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40.作戦

前の話の続きです。

僕は随分と重くなった背嚢リュックから

必中の矢を取り出すと淡雪に声をかけた。


「よし、今から作戦を開始するぞ。

 このフロアの罠の種類や場所は全て覚えているな」


その確認に機械人形はすんなりと答える。


「もちろんでございます。

 また当然ですが罠の場所につきましては、

 魔力音によってリアルタイムで把握できております」


了解だ、と僕は満足して頷いた。


だが、何事なにごとも油断してならない。

いや、自分の場合は特別、心配症なだけか。


「ただし、もしも僕の作戦が駄目そうだったら

 すかさずフォローしてくれ。

 けっして、僕なら失敗なんてしないだろう、

 などと言う誤った認識は持たないように」


そう自分の不甲斐ふがいなさを考慮に入れることを忘れない。


けれども彼女は、果たして分かっているのか、いないのか、

「はい、お任せください。貴方様のご活躍を

特等席で拝見させて頂きます」、などと口にしている。


思わず肩をすくめながら、


「僕のことをいささか贔屓目ひいきめに見るというのが、

 君の唯一の欠点だな」


そう正直な心情を吐露とろするのだが、

淡雪は丸で僕の言葉が一切聞こえていない様に聞き流すと、

言葉を続けた。


「待機部屋で貴方様に秘策があると聞かされてから、

 本当に楽しみにしておりました。

 相手がレイスだからこそ思いついたと

 おっしゃっていましたが、

 一体どのような作戦なのでしょう。

 私ごときには想像もつきません。

 先ほどは貴方様の指示通り、

 レイスがゴースト系のモンスターなのかを確認しましたが、

 それも作戦の一環なのでしょうか」


冷えた鉄のような声音こわねだというのに、

どこか興奮を感じさせる口ぶりである。


「それに致しましても、

 一体いつからレイスを倒すための作戦を

 練り始めていらっしゃったのでしょうか。

 やはり、10階層のスケルトンキングを

 倒したあたりからですか」


その質問であれば特に記憶をたどる必要もない。


僕はあっさりと答えた。


「1階層だよ」


機械人形であるはずの淡雪が

まるで人間がするように、

一瞬、口を開いたまま静止したのが分かった。


いや、それほど驚くほどの事じゃないだろう。


「覚えていないかな。

 地下1階層でモンスターが罠にかかった時、

 僕がとても驚いていたことを」


だが、その質問に淡雪が反応する前に、

レイスが再び近づいてきたようだ。


ボスを前に動きを止めている様な間抜けを

僕の優秀なオートマターが演じるわけもない。


レイスの鋭い死の鎌を、

僕と言うお荷物を抱えながらも危なげなくかわすと、

一旦、奴から大きく距離を取った。


そして先ほどの僕の回答に対して言葉を返してくる。


「ええ、はい。確かにそんな事がございました。

 オークが仕掛け弓にかかった時のことですよね」


そうそう、と僕は頷きながら、


「つまり、その時だよ」、と言う。


しかし、僕の説明がどうも悪いようで、

淡雪は無表情のまま首をかしげてしまった。


「すまない、そんなに一生懸命、

 考えてもらう様な事じゃないんだ。

 雑魚モンスターが罠に引っかかった時、

 僕はただこう思ったんだ。

 

『ボスにも罠がきかないかな』


 ってね。もちろん、その時点で20階層まで

 辿り着けるかどうか、確証があったわけじゃない。

 むしろ、10階層待機部屋で引き返す可能性も

 大いにあったんだ」


ですが、と彼女は口を開く。


「ボスフロアに罠があるとは限らないのではないですか」


いやいや、と僕はかぶりを振る。


「いちおうレポートには全ページ、目を通したからな。

 もちろん、すべての内容を記憶しているわけじゃない。

 と言うか、知っての通り、もの覚えは悪い方だ。

 罠の場所や種類といった詳細については、

 とても思い出すことなんて出来なかった。 

 けれども、『ボスフロアには罠がある』なんていう、

 あまりにも鬼畜な情報については、

 インパクトがありすぎてよく覚えていたんだよ」


特にレイスのフロアについては、と続けた。


「レポートで奴のフロアを見た時、

 余りにも罠がたくさんありすぎだろう、とぼやいたもんだ。

 その時は、単にろくでもないボス部屋だな、

 と、ただげんなりとするだけだったけれどな。

 だが、1階層でモンスターが罠にかかるのを見て、

 もしかしたら使えるかも、と思ったんだ」


確証はまったくなかったがな、と言う僕に、

しかし、と淡雪は首を傾げたまま言った。


「ボスと雑魚モンスターでは

 また効果が違う可能性もありませんか。

 つまり、雑魚に罠が効いたとしても、

 スケルトンキングやレイスに、

 実際に罠が作用するのかどうかについては、

 レポートにも記載なかったはずで、あっ」


そこまで言って気付いたのか、彼女は声を上げる。


そう、淡雪の言う通りレポートに情報はなかったのだ。


だが、丸で誰かが意図したがごとく、

地下10階層、スケルトンキングのフロアには、

トラばさみの罠が1つだけ設置されていたのである。


あたかも、「ボスに罠が効くかどうか検証せよ」

とでも言うかのように。


まあ、それはもちろん、僕の考えすぎなのだろうが、

いずれにしても、僕はそこで、

罠がボスに作用するのかどうかを確認するつもりであった。


幸いながら、トラップに誘導する必要もなく、

敵自ら引っかかってくれたおかげで、

検証は簡単に終了したのであるが。


「ですが、ゴーストには罠がききません。

 そのことは地下13階層で初めて戦った時、

 敵がトラップの上を素通りしていたことから

 明らかなはずです」


今度は僕の方が首を傾げた。


「淡雪、君は重大な勘違いをしているぞ」


その言葉に機械人形は、え、と声を上げる。


僕が彼女にそう言った理由は簡単だ。なぜならば、


「ゴーストに罠は効くよ。君もよく知っているはずだ」

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