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43.皮肉

レイスが燃え尽きた後、しばらくすると宝箱がドロップした。


中を開けてみると「大きな釘」を発見する。


「なんだこりゃ」


そう言って持ち上げて色々な角度から見てみるが、

どこからどう見てもただでかいだけの釘だ。


「レポートにも使い道が書いてなかったんだよな」


僕の質問に淡雪は「そうです」と言って頷いた。


ふうむ、と僕は肩をすくめてから、そのアイテムを

背嚢リュックに放り込もうとカバンの口を開ける。


と、そこでスケルトンメイジのドロップアイテムである

藁人形が目に留まった。


「なるほど」と僕はひとりで勝手に納得すると、

釘を藁人形からできるだけ引き離すようにしながら

背嚢リュックの中にしまう。


よしッ、と僕は20階層ボス戦の処理を一通り終えたことを

確認すると宣言するように言った。


「死霊の洞窟の探検はこれにて終了ッ!」


その言葉は虚しくボス部屋にこだました。


だが、さすが淡雪は動じることなく、淡々と頷いた。


「冷静なご判断かと思います。なんと言いましても

 20階層以降はまだまだ未知の領域。どれほど強力な

 モンスターがいるかしれたものではありませんからね。

 アークア様のパーティーもそこで全滅したのですから、

 私たちのような低レベルパーティーは、他のグループの

 攻略情報を分析した後に、再度取り掛かるのが賢いでしょう」


彼女の言葉はそのまま僕が考えていることそのものだったので、

否定することなく「そうだな」と答える。


「じゃあ帰ろうか。本当だったらここでダンジョンクリア

 なんだがなあ。淡雪の故郷にたどり着くのはまだまだ遠そうだ」


「いいえ、お気になさらずに。貴方様の行きたいところに

 淡雪を連れて行ってください」


そんな会話をしながら、僕らは地上へと戻る青色のもやへと近づいてゆく。


だがそこで、ふと僕は気になった。


「ユエツキ姫のパーティーだが、その後どうなった。

 そろそろ25階層にたどりついた頃かな。

 もしかするとダンジョンをクリアしているかもしれない」


僕の質問に、淡雪は何でもないように返事をする。


「全滅されました」


・・・

・・


全滅されました、という淡雪の言葉に一瞬僕は、

彼女が何を言ったのか理解できずに聞き返す。


「えっと、淡雪、すまない、もう一度言ってくれないか」


その言葉に淡雪は正確にもう一度繰り返す。


「魔力音が消失しています。ユエツキ姫の部隊は全滅されました」


聞き間違いでないことを確信すると僕は驚いて思わず声を上げる。


「全滅って、あのユエツキ姫の精強な部隊がか。

 驚いたな、じゃあ姫様も死んでしまったというわけか」


僕が1階層で見た姫の顔を思い出しながら懐かしんでいると、

淡雪は、「ああ、申し訳ありません」と言ってあやった。


「正確にはユエツキ姫お一人を残して、他の者たちが

 全滅したという意味です。つまり部隊として全滅ですね。

 ユエツキ姫はまだなんとか生きていらっしゃるようですよ」


淡々という淡雪に僕は冷や汗を掻きながら、今、

聞き漏らしてはいけない内容を耳にしたと思い、

またもや彼女に聞き返す。


「ユエツキ姫がまだ”なんとか”生きている、というのは

 どういうことだ?」


その質問に淡雪は、


「20階層の待機部屋に向かって逃げて来ているようです。

 ですが追撃があり、うまく逃げきれない状況のようです。

 助けに向かいますか?」


と逆に質問で返してくる。


「そうか、いやだが20階層以降は未知の領域だから

 行くのは避けたい。よほど近くにいるのならともかくな」


だがその言葉に、


「21階層にいらっしゃいます」


「なに?」


「すぐ近くにいらっしゃるようです。ここまでたどり着けるかどうかの

 瀬戸際といったところでしょうか」


しかしな、と僕は重ねて主張する。


「あの剣技を持つユエツキ姫が遅れを取るモンスターとなると、

 やはり僕たちが行っても返り討ちの可能性もある。

 やはり行くのはやめるべきだろう」


「いえ、襲いかかっているのは人間のようですよ」


何だと、と驚く僕に淡雪は解説する。


「人間とモンスターには魔力音のパターンが大きく違うのですが、

 姫を襲っているのはモンスターにはないパターンです」


「なら、よほど強い人間ということだろう。やはり避けるべき・・」


「いえ、それはよく分からないのですが、移動速度を見ると

 大した速さではありません。おそらくユエツキ姫は負傷されており

 思うように逃げられない状況なのではないでしょうか」


そうした彼女の推察を聞いて僕はおおいに悩む。


リスクは基本的に取るべきではない。だが今回は微妙である。


取っても大したことがなさそうなリスクだ。

それで人の命が救える。


自分に損失がない場合、人は積極的に隣人を助けるべきではある。


僕は最後の確認として口を開いた。


「周りにモンスターは他にいるか」


「もちろんおります。ですが、いつも通り場所は完全に把握できますので

 避けて行動することは可能ですね」


その言葉に僕はしぶしぶ判断を行う。


「それじゃあ行こう。基本的に僕たちは善人なわけだしな」


「はい、大丈夫だと思います。これくらいの冒険でしたら、

 盗賊団を単身で壊滅させた貴方様の行動を踏まえれば、

 取るに足らないリスクかと思います」


彼女の言葉が皮肉なのかわからず、僕は苦笑いを浮かべつつ、

赤い靄へと向かうのだった。



……こんな風にして、その後も僕たちの冒険は果てしなく続いた。

その物語を書き記していたメモを、僕は優し気に撫でたのだった。

(終わり)

新作始めました。ぜひ見てください。


充電式勇者。サボればサボるほど俺TUEEEE

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