女神の遊戯
理沙の要望を無条件に呑んだように見えるが、それは違う。
オーグは皇帝である。よって、帝国の繁栄を第一に考えて動く。
ダムもそこから帝都に水を引くのも、有益だと思えばこそ行動に移したのだ。
小麦が大量栽培されている地域というのは、川を中心とした水源のある地域である。その他の地域は乾燥に強い作物「しか」育たない。乾燥に強い作物「を」育てている訳では無いのだ。
新しい水源、そこから得られる大量の水は農業を中心に使われ、農地の拡大を促す。
また、日照り対策にもなるので飢饉になる可能性が一気に減る。
天候に左右されない水源というのは、この世界では国家の運命を握るほど重要な物なのだ。
オーグは帝都に引くための水源以外にもいくつかダムの建造を命じ、帝国内の水問題の解決を図る事にした。
食糧生産が安定すれば、それはそのまま帝国の繁栄にもつながる。
自然とは屈服させるものであり、環境破壊などという考え方を気にしないこの世界の住人らしい判断だと言える。
ただ、その行動が理沙の言葉を無条件に受け入れているように見えるのも仕方のない話であり、嫉妬交じりの悪評がたつのもしょうがない流れである。
皇帝オーグ、31歳。
裏で、7歳児に傾倒したロリコンと言われるようになる。合掌。
「お外で遊ぶです!」
オーグは皇帝との仕事で書類と戦う事が多いのだが、それとは別に戦士として体を鍛える事もする。
そんな立場だろうと体力があった方がなにかと都合が良いのは当たり前。戦争を続けている帝国の皇帝なので、いざという時に前線に立てないようでは誰も付いてこないのだ。
鍛錬の為にオーグに連れられ、外に出た理沙は遊び相手を欲しがった。
それも、小学生らしい遊びをしたいと言いだしたのだ。
「いくです!」
「負けないぞー!」
「頑張れー」
武官文官、彼らの子供を集めて行われるドッジボール大会。
理沙は昼の休み時間によくやっていた球技をこの世界に持ち込んだのだ。
ボールは革張りで、当たってもあまり痛くないようにしてある。
中は空洞ではなく布が詰め込まれ、あまり弾力は無いがそこまで求めるのは酷だろう。空気を入れるのも難しいだろうし、空気が抜けないようにする技術がこの世界には無い。痛くない方が優先なのだ。
日本のボールは用意できないが、それでも子供たちは楽しそうである。
立場など関係なく勝利を目指して遊んでいる。
それを横で見たオーグが、中身を木製にしたボールを作らせ、大人用の球技を始めたのは言うまでもない。
コロシアムで命の奪い合いだけでなくドッジボールの勝負が行われるようになり、帝都の民を楽しませるようになった。
似たような球技は無いかと聞かれ、バスケにバレー、果ては野球にサッカーまで帝国全土で行われるようになるのは余談である。