第17話
いつも読んで頂きありがとうございます。
また、隔週更新となってしまい申し訳ありません。
書きにくいシーンなので筆がなかなか進みませんが、頑張りたいと思います。
議長が議会の開始を告げた。
「まず、第一の議案ですが、長年の懸念であった王妃の件について」
議題は王妃選定についてだった。
議長は淡々とナタリア妃とフロンシーヌ妃についての審査結果と議員による投票数を読み上げた。
票数は全体の半分以上をナタリア妃が占めている。
「・・・・以上の結果から、ナタリア妃が王妃に相応しいのではないのかと」
議長がナタリア妃の選定について言及する。
その時、議場の扉が開いて、近衛の制服姿の団長が現れた。
「ちょっと待った。それには同意できねぇな」
行方不明とされた団長の登場とその発言に議場がざわめく。
そして、団長に続いて現れたメイの登場にざわめきの声は更に大きくなった。
メイは王宮の侍女の制服を着ていた。彼女はだいぶ痩せてしまっていて、顔色も悪かったけれど、近衛騎士に支えられてしっかりと立っていた。
メイ、生きてて良かった。セインさんの治療がうまくいっているとは聞いていたけど、会うまではとても心配だった。傍に行って話したい。私のことはなにも心配しなくて大丈夫って伝えたい。議会が終わったら、真っ先にかけつよう。
ナタリア妃の方を見ると、関心なさそうに団長とメイを見ていた。
団長が、彼女の罪を明らかにして廃位に追い込もうとしているのに、その表情に焦りや怒り、苛立ちといったものは一切みられない。
子どもの売買をラング伯爵に命じていたのはナタリア妃、メイに毒を盛ったのもナタリア妃だったんだ。
彼女は大金を元手に議員たちを取り込んで王妃になろうと目論み、ウィル皇子とアリシア皇女を殺して何を手にしようとしたのか。
「ナタリア様、涼しいお顔ですな。腹の中は相当、煮えくり返っているでしょうに」
団長は皇族方の席に向いて、ナタリア妃に話しかけた。
団長の声は今まで聞いたことが無いほど低く、聞く者を震え上がらせるようなものだった。表情にも凄味があって怖い、思わず身体が震える。いつもののんびりとしただらしない団長はどこにもいなかった。
「ダフル団長、なんのことでしょう。わたくしには全く理解できませんわ」
ナタリア妃はうっすら微笑みながら返している。
「ほう、この侍女を見て焦っていると思ったがな」
団長はにやりと笑った。
「まぁ、おかしなことを。見ず知らずの者を見て、何を焦る必要があるのかしら」
ナタリア妃は扇を手に口元を隠している。
「見ず知らずって! ナタリア様、皇女を暗殺するために、あなたは私を利用したじゃありませんか!」
メイは震えながら、泣きそうな声でナタリア妃に向かって叫んだ。
「なんのことかしら」
「私は、あなたに問われるままに皇女の予定を教えました。その度に皇女は危険に晒されたのです。それと同時に、あなたは私にエトナ草の毒を盛り続けた。あなたの計画では皇女も私もすでに亡き者だったのですよね」
メイの声音には怒りが含まれている。当たり前だ。この件で彼女は、周囲からの信頼、職、健康を失っている。この先、どう生きていけばいいのかわからないはずだ。
「ふっ、面白いわ。団長はこんな小娘の妄想を信じているの?」
ナタリア妃はメイを一瞥して、団長に鋭い視線を送った。
「まぁな。あんたがこのくらいで怯むとは思ってねぇよ」
団長は顔を顰めると、扉を振り返って声を掛けた。
団長の合図で入ってきたのは、車いすのような物に乗せられた包帯だらけの男性だった。
車いすを押しているのはサイアスさんで、傍にはセイン医師も従っている。
あっ、あの男性はラング伯爵だ! 生きていたんだ。団長が助けたの? 自分も死にそうだったのに! 団長の身体能力って・・・すごすぎる。
ラング伯爵が登場すると、ナタリア妃がわずかに眉根を寄せたように見えた。
議場内はざわめきを増し、皇族方も落ち着かない様子でナタリア妃を見ている。中には、ナタリア妃の子なのか、今にも泣きだしそうな皇女や顔面蒼白な皇子がいる。
「ナタリア様、ひどいではありませんか。用済みとあらば、簡単に抹殺を命じるのですね。近衛団長がいなければ、私は何度命を落としたかしれません」
場内はラング伯爵の声で静まり返った。
「お前は誰?」
ラング伯爵の登場にもナタリア妃の声音に変化はなかった。
堂々として、何一つやましいことはことはしていないと思われるような強く、静かな口調。
「ラングですよ。あなたに北の国の子どもを安く買いたたくように、もしくは攫ってくるように命じられた北方のエナ町に拠点をおく領主のラングです」
ラング伯爵は、ナタリア妃を睨んで絞り出すように声を出した。
ラング伯爵の言葉に議場のざわめきが再び大きくなった。あちこちから「子どもの売買だと」「なんてことだ」「子どもを攫うなんて」といった言葉が聞かれる。
「お黙り! 事実無根です。一体なんの証拠があるのです!」
ナタリア妃は周囲のざわめきに苛立ちを募らせたようだった。
「証拠ならあるぜ」
団長が一枚の地図を広げて見せた。
「地図がどうしたというのです」
ナタリア妃は憮然と返す。
「よく思い出すんだな」
団長はニヤリと笑った。
「この地図はローランド国のものだ。貴族とはいえ簡単に手に入るものじゃない」
団長の言葉にナタリア妃の表情がこわばる。
「おまけに、ラング伯爵の領地に接したローランド国の寒村や子どもが攫えそうな場所に印がつけてある。明らかにローランド国内の事情を良く知る人物が手引きしていた証拠だ。ラング、この地図は誰からもらった?」
「ロダン侯爵からです」
団長からの問いにラング伯爵は即答する。
「なっ、知らない。私は知らないぞ」
ロダン侯爵が、太った身体を大きく揺すって椅子から立ち上がった。
その時、再び議場の扉が開いて、数人の子どもたちが近衛兵に連れられて入ってきた。
どの子どもも綺麗だけど、すごく痩せている。表情も暗く、オドオドした感じで互いに手を取り合って恐怖に耐えているようだ。
「この子どもたちは、ロダン侯爵家の離宮に監禁されていた」
団長の言葉に多くの人々が息をのみ、目を見開いた。
「君たちは、ロダンの家で何をされた」
団長の言葉に子どもたちは互いに顔を見合わせると、年長と思われる子どもが口を開いた。
「裸にされて・・・・」
「あぁ、もういい」
子どもが続けて話そうとするのを団長は遮った。良かった。とても聞いていられない。
「ロダンはその時なにか言っていたか」
「はい。ロダン様はいつも『お前たちが飢えることがないのはナタリア様のお蔭だ。感謝するんだな』と」
年長の子のイーリアス国語は上手くなかったけれど、ロダンの吐いたセリフの部分だけはとても流暢だった。どれほどの回数、その言葉を聞かされたのだろう。
「ちっ、違う。私は何も知らない。こんな子どもなど・・・・」
「つい先ほど、お前の屋敷から助け出した子どもたちだ。証言は近衛の騎士がしてくれる」
「うっ、ナタリア様・・・・」
ロダン侯爵は、すがるような目でナタリア妃をみた。
「バカバカしい。証拠もなく妄想めいた証言ばかり。こんなことでわたくしの名誉が傷つけられるとは」
ナタリア妃はため息をついた。
「証言だけで、あんたを追い詰められるわけがないのは知っている。俺はあんたに思い出せと言ったな」
「思い出すことなど何もないわ」
ナタリア妃は扇をゆっくりと動かし、団長を睨む。
「では、ここを見てもらおう」
団長は先ほどの地図の一部を指さした。
「ここに、村の発音をイーリアス語に表記した記載がある。ローランド語が読めないロダンやラングに説明するために表記したんだろう。筆跡はあんたのだ、ナタリア」
「知らない・・・・」
ナタリア妃が今まで保っていた平静を崩した。
「言い逃れはできねぇぜ。あんたのイーリアス国語の表記には特徴がある。“G”がこの国の人間では表記しにくい形になっているんだ。さぁ、おとなしく裁きを受けるんだな」
団長はそう言うとガレル国王に向いた。
「王よ。裁きを」
団長の言葉を受け、ガレル国王は頷いた。
国王がゆっくりと立ち上がり始めた時、ナタリア妃はそれを遮るように素早く立ち上がった。
「わたくしに従う兵、議員よ。今です。戦いなさい。ガレル国王の一族を倒すのです。わたくしが王になった暁には褒賞を与えましょう」
えっ、クーデター? ここまで悪事が暴かれて、ナタリア妃に従う者なんているの?
そう思った矢先に、アリシア皇女の足元の床に矢が刺さった。瞬時に身構える。
「忌々しい証人も消しておしまい」
ナタリア妃の指示は続き、ラング伯爵に矢が飛んだけれど、サイアスさんが剣で叩き落した。
議員たちが動く様子はないけれど、ナタリア妃専属の衛兵が彼女の命に従っている。それとどこからか忍び込んできた彼女の間諜たちも剣や矢を構えている。間諜たちの腕は確かだ。国王とウィル皇子、アリシア皇女を護らなきゃ。
「はっ、馬鹿じゃねぇのか。おとなしくお縄についてりゃいいものを。これでお前は重犯罪人だ。生きちゃいられねぇぞ」
団長はメイを殺そうとした間諜をねじ伏せて、ナタリア妃を睨んだ。




