表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/43

41.飛躍

レイス戦の続きです。

「ゴーストにも罠はくよ。君も知っているはずだ」


僕の言葉に、しかし淡雪は、はて、とった風に、

ぎこちなく首を傾げた。


「いえ、そうでしょうか。現にご覧頂いている通り、

 レイスに対しても罠は発動していないようですが」


なるほど、そういう事か。


どうやら僕の言っている内容がうまく伝わって

いなかったようだ。


サラリーマンをやっていた時にも優秀な上司から、

「お前の話は飛躍しすぎで分かりづらい」、

とよく注意を受けたものだ。


「すまない、もう少し丁寧に説明するべきだったな。

 レイスに対してもそうだが、

 罠は『いていないわけじゃない』。

 ただ『発動していないだけ』だ。

 ギミックが作動さえすれば効果はある。

 淡雪もゴーストとの戦いの時、見ていただろう」


そう言うと、彼女は朱い眼でこちらをじっと見た。


「ゴーストにも罠はいていた、ですか。

 なるほど、やっと思い至ることが出来ました。

 地下13階層で貴方様が起こした落石の時ですね」


その通り、と頷く。


あの時、僕はゴーストに対して、

本当に飛び道具がかないのかを確かめるために、

必中の矢を放ったのだ。


もちろん結果は失敗であった。


「必中」という名をかんした弓矢であっても、

やはり物理攻撃を一切受け付けないゴーストには、

命中させることは出来なかったのである。


けれども実は、同じタイミングで

まったく別の重要な出来事が発生していた。


それは、外れた矢がたまたまあった罠に命中し、

落石のトラップが発動するというアクシデントである。


あの時、ゴーストがある不思議な行動を取っていたのだ。


「直接命中することはありませんでした。

 ただ、不思議なことに、

 なぜか落石によってできた瓦礫の山に、

 敵が足止めをされていたのです。

 ですが考えてみれば当然でございましたね。

 あれら岩石は「魔力でできた」物質でございます。

 実際、魔力音も検知されておりましたし、

 何よりも時間が経てば自然に消えてしまいました」


そう、この事から一つの結論が浮かび上がってくる。

それはつまり、


「罠が発動した後に作動するギミックもまた、

 魔力によって作られている」


ということである。


ゴースト系モンスターには確かに物理攻撃は効かない。


だが、大地の書などの魔力による攻撃ならば効果がある。


だとすれば、罠が発動さえすれば、

ゴーストなどのモンスターにダメージを

与えることができるのだ。


ですが、と淡雪は質問を口にする。


「罠の発動は偶然の可能性がありませんか。

 13階では必中の矢がゴーストに当たらず、

 たまたま罠の設置箇所に接触したため作動しましたが、

 ボスフロアの罠を狙って動かせるものでしょうか」


ああ、そんなことか。それならば、


「覚えていないかな。スケルトンキングと

 戦った後のことを」


そう言うと、淡雪は軽く相槌あいづちを打った。


「そういう事ですか。13階層の結果だけでは、

 たしかに根拠が薄いですが、10階層のことを

 思い返せば、なるほど、間違いございませんね」


なぜなら、と彼女は続ける。


「貴方様はボスフロアのトラばさみに向かって、

 その必中の矢を試射されておられましたから」


そう、僕はスケルトンキングと戦った後、

必中の矢の効果を試すために試射しているのである。


そのとき、まととして罠を狙ったのだ。


もちろん、必中、という効果を試験する目的もあったが、

あの時、本当に検証しようと考えていたのは、

トラップに矢を命中させたときに、

その罠が作動するかどうか、なのだった。


そして、期待通りギミックは稼働したわけだ。


10階層のボスフロアの罠が作動するのならば、

当然、この部屋のものだって動くだろう。


「無理やり稼働させたトラップに効果があるのかも、

 その際に検証済みでございますね」


さすがオートマターはよく覚えている。


13階層のゴーストだけでは足止めをしただけで、

実際に罠の効力が検証できたかは不鮮明であるが、

10階層であれば、


「罠の近くに倒れていた盗賊の死体に

 弓で発動させたトラばさみが噛みついたからな。

 効果がある証拠だ」


そこまで話し終えると、

淡雪が左の指輪をいじりながら尋ねて来た。


「それらの検証は。つまり1階層からしばしば

 行われていた様々な実験とは、

 全部この時のためにやっていたというのですか」


もちろんそうだよ、と僕は返答する。


「例えば、地下2階層で、仕掛け弓が割合ダメージで

 あるということが分かってから、

 わざわざ執念深く、地下14階層でオークキングを使って、

 何パーセントかを確かめた理由はなんだと思う。

 ただの好奇心だとするならば、

 あまりにもパラノイアが過ぎるだろう」


すべてはこのレイスとの戦いのためなのですね、

と呟く人形に僕は頷く。


「そうだよ。このフロアの罠を使うとしても、

 何パーセントのダメージか分からなければ、

 ボス戦なのに残り体力の計算ができなくて不安だろう。

 25%切り上げ、ということがわかっているから、

 今回はかなり楽だぞ」


そう答えてからふと、このダンジョンを攻略する中で

しばしば脳裏のうりかすめる思いを口にした。


「おそらくだが、このダンジョンには、

 たとえ弱くてもちゃんとクリアができるように、

 色々なアイテムやギミックが配置されているんだ。

 必中の矢もそのうちの一つだろう。

 けれどもきっと、更に沢山の仕掛けが、

 本当は張り巡らされている、という気がする。

 僕らの攻略方法は多分、

 その用意された手段の一面に過ぎない。

 もっと他の攻略法が眠っているように思うんだ」


僕はそう呟きながら、

スケルトンメイジが落としたドロップアイテム

「藁人形」のことを思いだしていたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ