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異世界で侍女やってます  作者: らさ
第1章
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第1話 

はじめまして。もしくは、お久し振りです。

今回も異世界トリップの物語です。ちょっとクスッと笑えるような、肩の力を抜いて読める物語にしたいと思います。週1回の更新を目指して頑張ります。よろしくお願いします。

 うわぁ!

 なに、なに! ここ、どこ! 私、私どこにいるの!


 眼をめいっぱい見開いて、握った拳のなかにしっとりと汗をかいて棒立ちになる。

 だって、だって「〇〇と野獣」の映画のような豪華な部屋のなかで、たくさんの外国人が私に剣を向けて周りを囲んでいるんだもの。パニックにならないわけがない!


 唾をのみ込み右を向く、また唾をのみ込んで左を向く。だめだ、360度剣だらけだよ。

 外国人の兵隊が細身の剣を持って私を睨み付けている。

 全く、全然! わけがわからない!


 ふと、床に目を向けると我が家のお椀が目に入った。お椀と私だけがこの部屋の中で、異質なものとして存在している。


 そうだ。お椀の中には、お母さんの作ってくれた豚汁が入ってたんだ。あぁ、もったいない。豚汁は毛足の長い高価そうな絨毯に吸い込まれていた。どうしよう弁償なんてできないよ。あぁ、でもその前に殺されるかも。


 俯き、物思いに耽っていると、背後で1人の兵士が動く気配を感じた。即座に振り返り、型をとり構える。


 兵士は驚き、目を見開いて動きを止めた。

 そうだよね。空手の型なんて見たことないだろうからね。


 なにを隠そう私は空手の有段者(黒帯、三段)なのですよ。県大会では負け知らずなのです。えっ、全国大会? それは聞かないでもらいたい。

 数人の兵士なら余裕で相手ができると思うけど、ここまでいると多勢に無勢だ。


 兵士と睨みあったまま、膠着状態が続く。

 周囲の兵士も私に手を出すことができず、場は緊張に包まれている。



 この状態に焦れた兵士が私に向かって突進してきた。


 まじかっ! か弱い女子に向かって剣を振りかざすのか!


 向かって来た兵士の剣を半身捻って躱し、その腕を取り太腿で蹴り上げて剣を叩き落す。

 剣が豚汁の上に落ちて、ぐちゃっと嫌な音がした。あぁ、大根が潰れている。




 思い出した!

 豚汁を食べようとして、お椀に口をつけた瞬間に光に包まれたんだった!

 うーっ、なんてこと。

 一口も豚汁食べてないじゃん。おばぁちゃんが、食べ物は粗末にするなって言ってたのに、言ってたのに粗末にしちゃったじゃない。というか、食べたかったよ! 豚汁!

「とーんじるーっ」


 兵士の手を捻り、仰向けに床に叩きつけ、上腹部に拳を打ち込んだ。兵士は「ぐっ」って変な声を上げ、意識を失った。

「あっ、ごめん。やり過ぎた。これ豚汁の八つ当たりね」

 倒れた兵士に謝ってみたけど、勿論返事はない。



「あのぉ、すみませんが」

 私が、周囲の兵士に声をかけると彼らは一様に一歩後ずさった。

 なにその、危険物扱い。


 更にもう一人、背後の兵士の動く気配がする。

 まぁ、一人一人来るなら相手するけど、それよりここがどこなのか知りたい。


 まさかの異世界トリップ? もしそうなら帰ることはできるの? 言葉は通じるのかな? 魔法とかあるの? ひょっとして私、素敵な皇子様のお妃になっちゃう? それとも勇者として召喚された? 

 いやいや、ちょっと待て。あり得ないだろう。妹の好きなラノベじゃあるまいし。落ち着け、落ち着け、冷静になろう。逃避しちゃだめだ。


 百面相しながらブツブツと呟く私の姿は、危険物扱いに拍車をかけたようだ。


「なにを言ってる化け物め」

 また、兵士が剣を構えてこちらに向かって来た。


「あーっ、言葉通じるね! 良かった! けど“化け物”って酷くない!」

 突っ込んで来た兵士の手首に蹴りを入れて剣を叩き落とした。剣を落とされた兵士は、憤怒の表情で私に飛びかかろうとする。


「ニール! やめろ!」


 部屋中に響き渡る声と共に、ここにいる兵士たちとは格の違いを感じさせる雰囲気を持つ背の高い男が入って来た。なんだか着ているものも立派だ。兵士たちの上司か?


 でも、やっぱり外国人だ。金髪、碧眼に整った顔は絵本のなかの皇子さまみたいにキラキラしている。妹がいたら垂涎の的だな。


「しかし、副団長! こいつの使う体術は、今までに見たことがありません。容貌も怪しいし。一体何者なのか」

「容貌が怪しいって! お前の方が変な顔だよ! 顔のブツブツ多すぎだろ! 清潔にしろ、清潔に!」

 つい、ニールとやらの言葉にムッとして怒鳴ってしまった。ニールは私の言葉に衝撃を受けたようで固まったまま立ち尽くしている。

 副団長とやらはこめかみに指を当て、眉間に皺を寄せた。



「君は自分の立場を理解しているのか」

 副団長は私の目を覗き込み、深い静かな声で話しかけてきた。


 うっ、背が高いな。副団長は私と視線を合わせるために少し屈みこんでいる。

「立場って・・・・」

「君はイーリアス王国の近衛騎士団に囲まれているんだぞ。彼らは騎士の精鋭だ」

「ふーん」

 その割には隙があり過ぎじゃないのか。私は言葉に出さずに倒れている兵士やニールを見た。ニールはまだ固まっている。あぁ、そうか。選ばれし者だったからプライドも高かったんだね。心が折れなきゃいいけど。


 それより、ここはイーリアス王国って言うんだ。日本は? 日本と国交はあるのかな。言葉が通じているから親日国なのかな。

「ところで、日本って知ってますか?」

「知らないな」

 副団長は即答した。

「またまたぁ、頭良さそうなのに日本を知らないなんて、ちゃんと新聞読んでますか」

「シンブンとはなんだ」

 副団長は真面目に返してくる。彼の言葉に驚く。


 新聞を知らない? 何時代なの? そもそもイーリアス王国ってどこにあるの? 大体、外国人にここまで日本語が通じる? 嫌な予感が私の心臓をじわじわと締め付ける。


 私は周囲を見渡し、大きな窓があるのを見つけると駆けだした。

 騎士たちが、私を捕らえようとしたけど、副団長がそれを制した。




「うそ・・・・」

 窓の外を見て言葉を失った。


 月が二つある。青みがかった月と白い月が夜空に映えている。


 地球ではあり得ない景色。

 異世界だ・・・・。


 息が苦しい。身体が震える。動悸が激しくて耳鳴りがする。

 身体に力が入らず、へなへなとその場に座り込んだ。

『どうしよう、どうしよう』頭の中で、その言葉がグルグルと回っている。



 座り込んで動けなくなった私の傍に副団長がやって来た。

「わかったか。君は異世界人だ。この世界には稀に君のような者が現れる」

 副団長は屈みこんで、ゆっくりと話してくれる。

 私は彼の言葉に黙って頷いた。


「帰れますか?」

 ゆっくりと副団長を見上げ、一縷の望みをかけて聞いてみる。

 お願い! 帰る方法はあると言って!


 副団長は黙って辛そうな表情を浮かべ首を横に振った。


「嘘だーっ」

 あまりにも残酷な現実に私は声を張り上げた。頬に涙が伝う。


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