6 新学期
桜が満開の四月。田んぼに囲まれ、のどかな雰囲気を帯びた公立高校の始業式。
足代先生は三年七組の担任として、生徒達と対面しました。
男子生徒がため息をつくほどの綺麗な顔で、黒髪はやや短めに切り揃えられていて、その美人に似合う可愛らしい服を着ている先生でした。
しかし、その可愛らしい服の上からは運動用の灰色のジャージを羽織っていました。
そして、生徒達は服装の次に噂通りのものを見つけ、全員の視線は先生の持っていたカバンに釘付けになりました。カバンの中から顔をのぞかせていたのは、真っ白なうさぎのぬいぐるみ。
足代先生は無言で無表情で教壇にまで歩いてきて、カバンからそのうさぎを取り出して教卓に置き、生徒達に背を向けて白チョークで黒板に文字を書き始めました。
名前、足代るい
担当、現代文
好物、本とケーキ
三行に分けて綺麗な字で書き終えると足代先生は振り返り、生徒達に向かって初めて口を開きました。
表情一つ変えず、淡々と。
「教師になって二年目、クラス担任を持つのは初めてだ」
ぐるりと教室中を見渡して、足代先生は話します。
自分の顔をじっと見つめている生徒達、まだ何も書かれていない裏黒板、まだ何も貼られていない掲示板……。
今日から、足代先生はこのクラスの担任として活躍していくのです。
「去年も、ほんの一年でも色々なことがあったし、色々な生徒と出会った。私のペットについてたくさんの質問をされてきたし、吹奏楽部の方では初めて楽器を手に取ったし、図書室では新刊を買いにパシられたし、遠足では迷子になったグループを捜し出すのに苦労したし、文化祭では文芸部が作った文集を押し売られたし、体育祭では運動できないのにリレーで走らされたし……中には、私に『告白』をしてくる男子もいたが」
足代先生は言いました。
「君たちと今ここで巡り会ったことを私は大切にしたいし、君たちからも色々なことを学ばせて貰いたい。君たちも私から何か学べるようなことがあるのなら学んで貰えればいい。そして、是非私と何かを共有してほしい。好きな本を、おすすめのケーキを、印象深い言葉を、ここにいる空間を、何より、幸せを」
まずは、うさぎが可愛いという事実を私と共有しよう、と。
足代先生はちょっとだけ嬉しそう表情で、ちょっとだけ口角をゆるめて。
「この先一年間がとても楽しみだ」
おしまい。
「うさぎせんせい。」をお読みくださりありがとうございました!
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