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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第4章
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第4話

読んで頂きありがとうございます。

今後ともよろしくお願い致します。

 旅に出て3日目。今日は野宿をしている。

 宿に泊まる時は“同室”って流れが出来てしまって昨日も緊張していたから、野宿は若干ホッとする。

 広い空間の中では、サイアスさんをすごく身近に感じるってわけじゃないからかな。


 それでも、野宿は色々と大変で面倒だから好きじゃない。

 場所を決めて、簡易テントを張って寝床を準備して、夕食を作る。サイアスさんはそれらを流れるようにしている。私は、少しお手伝いする程度だから面倒とか言っちゃダメなんだろうけどね。


 サイアスさんが携帯食で作った夕食はすごく美味しかった。干し肉と野菜のスープと乾燥パン。北方の旅で団長も作ってくれたけど、それより数倍美味しい。

 サイアスさんって、伯爵で近衛の副団長でかっこいいのに料理まで上手いなんて完璧すぎて怖い。


「ハナはなんでも美味しそうに食べるな」

 私が無言でもくもく食べているとサイアスさんは笑いながらそう言った。

「だってすごく美味しいですよ。このスープすごくいい味」

「そうか。軍に属していた時に野営は何度もしたからな。食事当番も回ってきたし」

 サイアスさんは、そう言いながら私のお椀を取ってスープを追加してくれた。


「伯爵位なのに、そういうの免除されるわけじゃないんですね」

「そうだな。イーリアス王国は身分に関係なく、その職務の規定に従うようになっている。軍に配属されれば、どんな爵位の者でも町や村、へき地に何年かは派遣される」

「へーっ、サイアスさんはどこに行ったんですか?」

「私は・・・・」


 サイアスさんは急に言葉を止めて周囲を見渡すと、腰の剣に手をかけた。

 なに、どうしたの。特に異常な物音とかは聞えなかったけど・・・・。私もあたりをキョロキョロと見渡した。

 私たちがいるのは川沿いの林の中で、焚き火の爆ぜる音以外はなにも聞こえないし、動くような影もみえない。


「ハナ、こっちへ」

 サイアスさんに手招きされて、傍に行くと肩を抱かれた。なんだろう。動物がいるのかな、それとも夜盗かな。怖いな。

 彼は私の肩を抱いたまま、暫く緊張した面持ちで林の奥を見つめていたけど、また急に息を吐きだした。

「行ったか・・・」

「誰かいたんですか」

「私たちの様子を窺っている気配を感じたが、もうなくなった」

 サイアスさんは、私の肩と剣から手を離した。

「気配? どうして?」

 様子を窺われていたなんて気持ち悪い。いつから見られていたのかな。


「ここはカテガルの領地に近い。おそらく、密偵だろう」

「密偵!」

 密偵なんて映画や小説の中でしか聞いたことのない言葉に驚く。

「大丈夫。ただ様子を窺っていただけだ。害意のない者だと判断されたのだろう」

「そうなんですか・・・・」

 つい安堵のため息がもれた。


「カテガルって、あのレオンって人の領地ってことですか?」

 頭の中にギラギラした紫の瞳が浮かんだ。

「あぁ、カテガルは領地を持たない一介の商人だったが、南方の土地を貴族から買い占めて勢力を伸ばしている」

 サイアスさんは苦い顔している。確か、カテガル家は裏であくどいことをしているって言ってた。カテガル家がこのまま力をつけたら、南方の秩序が崩れるだけじゃなくて、イーリアス王国にも大きな影響が出るんだろうな。


「王国は、なにか手を打っているんですか」

「南方の各地区に軍の小隊を派遣して様子を探っている」

「そうなんですか」

「ギフカド漁港のある町にも、私の同期が派遣されている。到着したら紹介しよう」

 サイアスさんは表情を緩めた。同期か、友達なのかな。羨ましいな。

 そう思った時、サイアスさんの大きな手が私の頭を撫でた。

 驚いて見上げると、サイアスさんの心配そうな瞳と目が合う。

「寂しそうな顔をしている」

「・・・・」

 サイアスさんにはかなわない。私のことよく見てて寄り添ってくれる。彼の優しい気持ちに触れると、心が凪いでくるのがわかる。


「大丈夫ですよ」

 そう、大丈夫。こうしていつもサイアスさんが傍にいてくれるから。


「それより、レオンってどんな奴なんですか」

 私は話題を切り替えた。要注意人物のこと少しは分かってないとね。

「カテガルは、元は農民にしか過ぎなかったらしい」

 私の問いにサイアスさんはレオンについて話し出した。

「数年前にレオンが町に出て商いを始めたことから勢いを増したらしい。彼には商売の才覚があったのだろう。ここ2~3年で地盤をこれほどに固めてしまった。ただ、商売の内容が問題なんだ。表向きは衣料品や食料品など特に問題のないものを扱っているが、裏では国交のないライデント国の禁制品を扱っているらしい」

「禁制品?」

「あぁ、希少な宝石や薬とかな」

「薬?」

「ライデント国には人に高揚感をもたらす作用のある薬草が存在する。それを加工して薬にしているらしい。薬には常習性があって使い続けると精神状態に大きな影響を及ぼすと言われている。南方の貴族の幾人かはそれに手を出し、買い続けることで経済的に困窮し領地を失った可能性があると聞いている」

 サイアスさんは眉間に皺を寄せて息を吐きだした。

「麻薬とか覚醒剤みたいなものかな」

「カクセイザイ?」

「うん、サイアスさんが言っているような薬は日本にもあるよ。もちろん、売買することは犯罪で逮捕されるけどね」

 頭の中に薬物で逮捕される人々のニュースが思い浮かんだ。


「そんな危険な物を取り扱っているかもしれないなんて。レオンを捕まえることはできないんですか」

「軍部が調査中だが、なかなか尻尾が掴めない」

 サイアスさんはまた溜め息をついた。そうだよね。証拠を掴むのに時間がかかるよね。


「そういえば、レオンの容貌ってイーリアス王国の人っぽくないですよね」

 レオンの褐色の肌に焦げ茶色の髪と紫色の瞳を思い出す。イーリアス王国の人々の肌は白いし、髪の色も焦げ茶色の人は少ない。紫色の瞳は結構みるけど。

「そうだな。どちらかと言えばライデント人に近い容貌だな。ライデント人は、褐色の肌に焦げ茶色の髪と瞳を持っているからな」

「ライデントって大海の向こうにある国?」

 私は、以前メイに聞いた、50年くらい前にイーリアス王国と戦争になった国の話を思い出した。

「あぁ、南の大国だ。ライデントに行くには船で丸2日かかるらしい」

 サイアスさんは、焚き火に枯れ枝を数本追加しながら話を続ける。弱まっていた焚き火が少し勢いを盛り返した。

「ライデント国とは、戦争以降国交がなくて情報は少ないが、力を持つ者が国王になると聞いたな」

「力?」

「武力国家らしい」

「へーっ、だからレオンも強い女が好きって言うのかな。あれ、でもレオンはイーリアス王国人ですよね」

「そうだな。しかし、戦争前はライデント国と国交があったから、彼はライデント人との混血の末裔かもしれないな」


「南方って結構きな臭いんですね。ごめんなさい。私の我儘で危険な目に合わせてしまうかも・・・・」

 サイアスさんには本当に迷惑をかけてばかりだ。

「ハルハタがどうしても食べたいんだろう。ハナの望みはできるだけ叶えたいから、気にしなくて構わない。それに、危険と言っても私とハナならどんな敵にも負けるとは思えないがな」

 サイアスさんを見ると、穏やかに微笑んでいる。確かに、サイアスさんの剣と私の体術があれば、そうやすやすと敵にやられてしまうことはないだろう。

「本当ですね。負ける気がしない」

 私も笑顔でサイアスさんに返した。


「さぁ、明日の夕方にはギフカド漁港に着くだろう。今日はもう寝なさい」

「サイアスさんは?」

「私は火の番をしながら眠る」

「えっ! それじゃ、休めないんじゃ・・・・」

「大丈夫。こういうことには慣れている。それに、テントの中より気が楽だ」

 サイアスさんはそう言うと、私の背を押してテントに誘導した。

 一人だけ楽するのも気が引けるけど、一日中馬に乗って疲れているのも確かだ。私はサイアスさんにお礼を言って、テントの中で横になった。

 サイアスさんの言った“テントの中より気が楽”って言葉はどういう意味だろう。私って寝ている間にイビキをかいたり、寝言いったりしているのかな。それだったら恥ずかしい。宿では注意しなくちゃ。


 いろいろ考えているうちに寝落ちして、外でサイアスさんが「一緒のテントで寝るなど拷問だ」って溜め息をついたことには気が付かなかった。


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