女神の処遇
突如響き渡った女児の泣き声に、宮廷警護の近衛兵と女官たちがオーグの下に駆けつけた。
オーグのいた執務室の扉が勢いよく開かれ、大勢がなだれ込んでくる。
そして彼と彼女らは見るのだ。
オーグの前で泣きわめく、幼子を。
ここは帝国で、オーグは皇帝で、その行動のすべては許される事になっている。
しかし幼子を執務室に連れ込み、母を求め泣かせている状況は心情的に思うモノがあるらしく、皇帝に対し不敬ではあるが「コイツ、何をやりやがった」といった視線を向けてしまう。
「陛下、これはどのような状況なのでしょうか?」
近衛兵の中でも、一際冷静な隊長格の男が皇帝に問う。
平時であれば皇帝へ直答を求めるのは許されざる不敬であるが、状況打破のためには必要と判断しての事だ。
「分からん。光とともに、いきなり現れたのだ」
答える皇帝の言葉も困惑に満ちている。
当たり前である。彼自身、この場で何がどうして幼女が目の前に現れるといったことが起こったのか理解できていないのだ。
とりあえず、結果だけを見て行動を起こすことになる。
「この娘は、そうだな。後宮にでも連れて行け。そこにいる者達に世話をさせる。
身分は、余の客人の娘とでもしておけ。その容姿なら疑われる事もあるまい」
幼女は、高貴な身分の者のようであった。
髪は艶があり、肌の血色はとても良い。幼い者特有のややふっくらとした身体つきはしっかりとした食事をとっている事の証明である。これが平民であればもっと痩せていても不思議はない。
この世界の常識に当てはめて考えれば、豪商もしくは貴族階級の娘に相違ない。皇帝の客人の娘と言われて疑う要素は無いだろう。
なお、黒髪黒目はそこまで珍しいものではない。
皇帝は金髪碧眼であるが、西や南の方に行けば、黒髪黒目などどこにでもいるありふれた色だからである。
部下に娘への聞き込みを行うように指示し、オーグは仕事を続けることにした。