第12話
いつも読んで下さりありがとうございます。
今回、少し長めです。
「お茶会?」
「そうよ。今日は北の側妃、ナタリア様が北の広間を利用されるらしいわ。人の出入りが多くなるから皇女の身辺に気を付けてね」
久し振りに王城に出勤すると、アリシア皇女が信頼をおく侍女、ラリッサから説明される。
「アリシア様もご出席なさるの?」
「いいえ、いらっしゃるのは、貴族議員、議会関係の方々が多いらしいわ。あとは、王都の有力な商家の方々かしらね。王族でご出席なさるのは、ナタリア様のお子様たちかしらね」
ラリッサは小首を傾げた。まぁ、ナタリア妃の私的なお茶会なんだろうから、詳細までは知らせないのは当然か。
「ハナ。これ、可愛いわ」
アリシア様が、エナ町特産の織物リボンを髪に当てている。プラチナブロンドの髪に、緋色がベースで細かく模様の入ったリボンはアリシア様の美しさを引き立てている。美人にはなんでも似合っちゃうんだなあ。
ロディやイライザもリボンを手に笑顔だ。
「ハナにしては、センスいいわね」
「配色がいいわね。織物って温かいイメージあるし」
“ハナにしては”ってどういうこと? 私ってお土産選びの達人だと思うんだ。サイアスさんもセインさんも喜んでくれたし。
「ハナ。どうして、私にはリボンではなくコレなんだ」
レイラさんは、革製の小刀入れを手に少し不満げだ。小刀入れなんて言うと物々しいけど、ホルダー部分には花の型押しがしてあって可愛いんだけどな。
「いやっ、あの、後でとびきり素敵なリボンが届くはずです」
「?」
「まぁ、待ってて下さい」
額に湧いて来る変な汗を拭いながら答える。レイラさんは、私の様子を見て首を傾げながらも、腰に小刀入れを下げてくれた。うん、凛々しい。
「ハナ。巡視だ」
「はい」
レイラさんと一緒に、アリシア皇女の居住範囲を広範囲に見回る巡視の時間だ。
皇女を男性騎士に任せて部屋を出る。
「そろそろ、前王妃の喪があける。次期王妃がナタリア様になるか、フロンシーヌ様になるか」
レイラさんは、歩きながら軽く溜め息をついた。
「喪って長いんだね。2年もあるんだ」
日本だったら1年くらいだったかな。
「まぁ、その間に次期王妃の審査が何度もあるからな。出身国の動向、人品、教養、国民からの信頼など、すべてを審査して選出されるわけだ。時間がかかるのも当然だ」
「へーっ、選挙みたいだね。レイラさんはどっちがいいと思うの」
「私たちは、どちらが王妃になっても従うだけだ」
レイラさんは飄々と答える。確か、ナタリア様は美しいけど、性格はフロンシーヌ様のほうがいいって、メイが言っていたな。教養とか、国民からの信頼ってどうやって調べるんだろう。後で、サイアスさんに聞いてみよう。
「ハナ!」
「ニール!」
中庭を巡視していると、ニールに声掛けられた。
「無事、帰ってきてたんだな。姿が見えないから心配してたんだ」
「ごめん、後で挨拶に行こうと思ってたんだ。あのお守りのおかけで無事に帰って来られたよ」
「良かった」
私の言葉に、ニールは笑みを浮かべてちらりとレイラさんを見た。レイラさんは、視線を受けて気を遣ってくれたのか、少し離れて私を待ってくれる体制をとった。
「そうだ、これ。お土産」
ポケットから、小銭入れを取り出す。
「えっ、土産?」
「うん、お守り嬉しかったし。何にしようか迷ったんだけど、貰ってくれるかな」
「勿論! ありがとう」
ニールは小銭入れを受け取ると「いい色だな」なんて呟いていた。よかった気に入ってもらえたみたい。
「ニホンには戻れそうか?」
二ールが小さな声で聞いて来た。その顔を見つめると、心配してくれているのがわかる。私が落ち込んでると思っているのかな。そりゃ、落ち込んだけど。いつまでも引きずっても仕方ない。ラインシート家にいるうちに浮上してきたよ。
「ううん、でもダニエルは可能性が全くないということはないだろうって言ってくれた」
「そうか・・・・」
ニールはそれきり黙ってしまった。あぁ、気を遣わせちゃったかな。
「でも、私は諦めないから。可能性はゼロじゃない!」
二っと笑ってニールを見る。ニールはキョトンとしたあと、プッと吹き出した。
「そうだな、ゼロじゃない! 頑張れ!」
「うん! そうだ。コスタル神殿へのお守りの返納はサイアス様と行ってくるね! じゃ、巡視中だからまたね」
「あ、あぁ・・・・。神殿へのお守りの返納ってなんだ? 別に返さなくてもいいはずだけど・・・・」
走り去る私の背に、ニールの呟きは届かなかった。
「ハナ。副団長とコスタル神殿に行くの?」
レイラさんの元に戻り、巡視を再開するため歩を進めた。
「うん、お守りって役目を終えたら返納するんだってね。サイアス様が言ってた。それで一緒に行ってくれるって。遠いのに悪いけど、地理がわからないから、同行お願いしちゃっんだ」
「副団長、策士め・・・・」
レイラさんが、ポツリと呟いた。なんだか、よくわからない。
北の広間のある棟の傍を通ると、多くの使用人が出入りしているのが見えた。結構、規模の大きいお茶会なんだな。ちらほらと正装した招待客の姿もみられた。
警備範囲内の巡視を終えて、アリシア皇女の部屋に近づくと、室内が騒がしいことに気付く。
「ハナ、そいつを捕まえてくれ! 騎士レイラは室内を頼む!」
イアンさんが、部屋から飛び出してくるのと同時に、侍女の姿をした女とすれ違う。
「チッ」
女は、イアンさんの声に舌打ちして走り出した。
「はいっ!」
即座に反応し、女の後を追う。くそっ、速いな。
「ハナ! 深追いはするな!」
レイラさんが後ろで叫んでいる。
女は、回廊を通り、中庭に逃げ込んだ。城内をよく知っているようだ。間諜かな。
「どこだ・・・・」
中庭っていっても、校庭くらいの広さがあるから探すのは大変だ。
ガサッ
キョロキョロしていると、植え込みがかすかに動いた。いた!
今の音で、私に気付かれたことがわかっただろうから、打って出てくると思う。防御の型をとり女の出方を待つ。
「そこに、いるのは分かって・・・・」
ガササッ
私の言葉に女が姿を現し、真正面から突っ込んできた。武器は持ってない。
女は私に飛び蹴りを仕掛けるけど、私は一歩飛びずさりそれを躱す。女と睨みあう。次はなにを仕掛けてくるか。
突きだ! みぞおちを狙ってくるのを、蹴り返す。女は次々と突きを繰り出してくるが、腕で防御し徐々に女に近づき、みぞおちに渾身の蹴りを当てた。
「ぐっ」
女はくぐもった声を上げて地面に臥した。近寄ると意識を失っているのがわかった。意外にあっけない。体術の訓練はあまりされていなかったのかな。まあ、いいや。騎士の誰かにお願いして運んでもらおう。
パチパチ
「すごいな。強い女は好きだ」
拍手の音とともに、浅黒い肌をした、こげ茶の髪に紫色の瞳を持つ筋肉質の男が現れた。
なんだ、なんだ。どこにいたんだ。正装しているから、お茶会の招待客かな。
男の背後には、もう一人細身の男がいて私には背を向けている。
「なぁ、この女貰ってもいいか」
「勝手にしろ。でも、すぐにそいつの保護者が来るぞ。僕はもう行くからな」
私に背を向けていた男は、杖を手に左足を僅かに引き釣りながら、この場から去っていった。私のこと、知っているの?
ボンヤリとその後ろ姿を見送っていると、いつの間にか筋肉質の男が近づいてきていて、がっしりと両手を掴んでいた。
油断した! 慌てて掴まれた腕を振りほどこうとするが、力が半端なく強い。
「いいねぇ、その気の強い顔。ぞくぞくする」
紫色の瞳が怪しく光っている。やばい、これはやばい。もがけば、もがくほど身動きがとれない。何この人、ただの貴族じゃない。騎士なの?
私は、あっという間に男の腕の中に抱え込まれてしまった。
「ふーん、黒目黒髪か。お前この世界の人間じゃないな」
男は、私の顎を掴んで上向かせる。顎をがっしりと掴まれて痛い。けど、表情には出さず男を睨む。
「へっ、いいねぇ。その顔」
男の顔が近づいて来る。うそっ、キスされる!? ヤダ、ヤダ! サイアスさんじゃなきゃ絶対に嫌だ! 顔を背けようとするけど、顎をしっかり掴まれてるから動けない。
「ハナ! 必殺技だ!」
この声、サイアスさんだ! 声に驚いたのか、男の手が少し緩んだ。
私は隙を逃さずに、男の股間に金的を放った。
「イッ!」
男は私を抱え込んでいた腕を放して、股間を押さえる。
悶絶する男から離れて、サイアスさんに駆け寄り、その背後に隠れる。
「強い女はいいねぇ、お前名前は?」
男は痛みから解放されると、サイアスさんの背後に隠れている私に声を掛けてきた。サイアスさんのことはまるっきり無視だ。
「彼女はラインシート家の人間です」
サイアスさんが返すと
「へえっ、伯爵家に保護されているのか。なぁ、そいつくれよ。異世界人なんて面倒なだけだろ」
男は薄笑いを浮かべている。
「彼女は家族ですので差し上げられません」
サイアスさんからは、怒りの気が放たれている。すごい・・・・空気がピリピリしている。
「面白い。くれねぇなら、奪うだけだ。俺はレオン。南方の豪商だ。またな」
お茶会の時間なのか、男は北の広間のある棟に向かっていった。
「ハナ。大丈夫か」
サイアスさんは男が去ると、私に向き合って顔を覗き込んで来た。
「赤くなっている。痛くないか」
サイアスさんに顎をなぞられて驚く。
「こっ、怖かった。サイアス様、ありがとうございます」
サイアスさんに思わず抱き着く、あっ、いけない。むやみに抱き着いたらダメだった。急いで、離れようとしたけど、あれっ、サイアスさんの腕の力が強くて離れられない。
あったかい。さっきとは全然違う。ここが一番安心できるような気がする。
ホッとしたら、キスされそうな時に、サイアスさんじゃなきゃ嫌だって思ったことを思い出した。
「どっ、どうしよう! サッ、サイアスさんじゃなきゃ、嫌だって思っちゃった!」
思わずサイアスさんの腕の中で大声を出してしまう。うわっ、言っちゃってどうするの、バカ!
「ハナ?」
サイアスさんが、顔を覗こうとする。今、絶対に真っ赤だ。見られたなくない。
サイアスさんの腕が緩んだ隙に、そこから逃げ出す。
「さっ、先に戻ってます!」
私はアリシア皇女の部屋に戻るべく、全速力で走り出した。
「ハナ・・・・。可愛すぎる・・・・」
サイアスさんの呟きが、私に届くことはなかった。




