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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第5章
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小話 看病

お久しぶりです。小話を投稿して完結とお知らせしておきながら、はや1年以上経過。お待ち頂いていた方々には大変申し訳ありませんでした。

これから小話を3話投稿させて頂きます。お読み頂ければ幸いです。

「看病」は第4章で受傷ししたハナさんを看病するサイアスさんとメイさんの視点で進みます。

「ハナ! ハナ!」

 彼女の顔には血の気がない。いくら声かけても、身体を揺すっても綺麗な黒曜石の瞳を見ることが出来ない。このまま目覚めることなく、私の元から去ってしまうのだろうか。彼女を抱きしめる腕が震える。


「サイアス君、大丈夫だよ。気を失ってるだけだろうから」

「セイン、早く処置を! この腕をなんとかしてやってくれ」

「分かってるよ。止血はしてるから後は縫合かな。でもこれだけの傷だから痕は残るよね」

「なんだって!」

 ハナの右上腕には縦に15センチほど裂傷があり傷口は深く、滑らかできれいな肌は血にまみれていた。

「仕方ないでしょう。サイアス君も騎士ならわかるよね」

 セインはため息をつきながら、手巾をハナの腕に巻いた。

 それは分かるが、男に傷がつくのと女に傷がつくのでは大違いだ。

「まぁ、できるだけ細かく縫合して目立たないようにするけどね」

「頼む」

 私はハナを抱き上げた。







「手を離すんだ。メイ」

「いいえ、離しません」

 今、私はサイアス様と一本のタオルを奪い合っている。


 サイアス様は傷ついたハナを宮廷の病室ではなくラインシート家に連れ帰ってきた。

 ハナが受傷して丸1日が経過しているが、彼女は高熱を出し、意識は朦朧とした状態だ。

 病室でセイン様に見て頂いていた方が安心だと思うのだが、サイアス様は止めるセイン様を振り払ってきたそうだ。まったく、ハナのことが大事なのはわかるが・・・。

 更に大変なのは彼女の部屋に泊まり込み、看病を全部自分でしたがること。今だって、ハナの顔を拭こうとしたらタオルを貸しなさいって手を出してきた。


 譲らない、譲らなーい! 私だってハナが大事なんだから! 譲らっな・・・・っく、タオル取られた。

 卑怯だ。男性が本気だしたら力でかなうわけないじゃない。ハナが全快したら絶対に空手を教えてもらおう。

 それにしても、優しく丁寧に拭いているな。ハナもちょっと安心しているような顔をしている。こんな姿を見せられると、サイアス様にとってハナは無くてはならない存在なんだと思わせられる。そして、それはハナにとっても同じなんだろう。






「薬の時間か」

「はい」

 メイが解熱剤や化膿止めを溶かした薬液を持ってきた。


 昨日、薬を飲ませようとしたが彼女の意識は朦朧としており、コップで口に少し注いでも口元から流れ出て来てしまった。以来、私が口移しで薬を与えることにしている。意識が朦朧としている者に内服させるのはは危険だが、このままでは、傷から感染を起こして死んでしまうかもしれない。それは絶対に嫌だ。彼女を失いたくない。


 私はメイの手からコップを受け取ると、薬液を自分の口に含んでハナに口づけた。

 メイは視線をさりげなく外す。


「サイアス様、口移しの方法がわかったので次からは私がやりましょう」

 メイは、薬液の入っていたコップを片付けながら私に声かけてきた。

「いや、これは慣れていないと難しいから私が続けよう」

 実際、呼吸とのタイミングを計らないと危険だ。


「ふーん、そうですか」

 なんだ、その不満気な態度は。疑念の眼差しは。

「でも・・・・なんか、楽しそうに見えますけど」

「何を言っている。それどころではない」

 楽しそうとは不謹慎な。楽しそうに・・・見えるのか? バカな。


「はっ、発汗が多いな。着替えさせるか」

 ハナの首元に汗が伝い、寝衣も湿気でしっとりしている。

 私は寝衣の首元のボタンに手をかけた。

「待ってください! サイアス様がハナの身体を拭いて、着替えさせるのですか?」

 メイが眼を丸くしている。

「あぁ、慣れているから大丈夫だ」

「慣れている? 女性の身体を拭くことがですか」

「はっ? 野営訓練でケガした者の介助をしたことがあることを言っているんだ」

「ハナは女性です! それは私たちがすべきことです。これは絶対に譲りませんよ」

 メイが私を上目遣いに睨む。


 はっ、そうだった。

 そこは彼女たちに任せるべきところだ。どうもハナのことになるとすべて自分でやらないと気が済まないようになっている。

 私が苦笑すると、メイは怪訝な表情を浮かべた。


「さぁ、お部屋から出てください」

 メイは私の背中をグイグイ押して扉の方に押しやる。


 扉から私と入れ違いにマリーネが入ってきた。

 彼女は私をちらりと見て、「サイアス様、やり過ぎです」と溜め息をついた。


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