21.カオス②
おかしな話だ。
情報局員エイリクは全てをせせら笑う。
自分を含め、死人が歩いている。洋上の大型タンカー、ハニー・ヴァイキングの任務で死んだはずのケイや自分が、何故まだ五体満足で何故日本の街中に投入されているのか、エイリクには何度考えても分からない。
説明が付きそうな経緯も見当がつかない。分からないまま、知りもしないビルの非常階段でマークスマンライフルのスコープを覗いている。
銀の糸で宙を舞う、美しい蜘蛛女がレンズの向こうに見える。狙撃配置。重力波適合因子持ちの子供の逃走にだけ備えるにしては大袈裟過ぎると感じていたが、異星の人型が相手なのであれば納得もする。
なにせエイリクはつい四十時間前に異星の人型に一度殺されている。成す術もなく、一瞬で。
「味な計らいだねェ、シーワイズ」
「ケイも担当区域から向かって来ている。待って挟んでもいいが、その弾なら異星の人型にも当たる。おまえ一人で削り殺していい。やれるなら、だが」
「やるさ。たかだか小娘の二匹、弾が当たるなら」
手すりのパイプに足をかけ、エイリクはマークスマンライフルを構えた。蜘蛛女と因子持ちの隠れているビルの屋上までは、凡そ百五十メートル。
容易い距離ではないが外す距離でもない。これで外すようでは射撃手を名乗れない。エイリクは自負を以て乾いた唇を舐める。
しかし彼は彼自身が意識しているような状態ではなかった。
彼はもはや一塊の人型の肉。手があるべき場所からライフルが生えているだけの、醜悪な肉塊でしかなかった。舐めるべき唇もなければ顔もない。それにエイリク自身が気付くことはないというだけで、彼はもはや銃を撃つためだけに練り固められた異形と化している。
同僚シーワイズの姿も非常階段にはない。彼の声はエイリクの意識の中だけにしかなく、エイリクが発している音もライフルの作動音だけだ。
しかし、スコープの先に標的があり、標的を撃ち殺すという任務がまだある。自分にはそれがあるのだと、現実から逸らした思考で頭を埋め尽くす。
因子持ちの子供と異星の人型が連れ立って逃げている、などという辻褄の合わない状況にも目は瞑る。
瞑って殺さなければ、いよいよ己の存在意義は無くなるのだ。
故に、エイリクの腕に接続されたライフルは銃弾と火とガスとを吐いた。
残弾は二十九発。予備はない。
シングルショットで釘付けにして殺し切る。エイリクは方針を定め、スコープの中の標的が段差の影に身を伏せるのを確認して、やはりせせら笑う。思いのほか判断が速いが、それはそれで思うつぼだ。
エイリクは制圧射撃を続行する。
異星の人型に射撃兵器はない。こちらの位置を察知する術も。
つまり反撃はない。
勝利は見えている。
「さあ、リベンジだ」
***
およそ三十秒間隔で一発ずつ。
ルカは屋上に伏せたまま敵が射撃をするペースを数え、結論として敵が少数であるとほぼ確信していた。
魔術戦と基本戦術は同じである。火力で圧倒できるならしない理由がない。しないということは、できない。火力で連携するほどの兵がないということ。
「それも相手が正気なら、か」
敵の判断能力に頼って考えせざるを得ない状況にも歯痒い思いはある。そもそも、なぜ異界に来てまで現地の人間と争っているのか。ルカはうんざりした思いで傍で伏せる皇女の顔を見た。
ミラベルも苦い顔をする。
「とても正気とは思えません。こんな街中で戦闘行為だなんて」
「敵の位置は分かりませんか、魔力探知とかで」
「魔力的にそれらしいものは視えません。やはり異界の兵かと……でも、この攻撃はなにか嫌な感じがします。魔素を感じる」
「付呪を異界人が……? なら受けない方がいいですね。このまま物陰でやり過ごしましょう」
ルカとミラベルは屋上の端、笠木の備わった鉄筋の段差に身を隠していた。定期的に飛来する敵の銃弾も、コンクリートを貫くほどの威力ではない。ルカの直感は正しかった。
伏せたまま、ふーっと息を吐くルカに、ミラベルは目を丸くしていた。
「ルイ、なんだか……場慣れていませんか」
「え?」
「異界の学生は戦などと無縁かと思います。あなたの肝の据わり方は少し不思議です。なんだか落ち着きすぎのような」
「ああ……こう見えて怖がってはいるんですけどね」
本音を溢し、ルカは右足の傷を押さえる。
「だからって、ただ竦んでいたら食われるだけですよ。どこでだってそれは変わらないのではないですか。ここでも、たとえ別の世界でも」
「ルイ、あなたは……」
「もしかするとミラベルさんは違うのかもしれませんが、わたしは……いえ」
よりによってウッドランドの姫に愚痴を言ったところで、ルカの生い立ちや皇国との戦の趨勢はどうにもならない。ルカは頭を切り替える。
「……敵の矢切れを待つのも有りでしょうけど、あちらが無策である保証もない。できるなら別の建物に移動したいですね」
「同感です。でも、その足で動けますか? 無理は……」
「這うくらいならなんとかなりそうですけど、ね」
弱い肉体が恨めしい。ルカはほぞを噛む。
最悪なのは敵が全員散兵として配置されているパターンだった。現界と異界は用兵のセオリーが全く異なりルカには予測が難しい。しかしもし、万が一そうだとしたらいずれ新手が合流する。いま撃って来ている敵が悠長な攻め方をしているのも納得がいくし、挟撃もあり得る。そうなれば皇女はともかく、ルカはひとたまりもない。
「ミラベルさん、先に……」
「では、まず射手を倒します。このまま伏せていてください」
別行動を提案しようとしたルカは、迷いなく言い切るミラベルの一声に口を閉じた。吸血姫の異名は東方にも聞こえるほどだったが、共に暮らしてみた限りはイメージと違う、心根の優しい少女であるとルカは思っている。おそらく、人を殺めたこともないのだろうと。
その姫が、異界の未知の敵を指してこうも言い切る。
どういう子なのだろう。ルカの中で疑問よりも興味が首をもたげ始める。魔術師としては相当な腕前だろうと見当がついていたものの、それは騎士としての優劣とイコールではない。配下の夜明けの騎士が凄腕なのは間違いないとして、本人の実力はどうなのか。
刮目するルカの目の前で、異界の若者同然の出で立ちをした皇女が身を起こす。杖も楯もない、まったくの自然体で立ち上がったのだ。
「……!? それは無茶だ、ミラベルさん!」
ルカは泡を食った。皇女には銃の知識がないのだ。それ以外に、銃の射線に身を晒すという行為の危険性が分からないということはないはずだった。
しかし、ミラベルは首を振る。
「実は私、銃という武器を一度だけ相手にしたことがあるんです。初見は面食らいましたし、異界で原理を知って感心もしました。優れた武器だと思います」
「でも」と続けて皇女は視線を周囲のビル群に彷徨わせる。
敵の姿を探しているのか。悠長すぎる。訝るルカに、ミラベルは告げる。
「いくつか弱点があります。まず音。発射の音が目立ち過ぎる。つぎに機構が複雑だということ。あんな精緻な構造は過酷な環境での使用には向かない」
「だとしても、今は関係無いでしょう!? 隠れて!」
半ば悲鳴に似たルカの叫びも、皇女は涼しい顔で受け流す。
くるりと身を回したミラベルは、歌うように言った。
「だけど一番だめなのは、弾体が小さな金属の礫であることです」
その言葉の終わりと、遠方で響いた銃声は同時だった。
次の瞬間、ミラベルの目の前、中空に蜘蛛の巣の如く白い亀裂が広がった。
ルカは驚いて目を見張る。透明の破片も降り注いでいる。これは。
「単純に威力不足なんです。素性が割れてしまえば低位の破壊魔法にも劣ります。魔術の障壁を貫けても、それだけでは。魔術師の敵ではありません」
ガラスだ。
魔術障壁ではない。物質転換術で作り出された物理的なガラスの壁が四枚、いつの間にかミラベルとルカの四方に並んでいたのだ。そのガラスが銃弾を止め、そして亀裂の位置が射手の居る方角を物語っている。如実に。
ルカは無言で戦慄する。
壁の材質。おそらくは防弾ガラス。しかし、存在を知っているのと即興で作れるのとでは意味がまったく違う。組成物を完全に把握し、何度となく試作をしなければこの短時間で魔素から転換するのは不可能だ。異界の知識を、この皇女はいったいどれだけ吸収しているのか。
「ああ、そこでしたか」
愛らしささえ垣間見える所作と言葉で、しかし、皇女は怜悧な視線を亀裂の先へと向ける。罅の向こう、百メートル以上先のビルに目線が固定される。
立て続けの銃声が響く。精密な連続射撃。まるで抵抗するかのようにガラスの壁の亀裂が増していく。しかし、この後に起こることを異界の射手が理解している筈がない。本能で察知しているとでも言うのか。ルカは驚くばかりだ。
だが、いずれにせよ結果は定まった。居場所が露見した時点で、射手の命運は尽きている。
「くちなわ射抜け、輝ける銀の矢、栄光の桂冠」
僅か三節の詠唱で、皇女の手のひらから銀の光が六つ、こぼれて宙を流れる。銀の魔弾。一発一発に高度な魔力操作を要求する高位の破壊魔法。
銀弓。
ルカがその名を想起すると同時に、ミラベルが指鉄砲を構える。その瞬間、二つの光が同時に放たれた。ひとつはガラス壁の一枚を内側から爆破し、残りのひとつが射手の潜むビルに目掛けて飛翔する。
放たれた魔弾は、異界の射手を確実に射抜く。破壊魔法は騎士でもない人間に避けられるものではない。呆気ない決着に、ルカは呆然と視線を上げる。
銀の爆風でガラス片が舞い散り、皇女のキャスケット帽が飛んでいた。解き放たれた長髪の向こうに見える皇女の美しい顔は、表情を浮かべていない。恐れも無ければ喜びも無い。粛々と敵を駆逐するのみ。
ルカは嘆息する。
迷いなく己を囮にする大胆なやり口も、ガラスの壁を防御と同時に索敵に利用して、一度で勝ち切る絵を描く戦術の質も。魔術がどう、知識がどう、という以前に、この皇女は人間との駆け引きに慣れている。
どういう環境で育てば姫がこうなるのか。皇国の騎士よりも実戦経験で勝る東方連合の騎士にも、ここまで争いに慣れている人材はそういない。
「虫も殺さないような顔で……場数を踏んでるのはどっちですか」
その証左として、ミラベルの深い緑の双眸は既に敵の射手とは別方向を向いている。皇女が手元に残した魔弾は四発。
意図は自明だった。白兵に備えているのだ。
次の瞬間、屋上への唯一の出入り口である金属ドアが中から蹴破られた。ルカの持つ小比賀瑠衣の記憶にはない、長身の銃を携えた大柄な人影が屋上に躍り出る。
おそらく男である人影は、手にした長い銃を即座に発砲した。たちまち連射の騒音が満ち、銃弾の雨を受けるガラスが鈍い音を響かせる。怒涛の如く押し寄せる音の波を前に、ミラベルも指鉄砲を向けた。
「ごめんなさい」
再び、銀の光が二条。守りのガラス壁を内から破壊する一発。そうして射線を確保してから、もう一発で仕留める。単純な破壊魔法や魔術障壁の撃ち合いとは大きく異なる、銃との戦いを想定した新しい発想の魔術戦。
挟撃と不意打ち、そして強力な銃器というカードを揃えているはずの襲撃者の男は、魔弾の直撃を受けて大きく後方に吹き飛んだ。
その手からひしゃげた銃器が転がり落ちるのを確認するまでもなく、勝敗は明らかだった。
並木道で皇女が応戦しなかったのは、相手が顔見知りで戸惑ったからだ。そうでもなければ、そもそもこの吸血姫は異界の武力などものともしない。ルカはそう理解して、彼女の情報を頭にインプットする。
恐るべき敵の姫としてか、あるいは別の分類になるかはまだ知れない。しかしルカは確信している。東方連合はこの姫を敵に回してはならない。
吸血姫には北方の辺境に引き籠っていて貰わなければならなかったのだ。だというのに、アズルなどという戦略的に意味のない街を攻めたおかげで尾を踏んでしまった。やはりあの作戦は失敗だったのだ。
だったらせめて、異界に渡ったまま戻らないでほしい。ドーリア王としては関わり合いになりたくない。ルカの正直な感想は、そんなところだった。
「ルイ、終わりました。移動しましょう」
「このまま……ここで戦っても勝てそうな勢いでは?」
「こんな小さな襲撃のためだけにしては、どうも仕掛けが派手すぎました。その割に攻め手も単調。まるで捨て駒です。きっと裏がある」
驕りも無しか。
評価を完全に固め、ルカは僅かに黙考する。
「動きがちぐはぐなのはたしかに。誘拐なり暗殺なりのやり方じゃない」
「何者かが異界の兵をけしかけて利用しているのだと見ます。なにかの魔術だとすれば、彼女たちが錯乱した様子だったのも合点がいきます」
「何者か、ですか」
「異界では候補も多くありません」
付呪された武器といい、現界絡みに違いない。ルカも頷いて簡単な推測をする。糸を引いているのはタンカーに現れた個体と同じ一派。未知の竜種だ。
「だったとして、何がしたいんだ……?」
ルカは竜種に対する知識を多くは持っていない。
自らと契約した巨竜も、千年前を知るアリエッタも、ルカに多くは語らなかった。残る知識は王国書庫に残る古文書の伝承、ウッドランド皇国の国教に伝わる教典。実態に則しているか微妙な伝聞でしかなかった。
強く、大きく、それでいて高い知性を持つ文字通りに最強の魔獣。個としての能力で言えば間違いなく人類種を上回る古代の生物。実態はそこに終始する。邪神だの悪魔だのという概念は当てはまらない。
夜明けの騎士、高梨が断片的に語る太古の戦においても、ルカはただ人類種と竜種が生存を賭けた戦争をしたのだと捉えている。幻想が差し挟まる余地はない。
世界という観点で言えば、異分子はむしろ往還者であったのだろう。
たった九人で世界規模の変革を齎したという異能者たち。世界の王たる竜種を滅亡に追いやった異界からの侵略者。そう見ることも、できる。
だから復讐をしようとしている?
小比賀瑠衣に異界の兵をけしかけることが復讐に繋がるとは思えないにしても、彼らには異界を襲う動機がなくはないと考えられる。
アリエッタが蘇らせ、ルカが契約した巨竜が生きている唯一の個体だと思っていた。もしそれが間違いだったとしたら。僅かに生き延びていた一派が、時を超え、往還者を生み出した異界に復讐するべく、いまになって再び動き出した――?
しっくりこない。
ほぼ他人事でありつつもルカは首を傾げる。
異界と現界との関係では時系列が意味をもたないのだという。行き来に時間移動を伴っているから、というのが高梨の言で、難解な概念でありながらこの賢王は彼女なりの理解を達成している。
要するに、異界から見た現界は千年前と現代とが同列に存在しているようなもので、時系列を基準にして考えるのが無意味だということだ。
なら竜種が健在であった太古の時代から、何らかの手段で世界を渡ってきた、とする方がルカにとってはまだ自然に聞こえる。
現界が広いとはいえあの巨躯が人知れず生き延びていたという話は現実的ではないし、アリエッタが制御できないほどの数の竜種を蘇生させることはない。この先もないだろうからだ。
しかし、まだ様々な疑問がある。
まず竜種が健在であった太古の時代から来ているのであれば、竜種の数が少なすぎるということ。そもそも竜種がそんな手段を有していたとしたら、千年前の現界で竜種が敗れる理由がいよいよない。世界間の移動は人類種や竜種といった生物よりも、何段か高い次元にある力であるとルカは考える。
謎が多過ぎる。仮説も立てられない。
「なんで小比賀瑠衣が狙われるんだか」
「パークの件が関係しているのかも……ルイは目立っていましたから」
「そんなことで……?」
言われて小比賀瑠衣の記憶を想起するルカだが、ラッパを吹いて翼竜を挑発したくらいで目を付けられるものか――そう、一蹴しようとして瑠衣の記憶の中におかしなものを見た。
つめたい星海に枝を伸のばす大樹。
球体が連なる幻影。
パークで小比賀瑠衣が幻視した、彼方の光景。それはルカが異界の、小比賀瑠衣の肉体に呼び出される直前に見たものと酷似していた。
無貌の神による招き。
もしこれがそうなのだとしたら、同じものを見たルカは往還者たちとは逆。現界から異界に招かれたということなのかもしれない。意識だけだとしても。
いい迷惑だ。
ルカは激怒する。
風呂で逃避的な思考に沈みかけたのは確かだとしても、ルカの心中はそれが全てだったわけではない。強さと弱さ、善と悪、誰の心にもある二面性の片面に過ぎない話で、使命から逃げ出すつもりなどルカにはなかった。
逃避は、器が足りないながらも王たらんとして必死に戦った、ルカ自身の人生の、その存在意義の完全なる否定に他ならないからだ。
安全を確認し、ルカは身を起こす。
屋上に倒れる襲撃者の男は、いかにも異形だった。出来物のような造形の頭部に目だけが雑に配置された、まるで肉をおざなりな人型に捏ねたかのような生き物だった。胴体部分に直撃した魔弾により、既に絶命しているように見えた。
それからルカは異界の射手が居ただろうビルに目を凝らすが、小比賀瑠衣の視力ではぼんやりとしか見えなかった。小さく見える非常階段の踊り場のような場所、赤い何かが染みのように微かに広がって見えるのみだった。
おそらく死んでいる。
彼らを人として捉えるのは難しいうえ、実際に手を下したのは皇女だったが、殺したのはあくまで自分だ。ルカは冷静にそう考える。
もしもミラベルがひとりであったなら、多少のリスクを負ってでも敵の無力化を選択したかもしれない。しかし、殺傷能力の高い飛び道具を持つ敵相手に、負傷した一般人を抱えた状態ではその選択はとれなかったはずだとルカは分析する。
だから、彼らを殺したのが皇女であっても、殺させたのは自分だ。
あくまで冷静に、当たり前のこととしてルカはそう考える。百や千できかない敵味方の命を費やしてきたこの王は、異界においてもその存在意義を手放さない。
そうでなければ在る意味が無いという、人の根幹。それこそが存在意義であり、そこでぶつかり合う以外になかったのなら、自然、殺し合いになるしかない。戦で死んでいった大勢の人々。ドーリア王国の兵や、皇国の兵と同じように。
「きみらにもあったのかな、そういうものが」
感傷の類ではなく、純粋な疑問としてルカは遠く見える射手の死に、そう呟いた。大いなる混沌が巻き起こりつつあるこの異界で、わずか一瞬だけ思いを巡らせたルカは、やはりすぐに頭を切り替えて踵を返す。
それらがなんだったにせよ、ルカの目的が優先される。なら顧みる必要はなく、悼む筋合いもなく、その暇も自分にはきっと許されないのだと、強く自身を戒めていたからだった。




