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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第2章
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第6話

読んで頂きありがとうございます。

更新が遅くなり、申し訳ありません。

視点がハナ→サイアス→ハナと変化します。読みにくかったらごめんなさい。

 今日は疲れた。

 初出勤で覚えることがいっぱいあったのに、お茶して更に情報収集とか結構大変。


 ラインシート家のエントランスに入ると、サイアスさんが出迎えてくれた。

「お帰り。夜道は大丈夫だったか」

「はい。ガルト君が着いててくれたので、心配なかったです」

 笑顔で答えると、サイアスさんは安心したように微笑んだ。

 うーん、綺麗だよね。もう少し普通のお顔だったら、女子に妬まれなくて済んだのにな。

 私はじーっとサイアスさんを見つめた。

「何か、ついているか」

 サイアスさんは自分の頬に手をやった。

「はい。付いてます。いい形の目と鼻と口が、いいバランスでね」

「?」

 サイアスさんはキョトンとしている。そんな顔まで素敵だなんて、羨ましい。



「ハナ。バカなことを言っていないで着替えて下さい。夕食です」

 ツイルさんが声かけてくれた。

「えっ、お菓子食べたからお腹すいてない。お土産にも、これ貰っちゃったし」

 私が、焼き菓子の入った袋を掲げると、ツイルさんは渋い顔をした。

「まったく、どこの子供ですか。食事が摂れなくなるほど菓子を食べるなど」

 ツイルさんが溜め息をつく。

 仕方ないじゃない。せっかく美味しいからって勧めてくれるのに、断るわけにはいかないじゃない。


「まぁ、いいだろう。ハナ、スープくらいは摂らないか」

 サイアスさんが助け舟を出してくれる。やった。

「その、菓子は・・・・」

「うん。メイに貰ったの。たくさんあるから、みんなで食べようと思って」

 本当は、私にってくれたんだけど、味がいまいちだから、みんなで食べて消費しちゃおうと思ったんだ。

「そうか」

 サイアスさんが、お菓子を受け取ってくれた。

「じゃあ、着替えてきます」





 ☆





「ツイル、検分を」

 ツイルに向かって菓子袋を差し出す。

「はい。しかし、なぜです」

「こんなに早く接触してくるなど、なにか思惑があるのかもしれない」

「侍女仲間ですよね。単に友人関係を結びたかったのでは」

「用心に越したことはないだろう」

 ハナに接触してくる者には、十分な注意を払う必要があるだろう。敵にとって、ハナは実力の知れない騎士のようなものだ。アリシア様を、亡き者とするのに障害になるであろうハナのことは、消したいと考えているはずだ。彼女を排除するのに、手段は問わないかもしれない。


「ふっ」

 私の言葉にツイルが笑いを盛らした。

「なにが、おかしい」

「ハナが大事なのですね」

「当たり前だ。ラインシートで保護している者だ。彼女に何かあったら、我が家の威信に関わる」

「ラインシート家の威信ですか。はーっ」

 ツイルが溜め息をつく。なんなんだ一体。


 たしかに、ハナのことは大事だ。彼女が何者かに害されるなど、考えたくもない。彼女がここから居なくなったら、彼女の笑顔が見られなくなったら、私は・・・・私は!? 


 彼女は異世界人だ。とてもニホンに帰りたがっている。帰るつもりでいるはずだ。

 彼女がニホンのことを考えて、涙を流すのを見るのは辛い。ニホンに帰れるように、僅かな情報でも収集して教えて行くべきだと考えている。


 しかし、彼女がいなくなってしまうのは・・・・辛い。


 あぁ、私はハナに惹かれているんだ。そう考えると、今まで疑問を感じ、もやもやとしていた気持ちが晴れてくるのがわかった。なぜあんなに、噴水の水で濡れた姿を人前に晒したくなかったのか、侍女にするのを嫌だと思ったのか、ニールと親し気に話す様子が気に障ったのか、それらすべてがストンと音を立てて心に収まった。


「お気づきになられましたか」

 私の表情を読んでいたのか、ツイルが得意げな顔で聞いてくる。おそらく、私より先に私の気持ちに気付いていたのだろう。


「あぁ、気付いた。これ以上、惹かれないようにしよう。ハナにはハナの願いがある」

 そう、これ以上惹かれて彼女を愛するようになれば、彼女の願いに協力することができなくなる。それは彼女を悲しませることになるだろう。

「ハナはニホンに帰れるのでしょうか。前例も手がかりもないのに。サイアス様が、この国でハナを幸せにして・・・・」

「ツイル、止めよう。ハナはニホンに帰る。私はそれまで、いかなる危険からも彼女を守り保護しよう。そもそも、ハナは私のことは何とも思っていないはずだ。お父さんだからな」

 つい笑みが漏れる。その信頼だけで十分だ。

「しかし、」

 ツイルが言葉を継ごうとするが、それには応えず背を向けて、ハナの待つ食堂に向かった。





 ☆





「それでですね。国王と側妃、お子様たちについて聞きました。ウィル皇子が狙われるのって、彼が皇太子だからですよね。でも、アリシア様が狙われるのが、やっぱりよくわからなくて」

 私はパンを手に、今日メイと話したことを、サイアスさんに聞かれるままに答えていた。

「そうだな。イーリアス王国とカートリア皇国の絆が深まると困る者がいる。ジャックと、ある程度の目星はつけているんだが、なかなか尻尾が掴めなくてな」

 サイアスさんは、悔しそうに顔を顰めた。

「私にできることがあれば言って下さいね」

「その時はお願いしよう」

 サイアスさんは、私の言葉に曖昧に笑った。

 まぁ、異世界人にそうそう国の内部事情を話すことはできないよね。

 話題を変えよう。


「ナナさんのことも聞いたんだけど、ロビィとイライザにいじめられていたってこと以外は、よくわかりませんでした。入れ替わりの手がかりも、日本に帰る方法もなにも・・・・」

 つい気分が沈む。こんなんで、日本に帰れるのかな。もう、帰れないんじゃないかな。そうしたら、どうすればいいのかな。このお屋敷にいてもいいのかな。でも、サイアスさんもお嫁さん迎えなきゃならないだろうし、私がいたら困るよね。

「ハナ・・・・」

「サイアス様。私、絶対日本に帰ります。でも、時間がかかるかもしれません。もし、ご結婚する時には言って下さいね。私みたいな、厄介者がいたら困るでしょう。お屋敷を出て王城の宿舎に入りますから」

 私が一気に言い募ると、サイアスさんの表情が、驚きから呆れて残念なものへと次々と変化していった。最後は食欲がなくなったみたいで、フォークを置いちゃった。あぁ、眉間に指を当てて俯いちゃったよ。

 なんで? あぁ、結婚の話はダメなのかな。すごいプレッシャーなのかもしれない。悪いことしたな。

 マリーネさんとツイルさんの方を見ると、すごくがっかりしたような表情で私を見ていた。

 やっぱり結婚話は禁忌なんだ。ごめんなさい。


「ハナ、私はまだ結婚などしない。ウィル皇子やアリシア皇女を守らなければならないし、お前をニホンに帰すためにも、国中から情報を集めなければならないからな」

 サイアスさんは真剣な表情で私を見つめる。

「でも、そんなんじゃ、いつまでも結婚できませんよ。跡継ぎとか必要なんじゃ・・・」


 ガシャン! 食器の割れる音に振り向くと

「すみません! 不注意で」

 マリーネさんが、慌ててお茶のカップの破片を拾っていた。マリーネさんが、失敗するなんて珍しい。


「大丈夫か。マリーネ」

 ツイルさんが、マリーネさんを手伝って破片を拾い始めた。

「いいタイミングだった。ありがとうマリーネ」

「もう、あんなに追い詰めなくても・・・」

 マリーネさんが、ため息をついている。

 あぁ、そうか。また、結婚話をして追い詰めちゃったんだ。私ったら、無神経だ。


「ごめんなさい。サイアス様、もう、絶対に結婚の話はしません!」

「・・・・」

 私の謝罪に、サイアスさんは疲れたように笑っていた。






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