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ワガママ王女は今さっき死にました  作者: あまみや瑛理
とにかくワガママな王女は今さっき死にました
10/15

早速本を探そうか








王宮図書館を思いついてまず思い出した言葉がある。


『本とは知識のため池だ』


私が十歳の時の宴で、お父様が言っていた言葉だ。

当時の私は、知識、という言葉自体が嫌いで、本など読むものかと誓った。

その決意にお父様は微笑まなかった。お母様も困ったように苦笑した。

今はその理由がわかる。

知識というものは王族にとって、あればあるほど良い、とても大切な宝なのだ。

なのに私はクレアと違い、それを嫌がった。

王家の娘にもかかわらず、だ。


こう考えていると、生きているという時間がどれほど影響を与えてくれるのか、身にしみて感じる。

私は幼すぎる。

未だに素直になる事を拒み続けている。

わかっているのにやらない私自身に、つくづく呆れる。

私のしたい事は生きる抜くことなのだ。誰にも命を狙われてはならない。

素直になるべきなのだ。沢山の人生を賭けて、私はこの性格も治さなければ、と今朝の私は十三歳のルシ第一王女として誓った。





私は早朝、つまり今、王宮図書館に居る。

日が昇り始めてすぐだというのに、私とレイチェルの他にもちらほらと宮中の役人がいる。


《毒、毒、毒、毒……》


考えるのが楽しい言葉ではないが、生きる為に必要な書物。大きな書庫の中腹部までまで行くと、それはやっと見つかった。


『食物による毒について』


その本を手に取って、書かれた題をマジマジと見る。そして何食わぬ顔で他の本を探しに行く。

これだけでは情報が足りなすぎる。


『毒とその効果』


など、一般の棚にもところどころに探す本がある。どれも教科書と比べると薄い本だ。

お持ちしましょうか、とレイチェルの申し出を断るが、次の棚に見つけたのが分厚い本だった。


『動物性毒図鑑』


他より頑丈にできている図鑑の棚には、重そうな本が並んでいる。やはりレイチェルに二冊を預け、三段式の棚の三段目に手を伸ばす。

子供とはいえ、お母様に似て背の高い私には取ることまでは容易い。問題はそこからだ。とにかく重いのだ。


《ヒールで来るんじゃなかったわ》


咎めるようにヒールを見て、本を腕で支える。

その反動で身体がふらつく。

それにより体についた肉が揺れる。

頭上に本を持って来ると、体が後ろに傾く。

レイチェルが慌てて腰に手を添える。

足に力を入れ、レイチェルになるべく負担をかけないよう、態勢を整える。

なんとか抱えるように胸の前で図鑑を持つ。


「大丈夫でしたか、ルシお…」

「シッ!」


毒の本を外せない指ではなく、顎で指す。

レイチェルはまたもや慌てて謝る。

私は頭を上げさせると、早足で先を急ぐ。

その時王宮仕えの執事とすれ違った。すると私がその本を持って居ると、毒殺でも疑われそうな嫌な冷や汗が出てきた、出直そうかと引き返す。


「どうしましたか?もういいのですか?」

「まだまだ少ないわ」

「冊数の関係ですか?」

「いいえ、王族は借りる冊数の上限がないもの」

「ならばなぜ?」

「他の者らが……」


言葉を濁す。


「いいではありませんか。毒とはいえ様々なものがございます」

「ええ、知っているわ」


人を死に至らしめる毒……の中でも、

徐々に効果を出すもの。一度に命を奪うもの。

意図的に使われるもの。誤って使われるもの。

今朝来る途中で考えていた。


「はい。食べ物に誤って毒や異物が入らないよう、私達料理人は日々勉強しております」

「ああそう」

「ですから、私の料理の為だといえば話は通りますよ」

「すごいわ、レイチェル。ありがとう」


私の考えていた事も、多少はレイチェルと一致したようだ。

こうして私達はもう少し本を探し、先の本三冊の他四冊を借りて部屋へ戻った。

嬉しいことに誰も私達に話しかけたり、目が合ったりする者はいなかった。


「ルシ王女様!早くお着替えくださいっ。申し訳ございません、授業に間に合わなくなってしまいます」

「わかったわ。奥にある青いドレスを」


長居しすぎたのか、授業の事を完全に忘れていた。

遅刻しそうになるのは前にもあったが、今後はもっと気を付けなければならないと、気を引き締める。

それと同時にドレスのコルセットが締まり、なんともいえず、少し笑ってしまった。





自室を出ると、頑張って走り続けた。とはいえ、速歩きにもならない足取りをみて、前回以上の焦りに、応えられない筋肉量をつくづく実感させられた。

走った事が見つかったらマリアンヌ先生には怒られるだろうな。などと思いながら、勉強部屋の前に着く。

すると一応、授業には間に合った。

だが、マリアンヌ先生は既に居るようだった。

「…はぁ…はぁ…。…ふぅ…」

ゆっくりと深呼吸をして、ドアを開く。

巻き戻しの生活が始まってから、一番遅いだろうというくらいな開始ギリギリだ。


「ご機嫌よう、マリアンヌ先生」

「ご機嫌よう、ルシ王女」


先生はにこやかに言う。

そしてその背にお説教の始まりそうな予感を、これでもかという程に持っていた。

そしてこないだの話を思い出した。


『マリアンヌ先生。私、王族として認められるくらいには綺麗な所作をしたいの。教えてくださらない?』

『…まあ。…それが私の仕事ですから、もちろん構いませんが、ルシ王女。きちんと受けてくださいね?』

『ありがとう、マリアンヌ先生。私の駄目なところは全部行ってね!』

『ええ…。まず、私は爵位を持っているので、“ね!”や“ありがとう”など、ため口を聞いてはいけません』


……うん。注意された。

そして再度思う。

大変だ。この状況は。


「ルシ王女様。ひとつ聞いてもよろしいですか?」


有無を言わせない圧力に、思わず頷く。


「ルシ王女様…お返事はございませんの?」


うわぁ。マリアンヌ先生、怒ってる。


「…は、はい……」


あっ、そうだ。この機会を逃してはいけない。こ、今後の為に。


「あ、あのマリアンヌ先生?ワタくし、本当に直そうとしているので…、その。これからもはっきり言っていただければ嬉しいな、と」


声が上ずってしまったが、まあいいだろう。

と、考えたのもつかの間。


「ルシ王女様、そのお言葉お忘れなきよう」


先生が一息置いて口を開いたのが先か、私が目を見開いたのが先か。そんな事はどうでもいい。

先生は冷静に話し出す。


「まず、ルシ王女様、走りましたか?」

「はいっ!」

「次に、レイチェルっ!」

「はいっ!」

「ルシ王女様のこのドレス、急いで着せましたか?」

「あっ……」

「…そ、そうです…」

「レディたるもの、走ってはいけません。身だしなみには、特に気をつけなければなりません」

「で、でもマリアンヌ先生?レイチェルはとても綺麗に着せてくれたと思うのよ?」

「ルシ王女っ、あなたはそう思うかもしれません。ああ、もしかすると何人かの男性も騙せるかもしれませんね。でも!見る人には見えるのですよ?」

「あっ……」

「わかりましたか、レイチェル?」

「は、はいっ!」

「次に、ルシ王女様。あなたはまた……」


こうしてマリアンヌ先生の長〜い長〜い、そしてきっとためになるであろうお説教が始まったのでした。

案の定、授業時間を丸々使って。

マリアンヌ先生の悪口のようだが、マリアンヌ先生の気迫でろくに自分の考えも言えなかった。同時にそれは、私が正真正銘、すごく頑張って勉強したという事だ。





もうすっかり、日が暮れてから。


「レイチェル。…はぁ。私もう疲れたわ。」


私はただ無心に、机に置かれたチョコレートクッキーを食べていた。


「ルシ王女様っ、もうこんなにお食べになったのですか?」


レイチェルに言われて、丁度次のチョコレートクッキーを取ろうとしていた右手の先を見やる。


「なに?女官長のくれたクッキーを、もうすぐ食べ切ろうとしているだけじゃない」

「ですから、それが食べ過ぎなのです」


なんだ。大皿のチョコレートクッキーと、プレーンのクッキーを大皿一枚。それしかまだ食べていない。

今日はまだお腹が空いているのだ。


「少ないくらいよ」


マリアンヌ先生のお説教で疲れたからだろうか。話すのも面倒だし、考えるのも面倒なくらいだ。


「もうお夕飯もお食べになったでしょう」


そういえば、レイチェルは未だに敬語を使う。また関係を構築していくのは、あのひとの言う通り、結構面倒なもののようだ。


「…うっ」


伸びをした拍子に、急に頭が痛くなった。


「どうなさいましたか?」

「ううん。なんてことないわ。…ふぅ。私、もう寝るわね」


そういいながらベッドに横たわると、急に身体が楽になった。今日はゆっくりと眠れそうだ。


「おやすみ、レイチェル」

「おやすみなさい、ルシ王女様」


そしてレイチェルは、電気を消してくれた。





巻き戻り二回目の四日目。

目が覚めたのは、レイチェルが起こしに来たからではなかった。

というか、レイチェルは起こさなかった。

もうすでに鳥がうるさく鳴いていた。少し布団にくるまると、チョコレートクッキーが食べたくなったので目を開けた。

するとレイチェルが隣室で女官長と話しているのが見えた。


「おはよう…」


ベッドから出てもまだ眠い。

二人は気づいてくれそうになかった。


「おはよう!レイチェルに女官長!」


大きな声を出してみた。


「…っ、ルシ王女様。」

「ルシ王女様。おはようございます」


さて、せっかく女官長が来てくれた事だし、予定が早まった。

女官長に毒についての、おすすめの本を教えてもらおう。


「あのね、にょかん……」

「ルシ王女様、あの……」


レイチェルのやけに喜んだ声と、私の声がかぶる。

どうしようかと顔を見合わせていると、女官長が口を開いた。


「ルシ王女様。私はひとつ、お伝えするために来たのです。それが終われば早々に帰ります」


まあ女官長にも仕事はあるし、その伝言がカロライズについてならいいなとは思うけど。気が早すぎるかしら。


「わかったわ、話してちょうだい」

「ルシ王女様。あの…。カロライズが私に手紙をよこしまして、」


すごい、これはすごく早くいい展開になっている。前回の巻き戻りからこれをしていればよかった。


「あのカラロイズ?」

「ええ、そうですよ、ルシ王女様。その話をしていたんです」

「はい。カラロイズが言うに、やはり王女という身分上、下手に動きたくはないそうで」

「…そう。そうよね」


残念だが、まあ、確かにこの展開は早すぎるのかもしれない。


「では、私はこれで。チョコレートクッキーは、レイチェルに渡しましたから」


そう言って女官長は部屋を出た。


「「……はあ」」


二人でため息をついて、少し遅めの朝食をとり、授業を終わらせ、日暮れになった。

そして、まだ残る疲れからだろう。大して難しくない授業も眠くなってしまったが、巻き戻り二回目の四日目もぐっすりと眠れた。

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