女神の水
幼女と皇帝の共同生活は「気が付き」の連続だ。
ラジオ体操や柔軟体操といった準備運動が取り入れられ、兵士たちには海辺で水泳の授業なども行われるようになった。
こういった事は目に見える結果を生まないものの、現場では訓練や肉体労働前のちょっとしたご利益のある行為として取り入れられた。
また、準備運動の習慣は兵士たちが退役後に故郷へ帰った折、故郷でも続けた事から帝国各地へ広まっていくこととなった。
世界的に広まるまではもう数年かかる話ではあるが、理沙の影響は帝国全土に浸透していく。
そんな理沙に、オーグは甘い。
ある暑い日の事である。
理沙が「暑いです。プールで泳ぎたいです」と言いだした。
「ぷる?」
「プールです。綺麗なお水を一杯溜めて、泳ぐところです」
理沙の説明を受け、オーグはプールの建造を命じる事にした。
ただし、プールの建築には1月はかかるという事で、この夏は間に合う事など無い。完成後の利用は秋か来年の夏にするとして、今のうちにそれ以外でクオリティを高めようとオーグは考えた。
「綺麗な水か……。どこがいいか?」
「お山のお水がいいです! お山のお水はきっと綺麗です!!」
理沙の言う「綺麗な水」はどこの水かと思案するオーグだが、そこに理沙の要望の声が割り込んだ。
理沙はコンビニなどで売っているミネラルウォーターを綺麗な水だと認識している。それこそ買ってでも飲む物だから、きっと良いに違いないという発想だ。
特にそういった考えの無かったオーグだが、理沙の要望に応えようと奮発することにした。
「将軍を呼べ!」
「はっ!」
将軍を呼び出し、山から水を引くように命じたのである。
将軍は帝都に一番近い山脈から水路を引くことにするが、山から出る水は近隣の農業などでも使われる貴重な水源であり、何も考えず使えば各地で断水を引き起こしてしまう。
その対策をどうしようかという話し合いの場が持たれたが、そこに皇帝のオマケで参加した理沙がダムの事を話す。
「ダム、ですか。たしかにその方法なら多くの水を賄えるようになりますな。
ではダムに適した場所を探させましょう」
理沙がダムの事をある程度でも知っていたのは、某政党が行った公共事業撤退の話の中で、ダムの事がTVで報道されていたからだ。
理沙自身は細かい事など知らないが、拙い説明からも山間で巨大な貯水施設を作るといった内容は、話し合いの参加者に伝わったのである。
大規模な環境破壊であるが、そんな事は理沙には分からない。ただ、国が作るのだから何か有効な施設じゃないかと思っただけである。
幼女の言葉であったが、有用性を考慮した結果、作るに値すると思われたダム。
帝国は多くの兵を動員して、半年後の冬には巨大ダムを建設するに至った。
同時に水路も作られ、帝都には北部にあった山脈から清水が流れ込むことになる。
プールに水が引かれるまではまだ先の話であったが、それ以外の用途として帝都内と帝都周辺の農地に水が届けられることになった。
水が豊富な生活とは豊かな生活である。
帝都の民は水路を作った皇帝に深く感謝し、環境が激変した山脈周辺の民はオーグの事を少し恨むようになった。
内政チート小説でもダムを作る話って少ないですよね。水が豊富な日本ではあまり実感が無いかもしれませんが、ヨーロッパ的な環境で水は貴重品です。
水回りは多くの利益をもたらすとだけ覚えておいてもらえると話に幅が出ると思います。