お父様達の進む方には、嫌な静けさをまとう、白いテーブルクロスをひいた長机。

そしてそれぞれに座る。

席は変わらない。こうなる前から決まっている。

クレアに対するお父様方の気持ち以上に、変わりようがないのだ。


《大丈夫、きっと変えられる》


くだらない。なんでこんな様々なものと重ね合わせようとするのだろう。

その時、自分が不安で仕方がないだけだと納得した。

目の前の光景がスローモーションに見える。


それぞれが席の前あたりへ向かう。そして静止する。

奥にお父様。お父様の近くにお母様。

お母様の向かいに私。その隣にクレア。

執事達が椅子を引き、席に着く。

座ると、スープの美味しい匂いが漂ってきた。

さっき食べたばかりなのにお腹が空いてきている。

そう思うとすぐに、全員の顔を見たお父様が合図をして、夕食が始まる。


《お父様が、私の顔を見てくれたっ》


なんてはしゃいでる自分を、シラけた自分が馬鹿みたいだと笑う。


《頭がいたくなってきた。…だるい》


ある程度食事が進んでから、視線をみんなに向けてみる。

お母様は優雅に、ゆっくりと食べる。

私は好きな物を取り皿に乗せ、極力優雅に見えるように口に運ぶ。

クレアは私より優雅に、けれど落ち着きなく食べる。

お父様も取り皿に乗せるが、あまり噛まず、早く食べていく。


《……また気持ち悪くなってきた》


「ダンスパーティー…行ってもらいますからね?」


ルシ、箸が進んでいないわね。どうしたの、ルシ?大丈夫?

と、お母様に心配してもらうのを望んでいた訳ではない。しかしこれはあまりに辛かった。

お母様にもお父様にもクレアにも私にも行動範囲はある。だからといって、ここまで強制する事は…ないのではないですか?

だけどお母様は相変わらず、箸を置いたままで、お父様とクレアの視線が私とお母様を交互に向け出すと、再び話し出した。


「お見合いのお相手は、サルフォレッド公爵の御子息よ」

「ルシと同い年だ」


《嘘でしょ…!?》


つい、毒づいてしまった。

まさかの展開。

私が聞かなくても、話される事なのですか。


「……」


しばらく固まってしまっていたが、シレッと流す事にした。


「そうですか」


わがままなルシ第一王女としては、必ず食いついてくると思ったのだろう。流石のお父様もお母様も面食らったようだったが、しばらく黙っていた。

前回の巻き戻りの誕生日に、サブウェイ公爵から贈られて来た、高級そうなドレスを思い出した。

もしかするとこの頃にも、我が国にはお金が無かったのだろう。あるいは、無くなりそうだったのかもしれない。

しばらくして、今度はお父様が口を開いた。


「時期について一応話しておく事がある」


それもこの展開なのか。


「一般的にお披露目は、十歳から十五歳が普通だが、ルシは来年でもう十三歳。お前のためには早い方がいいと思ったのだ。クレアはまだ十歳に満たないが、せっかくだから出してやりたい。…それだけだ」


そんなに財政について知られたくないか。自国の娘にさえ。

自分の信用のなさが情けなくもあった。


「そうですか」


お父様達は、またたじろいだ。


「コホンッ…質問はないのか?」

「いいえ。別に」


財政の理由なら、私が何か言えるような事ではない。王女である前に、国民として、従わないわけにはいかない。


《…なんて。その思惑は失敗しますよ、なんて口が裂けても言えない》


それを抜きにしたこの状態は、ただ、ダンスパーティーがやめにならない事に拗ねてるだけなのだ。


さてと。無言の食事に嫌気がさして、お母様よりも残っていた料理を、端から空にしていく。

そしてデザードが出るのを待つ。


視線がまだちらちらと来る。

どちらも現実なのだが、時折引き戻されるようで気にくわない。


さてと。記憶が正しければ、今日はチョコレートクッキーの日。

そして……女官が運んできたデザートは、やっぱりあのチョコレートクッキー!

女官長にそっと目を向けると、仏教面の女官長にとってにこやかに笑いかけてくれた。

そうだ、私は一人じゃないし、やる事はたくさんあるんだ。

と至福のひと時を過ごす中、意識の端で、クレアが余計な一言を言った。


「あー、クッキーか…」

「クレアはクッキーが嫌いなの?」

「ううん。私、ケーキなら上手に食べられるところを、お父様とお母様に見せられたのになって思って」

「まあ、クレアはいい子ね」

「ふふふっ」

「クレアは礼儀作法のお勉強も、得意だもんな」


クレアはとてつもなく嬉しそうに話す。つられているのか、本心なのか。いいや、きっと本心で。

お父様もお母様も笑っているのだ。


《私だって、私だって!私だって上手くできるのに!》


そう。片手にチョコレートクッキーを乗せながら、私は至福の時を楽しめなかった。

クレアのせいで。


《クレアは…わ、私より、も?》


気が収められなくなりそうだと、理性が警戒した。

ちょうど昼食の終わる時間になった。

私は仕方なく大事なチョコレートクッキーを何枚も食べると、スッと立った。


「お先に…失礼します。…おやすみなさい」


そして執事は急いで扉を開けた。

ルシはそのまま、ヒールを鳴らしながら速足に廊下を進んでいった。レイチェルが後を追い、執事達が扉を閉めた。

バタンッ

扉の閉まる事が、容赦なく響く。

急に足の力が抜けたようになった。

それをすかさずレイチェルが支える。


「レイチェル、どうしよう。私…」

「ルシ王女様…」


その後、会話は特にない。

レイチェルが私を支えて部屋へ行ってくれただけだ。


部屋へ着くと、レイチェルはやはり何も言わずに私を椅子へ座らせた。そして王宮図書館から借りてきた本で一杯になった本棚から、適当に二十冊程度抜き出して持ってきた。

二十冊なんて、夕食までの時間では読みきれないだろう。二人合わせて六、七冊読めるかどうかではないだろうか。

昨日のルシがここにいるなら、ルシはそう思ったに違いない。だが今のルシは、言葉や人間並みの思考をすっぽり抜かした生き物だった。


「ルシ王女様。夕食までは本を読んでいましょう」

「そうね…」


レイチェルはルシの前に本を置いた。

ルシは囁くような声で返事をした後、本を広げた。

つかの間安心したレイチェルだが、レイチェルが一冊読み切ってもページが進んでいなかったので、少々不安になった。




単純作業をするように、支度をして、昼食と同じ部屋へ向かい、座る。

着いた時には既に、クレアとお母様が居た。

それだけだ。


空いた時間に何を考えていたのかまるで覚えていない。

散々クレアを罵っては、妹を羨む自分を責めた。

その繰り返しだと思う。

そして何をするでもなく、貴重なはずの時間を過ごし、ここへ来る途中でダンスパーティーを避ける方法を考えいた。


「ルシお姉しゃま」

「クレア。早いのね」


靴の鳴る音が廊下に響く。

するとお父様がいらして、席に着くと、夕食が始まる。

変わらない。

会話はクレアについての事が多い。

変わらない。

ダンスパーティーの話。

変えたい。


《さてどうしようか》


思考を現在から記憶へと巡らす。

『お母様。サルフォレッド公爵の御子息と私は、許婚になるのですか?』

『ええ。結婚にはまだ早いでしょう』

『私はいつ結婚しゅ……』

クレアの言葉が切れたのは、意図的ではないと、思う。

ただ何か引っかかっていた事があったような…?


《カ…イジョウ…。会場ハ?どこ?》


まあそんなような話だった気がする。


《…クレアに縁談の話は…恐らくダンスパーティー……。お父様もお母様も、私とは△◆▽を手放そうとはしないはずだ》


こんな事まで考えていたか。

さて、私は何を話せばいいのだろうか。


「ルシお姉しゃま…」


最悪な人にというか、最高のタイミングというか、とにかくクレアに話しかけられた。


「どうかしたの?クレア」

「ルシお姉しゃまはケッコンするのですか?」


《うわ、嘘でしょ?今度はクレア?》


そんな話する必要はないから。

それと、心臓に悪いからやめてほしい。


「「いいえ」」


私とお母様の声が重なった。


「…私はね、サルフォレッド公爵の御子息、許婚になるのよ。政略結婚よ、わかるかしら?」


《私はなにがなんでも嫌だけれどね》


という顔をお母様とお父様に向けた。


「うん、知っちぇいます」


同情を買う為の作戦だが、この感じでは、どうやら失敗したようだ。

なら次の作戦を使うまで。


「ええ。結婚にはまだ早いでしょう」

「私は…」


『私はいつ結婚しゅるのでしょう?』とは言わせない。

そんな事を言われる前に、言っておきたい事があるのだ。


「結婚、にはまだまだ早いですね。では、許婚でもそれが無くなる事もありますよね?」

「…え?」

「…ゴホンゴホン」


お父様もお母様も驚いて、お父様に限っては、無理に空咳までなさった。


「え、ええ。ある事にはあるけれど、国としては嬉しくないわね。もしルシが王族として、国の大事を脱する策を成し遂げようとする気持ちがあるのなら、必ず結婚にまで事を運ぶべきよ」


少しの間、ルシとお母様は食べ終わった料理を前に、睨み合っていた。

負けんと頑張っていた。

すると唐突にお父様が、コホンコホンッ、と咳をした。きっと堪らなくなったのだろう。

いいタイミングで起きた事態に便乗して、潔く場を去る事にした。


「なるほど。それでは私はこれで」


寂しい想いがしなくもない。だが許婚なんて、クレア一派側かも知らない人を増やすのは嫌だ。

閉まる扉の向こうで、クレアが


「私はいつ結婚しゅるので……?」


と言ったのが、耳の端に聞こえた。


肩の力が急に抜けた。


△◆▽は〔『ダンスパーティー…ですか?』参照〕


誤字脱字、思いの外すごく多いのでちょくちょく直しています。それでも見つからない所も多いので、どうか教えてくださいっ!

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