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ワガママ王女は今さっき死にました  作者: あまみや瑛理
とにかくワガママな王女は今さっき死にました
12/15

悪夢は慣れない 上







起きては本を読んで。

本を読んでは授業を受け。

授業が終われば本を読んで。

本を読んでは寝て。

寝ては起きて。


それをずっと繰り返して、あの悪魔のような七日目の訪れる事への気付きを、避けしようとしていたような気もする。

死んでから繰り返すことは、あのひとのおかけで可能になったけど、来ること自体は避けられない。

死んだ日、そして今日。

それを当日になってから、つくづく思う。

死んだ日は毒のせいか、痛かったり、周りの景色が急に変わったり、あのひとと話したりでこんな恐怖は思い出されない。

だけど、きっと同じなのだろう。そんな気がする。

なぜか前回は怖くなかった謁見の日が、今日は怖い。


生きていると不思議なことばかりだ。

だけど、期待とは予想外のカロライズの返答。だから今度こそ逆に、いい意味でも裏切ってくれると思う。

あの女官長のチョコレートクッキーに気がつけたみたいに、きっと新しいいい事も起こるのだと思う。





そうして巻き戻り二回目の七日目。

遂にこの日が来た。

またしても、来てしまった。

まだ戦争の雲行きが怪しくなる前の、懐かしい日。

同時に悪夢のステージとなる、謁見の間を訪れる日。



「おはよう、レイチェル」


気が重いのを隠すように、笑う。

けれどうまくいかない。


「おはようございます、ルシ王女様。今日は謁見のある日ですね」


レイチェルは笑う。

あんな笑い方ができるレイチェルを、今日だけは羨ましいと思ってしまう。


そして私は前回と同じ、ピンク色の服に銀のティアラ。この衣装を着ていった。

早起きするようになったせいで、早く謁見の間についた。

少しするとクレアが来た。

水色のドレスに青いカチューシャ。肩で降ろされた、金髪のカールの少しかかった髪。

ここまでは前回と何も変わらない。


《そしてあいにく、変わる予定もない》


誰に対しての敵対心でもない。ただなんとなく、拒否感があったのだ。

そんな事を考えていると、特有の重厚な空気が流れた。


お父様とお母様が横を通る。

その後を侍女と執事、計十六名が付いて行く。

二人が正面の席に座る。

そして王族の規則通りに、お母様の手招きに合わせ、私とクレアが前に出る。

私が先に頭を下げ、挨拶を始める。


「おはようございます。お父様、お母様。本日もご機嫌麗しゅう…」

「肩苦しい挨拶はいいわ」


前回なら私は驚愕の顔をしていたはず。だけど今回は、無理に微笑んで顔を上げる。


「はい」


だけどやっぱり、作り笑いは苦手だ。どうも不恰好な気がする。練習しておけば良かったかと、今更に思う。

そんな第一王女に対しクレアは、私の様子など気にしないとばかりに前に出る。

しきたり通りの順序では、私の挨拶が終わると、クレアの挨拶。そして───


「おはようございましゅ。お父しゃま、お母しゃま。本日も、ご機嫌麗しゅう…。」


そして、クレアは走っていく。

私は何も言わない。何もしない。

前回と変わらない、満面の笑顔でお父様とお母様に飛びつく。

何故か見ていられなくて、目を逸らす。


《気にしない、気にしない、気にしてはいけない。気にしない、気にしない》


呪文のように心の中で唱え続ける。

胸の中の暖まる何かを冷やそうと頑張る。


「クレアは…、私は上手に挨拶できていましたか?」

「ええとっても」

「クレアは可愛いな」


そう言って、お父様はクレアを抱きかかえる。これも嫌という程前回と変わらない。


《気にしない、気にしない、気にしてはいけない》


ずっと唱えているのに、胸の中は熱くなるばかりだ。


《落ち着けっ!》


一喝すると、ポタッと手の甲に水滴が落ちた。


「…え…」


誰にも、聞こえないような小さな声。それは私の声だった。

それをきっかけになんでだろう、と考えていた原因を見つけた。そうか、惨めになるのが嫌なんだ。ようやく理解する。


そうだ。元と同じ、そして前と同じ事をしなくちゃ。


「私はどうでしたか?」

「お辞儀が…そうねもう少し。…でもいいわ」


また、素っ気なくされた。


「そう、ですか」


思いっきり泣いてしまいたい衝動に、またも支配される感情を奮い立たせてみる。

頑張って笑おう。


「今度は頑張りますね!」


上手く言えないけど、半分は確実に本心だった。

それでも前とは変わらない。

それをお父様は少し笑ってかわす。

お母様は少し困ったように続ける。


「…えっと、あのね。正直に言うと直さなきゃいけないところが……ありすぎて駄目ね。スカートに触れる手の向きと、そして首の角度と声。あとは…。本当はもっとあるけどまずこのくらいから始めなさい。覚えきれたかしら。でもやりきらないと駄目よ。他国へ行ったら失礼にあたるわよ?」

「は、はい」


他国、という言葉に少し安心した。あの公爵子息とは何もないのだろう。


「私、礼儀作法のお勉強で褒められたの」

「おークレア、それはすごいなぁ」


私の反応はそっちのけに、クレアとの会話に話を弾ませるお父様。

そしてやはり、見るに耐えないクレアへ向かう愛情から目をそむけてみた。

お母様には、また同じところを注意されてしまった。


「ルシ。最近勉強を頑張っているようだね、アーモンドやマリアンヌから聞いたよ」


違う。前回の方がずっと努力していた、ような気がする。


「はい、お父様っ。最近は歴史もやっているんです」

「そうか」


鬱陶しさを多少消したつもりだが、声のトーンは相変わらず高いままだ。それを明確にするように、素っ気なさはお母様と変わらない。

また二人は相手にしてくれない。

変わらない自分に憤慨したくなった、けど我慢した。


《やっぱり、私よりクレアの方がいいんだ》


だって、もうわかっていた事だもの。ここ一年と少し、嫌という程に自覚して来た事だもの。


「そうそう、ルシ」


また随分と時間があってから、思考の世界から、現実に引き戻された。

聞いたことのある声音、嫌な予感がした。


「なんでしょうか」

「お見合いだ」

「えっ!」


前回と何も、なんにも変わらない。

元の反応と大して変わらない行動のはずなのに、何故だろう。


「…おみあい?」


クレアが聞き返す。そうだった。やっぱり前回と同じように。

すでに行動が決まってるみたいで、嫌だ。


「そうだよ」


やっぱり、お見合いなんて聞いていない。


《お母様とお父様とも離れなくないっ!》


「嫌なら言ってくれ」

「嫌です」


これで前回と変わらないかな。

だけどそれからは歯止めが利かなかった。


「私は嫌ですっ!」


お父様もお母様も困り顔だ。別に困らせるつもりないし、癇癪は面倒だけど、どうしようもなくて。


「ルシ、まあそう言わず…な?」

「国の為と思って」


政略結婚。ああ、はい存じています。

お二人は恋愛結婚でしょう?

そしてクレアにはきっと、恋愛結婚も許すのでしょう?

これはあんまりですよ?


「お嫁に行くのでしょう?」

「そうだ」

「なら、絶対に嫌です」

「大人になれば、気が変わるものよ。それとルシ。これはもう決定事項なのよ」

「えっ…?」


すっかり忘れていた。


「さっきは嫌なら言えばいいと、いったいらっしゃしましたよね」

「ええ。嫌なら言ってもいいわ。でもお見合いはして頂戴」


お母様は続ける。

鮮明に思い出して来た。


「ダンスパーティーなのよ、お見合いとはいえそこまで固くはないの。まだルシはパーティーに出席した事がないでしょう、練習と思えばいいわ」

「……」

「名簿はおって送るからちゃんと全員分覚えるように。わかったかい、ルシ?」

「………はい…」

「クレアも出席するようにね」

「はいっ!」


クラクラしてきた。

力を入れて立つ足の感覚がわからない。


「そんなに驚かなくても。来年の十二月の予定だから、まあダンスくらいは覚えておきなさい」


知ってますってば!

だって前回の巻き戻りでは私が死ぬのは九月で、ダンスパーティには行けない、はずだった。

だけど今回生きて仕舞えば、ダンスパーティーという、洒落たお見合いのお相手をしなければならないかもしれない。


《どうしよう》


「ルシ、いいわね?」


お母様の声が耳に何度も響いた。

どうしてたっけ?

まあいいや。とりあえず、うなずいてみた。


「クレア、行こうか」


そうしてお母様、お父様、クレアは三人で謁見の間を出て行った。

私は前と同じように、レイチェルを呼んだ。

するとレイチェルは私を支えるように、部屋へと場所を移動した。


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