閑話「メイの懺悔」
読んで頂きありがとうございます。
今回は、メイ視点のお話です。
私はなんてことをしてしまったのだろう。
知らなかったとはいえ、アリシア様の命を危険にさらし、友人に毒を盛ってしまった。
あの方が私に毒を盛るなんて考えてもみなかった。
だって、あの方はいつも「アリシアのことを支えたいの。この国の力になりたい」って言っていたじゃない。あの方に、アリシア様のことを伝えることが、アリシア様を守ることになると思っていた。あの方にはそれだけの力があるから。
でも、それは偽りだったんだ。
今、振り返ると怪しい点は多々あった。あの方を訪れる際には人に姿を見られてはならないと言われていたこと、アリシア様のことを報告した後には、必ずと言っていいほどアリシア様に襲撃があったこと、褒美と渡される菓子を食べ始めてからなんとなく体調がすぐれなくなったこと。良く考えればわかること。
なんて浅はかだったんだろう。
あの方の信頼を得ることに夢中になっていた。あの方の美しさ、あの方から向けられる笑顔に夢中になっていた。利用されていることも知らずに。
私はこれからどうなるの。間者として扱われ、裁きを受けて生を終えるの。
違う、違う、私が悪いんじゃない。私は騙されていたの。
でも、全てを話しても、私がアリシア皇女の命を危険にさらしたことや、ハナに毒をもっていたことに変わりはない。罪は罪・・・・。
全てを話したら命が狙われる。ううん、今現在命を狙われているはず。だって、あの方は自分に咎が及ばないように画策するだろうから。私の命なんて、あの方の前では塵の一つ程度の重みしかない。
恐怖と罪悪感が、私の心の中で渦巻く、とても耐えられない。消えてなくなりたい。
「生きなさい」ってセオドア医師は言う、「守るから、生きて罪を償いなさい」とラインシート様は言う。強くなりたい。あの方の罪を明らかにし、アリシア様とハナに謝りたい。
「メイ、薬の時間だよ」
セオドア医師が薬杯を持って現れる。
ここがどこなのか私にはわからない。ただ、定期的に医師と看護師が訪れる。それ以外は扉の外に兵が配置されているのがわかる程度で、城内なのか、王都なのかすらわからない。一度聞いてみたけれど、答えはなかった。
「手の痺れはだいぶいいかな」
セオドア医師の言葉に頷き、苦い薬杯に口をつける。医師は私が薬を飲むのを黙って見ている。しびれは解毒療法が効いて本当に良くなってきた。
「先生、私は死ねないの」
何度目かの問いを口にする。
「生きなさい。君にはあの人の罪を明らかにする役割がある」
医師はまっすぐに私を見つめる。
怖い。この射抜かれるような視線。
私は今まで、この人の美しい外見や柔和な態度にばかり目が向いていた。でも、セオドア医師はその身の内にとんでもないものを抱え込んでいることに気付かされた。
全てを見通すような眼差し、放たれる“気”どれをとってもただ者ではない、医師の持つものではない。騎士よりも強い得体のしれない存在。
そしてもう一人、私が強く恐怖を感じる人がいる。
「体調は良さそうだな」
近衛の副隊長、ラインシート様。この方は、笑顔を浮かべ優しく接してくれるけど、瞳の奥には怒りが見える。私がハナに毒を盛っていたことを絶対に赦しはしない。ラインシート様にとってハナは特別だから。
ハナはすごい。全ての女性に平等で、お付き合いしていた女性に対しても特に情熱的に接している様子もなかったラインシート様を変えてしまった。ハナはラインシート様になくてはならない存在になっている。
彼にとって、唯一無二の存在を奪おうとした私に放たれる怒りは、隠そうとしても消えていない。
この二人を前に、消えてなくなることなどできないと知る。
私の役割はわかっている。
あの方の罪を明らかにし懺悔する。
薬を飲むと眠くなる。看護師が私の身体を支えて横にする。
あぁ、暫くは恐怖と罪悪感から逃れることができる。




