女神の聖書
「待て、りさ。その話は本当か?」
「ほんとーだよ。へーか」
ある日の夜。
なんとなく寝付けなかった理沙の為に、オーグは夜空を二人(+護衛)と眺めていた。
雑談をしながら星を眺めていたのだが、そこで理沙は地動説について口にしたのだ。本人は地動説という言葉を使っていないが。
オーグは驚きのあまり、思わず強い口調で理沙を問い詰めてしまうほどに。
話が本当かどうかを聞かれた理沙はオーグの様子に驚きつつも、あっさりと、気負う事無く太陽の周りを地球が回っているという話を肯定した。
理沙にしてみれば地動説を肯定する、地球の周りを太陽が回っている天動説を否定したことなど、話のネタ程度でしかない事だが、オーグにとってそれは大きな意味を持つ話だった。
この世界にもいくつかの宗教があり、その中で最近台頭してきた厄介な一神教が帝国を悩ませていたからだ。
その一神教は神の教えを説き、それが記された聖書を絶対視している。
そして聖書には天動説が正しいと書かれていた。
オーグが理沙の言葉に驚いたのは、地動説という考え、太陽系から見た惑星の動きについて、簡単ではあったがおおよその動きが分かるような説明を受けたからだ。
太陽の周りにはいくつもの惑星があり、それぞれが太陽を中心に回っている。
月は地球の周りをまわっているが、地球は太陽の周りをまわる惑星でしかない。
惑星は発光していないが、太陽の光を反射することで他の星々のように光って見えるなど。
理沙の話は一般常識のレベルだったが、それでもオーグにとっては厄介な一神教の聖書を否定する大きな武器と思えた。
理沙を寝かしつけたオーグは善は急げとばかりに学者を集める。
「よいか、これは裏付けの取れた情報だ。この情報を前提に調査を行い、天動説を否定してみせよ」
「「御意!」」
オーグは天文学を専門とする学者たちに理沙から受けた説明を元にした惑星軌道図を教える。
学者たちは興味深そうに話を聞き、各々の知っている情報と照らし合わせ、その内容に間違いが無いかを確認する。
学者たちもそれなり以上に天体運行を見守ってきた者達である。元々天文学は国家趨勢を占う重要な学問だったので、学者も多くいるし、帝国も力を入れている。所属する学者は全員優秀で、天文学に全てを捧げちゃったヤバい連中でもあるが。
そんな勤勉な学者たちは理沙の話に大きな矛盾がないことを確認すると、今度は証明の為のデータ収集をどうするか話し合い、即日実行に移す計画を立てた。
それから数年後、帝国内で布教していた一神教の関係者でも上位の者は帝国に弓引く詐欺師、嘘吐きとして全員処刑された。
強引とも言えるやり口に処刑を免れた者の中から反発する者も出たが、聖書に書かれた天動説を科学的に否定し、嘘の書かれたインチキな書物として証明してみせた。
こうして帝国内は多神教でまとまり、一神教による強引な、国という枠組み以上の組織設立を免れたのである。
帝国に皇帝以上の権力者無し。
帝国はこうやって数百年の栄華を勝ち取ったのである。
ちょっと危険な宗教ネタです。
でも、地動説を証明できればかなり大きなアドバンテージになると思うのですよ。
奴らは自分たちが特別だと思いたがりますからねー。




