閑話「となり」
読んで頂きありがとうございます。
サイアスさん→ハナさん→ツイルさんの視点で話が進みます。
読みづらかったら、ごめんなさい。
「ハナ、この・・・・」
つい、自分の隣の空間を見て話しかけてしまう。
今はぽっかりと空いている隣の空間。
ハナが旅立ってから、こんなことを何度も繰り返しており、何度目かのため息がもれた。
今更ながら、いかに彼女が私の心の中を占めていたのかを知らされる。
「早くお戻りなられるとよいですね」
マリーネが私を見て苦笑している。
「そうだな。皆も寂しい思いをしているだろう」
「えぇ、ハナさんはいつも元気にお屋敷の中を動き回っていましたからね」
マリーネは、夕食のためのテーブルセッティングをしながら、目を細める。屋敷の中には、ハナが来る前の静かで穏やかな時間が流れている。
「火が消えたようだな」
「はい。早くハナさんが戻って賑やかなお屋敷になってほしいものです」
マリーネも軽く溜め息を漏らした。
ハナが旅立ってまだ三日。彼女は、当分帰ってこない。この寂しさが解消されるのもまだまだ先だ。
いつの間にか、隣になくてはならなくなってしまった存在。
ダニエルから帰還の手がかりを得てくるのだろうか。そんなものなければいいのに。
ハナを想うたびに、自分の考えの浅ましさに苦悩する。
ただただ隣にいてほしい。
☆
「サイアス様、このスープすごく美味し・・・・」
「私はサイアス様ではありませんよ。・・・・何度目でしょうね」
眼の前でツイルさんが苦笑いしている。
町の食堂での昼食、スープが美味しくてつい、いつものようにサイアスさんに話しかけるつもりで口を開いてしまった。恥ずかしい。
王都を出発して、旅路にある中、きれいな風景をみたり、美味しい物を食べた時に、つい隣を見上げて話しかけることを何度か繰り返している。
いつの間にか、私の中のサイアスさんの存在は大きくなっていたようだ。
会いたいな・・・・。
んっ、なんだ! 会いたい! 会いたいって!
どういうことだ。あ、あれだ、ホームシックだな。サイアスさんとお屋敷のみんなに会いたくて仕方ないんだ。それは認める。うん、そうだ。サイアスさんだけじゃなくて、みんな、みんなに会いたいんだ。
私は雑念を振り払うように急いで、昼食を再開した。
「ハナは何をやっているんだ」
ダフル様が聞いてくる。
「おそらく、自分の中の想いと葛藤しているのでしょう。ほっといても大丈夫です」
私も昼食を再開する。ダフル様は、すでに昼食を終えてお茶を口にしている。
「今頃、サイアスもこんな風になってんのかね」
「まぁ、そうでしょうね。サイアス様は、ハナに生誕の指輪を旅の守りだと渡すほどですからね」
「生誕の指輪を!」
生誕の指輪は、貴族の習慣で、我が子の成長を願って誕生した時に作る、親から子への初めての贈り物だ。子はそれを幼い頃から大事に持ち続けている。それをサイアス様は簡単に加工してハナなんかに渡してしまった。まったく。
「楽しそうだな。ツイル」
「えぇ、楽しくて仕方ありませんよ。サイアス様があれほど変わってしまうとは」
「はは、本当だ。俺も楽しいぞ。なんだかサイアスの傍にはハナがいるのが、収まりがいいような気がするからな」
「でも、解決しなければならない問題は多いですね」
私とダフル様は目の前でブツブツ独り言を言いながら、昼食を摂っているハナを見つめて小さく溜め息をついた。
ナナとメイの独白はどうしても重くなってしまいます。
最後に通常(?)の「異世界で侍女やってます」の雰囲気が出せて良かったです。
次回からは新章です。北の国境での話を書いていきたいと思います。
皆さんが読んで下さるので、頑張らなくてはと思います。今後ともよろしくお願い致します。




