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39.必殺

前の話の続きです。

雑魚ざこモンスターと戦う意味がなくなった僕は

淡雪とともに地下16階層から20階層の

待機部屋まで一気に移動した。


もちろん、淡雪の察知する魔力音を頼りに、

敵との遭遇を避けながらだ。


そして、待機部屋で準備もそこそこに済ますと、

この階層のボス、ゴースト系モンスターの

上位種であるレイスに挑むため、

赤いもやくぐったのである。


そうして僕たちはついに決戦のフロアへとたどり着く。


ワープした先は、スケルトンキングがいたのと同様の

20㎡ほどの大部屋であった。


だが、肝心のボス、レイスの姿が一向に見えない。


僕が間抜まぬけにもキョロキョロとしていると、

彼女が目の前を指さした。


「貴方様、真正面の一番奥におりますよ。

 ああ、今、動き出しました」


ゴーストのときもそうであったが、

レイスもまったく気配を感じさせない。


それでいて攻撃力やスピードは段違いに高いのだから、

恐ろしい相手であった。


もし淡雪がいなければ、

このまま知らないうちに近づかれ、

命を絶たれて終わりであっただろう。


さすが20階層ボスだけあって、

まごう事なき強敵なのである。


そんな緊張感に負けてか、

僕が特に考えもなく一歩を踏み出そうとすると、

淡雪に、ぐい、と強く腕を掴まれてしまった。


「不用意に動かれては危険です。

 レポートに記載されていたとおり、

 このフロアには多くの罠が配置されているのです。

 それこそ、仕掛け弓やトラバサミ、

 催眠ガスに落石など、枚挙まいきょいとまがありません」


だが、このままではらちがあかないことも確かだろう。


「馬鹿みたいに棒立ちしていは、

 レイスの攻撃に良い様にやられてしまうぞ」


などと何ら解決にもつながらない意見を口に出すが、

彼女はただかぶりを振って、

「そう言われましても」と呟くのみであった。


だが、そんなことを言っている間にも

恐るべき死霊はこちらに迫ってきていたのである。


「貴方様、失礼いたします」


と突然、機械人形が僕を抱きかかえたのだ。


いきなりのことに目を白黒させるが、

さっきまで僕がいた場所を、

レイスの得物である、

巨大な死神の鎌が通り過ぎのが見えた。


どうやら、ゴーストと同じで、

攻撃をする時だけ一瞬、姿を現すようだ。


その造形はまさしく死神そのものであり、

ボロボロの黒衣を翻し、骸骨の容貌ようぼうさらす、

呪われた死霊であった。


だが、そんなおぞましい容姿ようし

攻撃が終わった瞬間、まるで悪夢のごとく、

空間に溶け込み消失する。


そうしてやはり一切の気配が感じられないのだから、

先ほどまさに生死の狭間にいたという事実に

まるで現実感を持てないのであった。


「こうして姿を隠されて、気配すらないんじゃ、

 とても僕では正確な場所を把握する事は出来ないな」


ふところから開放された僕が語る

諦観ていかんに満ちた台詞セリフに、

いつもフォローしてくれる機械人形すらも

返す言葉がないようで、

一瞬口をつぐんだあと別の話題を口にする。


「あの、貴方様、まだ試していないこともあります。

 そうですね、ゴーストとは違い、

 私のナイフ攻撃に効果があるかもしれません。

 試してみても良いでしょうか」


僕は名案だというふうに勢いよく頷いた。


「そうだな。このままではやられてしまう。

 出来ることなら何でも試してみよう」


そんな可能性の薄いチャレンジにすら

期待を投げかけている間にも

レイスが再び近づいて来ていると注意が

淡雪から飛んだ。


だが、今度は淡雪が狙われた様で、

その攻撃を彼女は紙一重でかわしながら、

手に持ったナイフで一瞬だけ現れたレイスを

切り刻まんと振りかざした。


だが、哀れにも凶刃きょうじんは空を切るばかりであり、


手応てごたえがありませんっ」


という切迫した事実を伝えるのみであった。


「くそ、やはりゴースト系の的には物理攻撃が

 かないのか。淡雪、投擲はどうだ」


僕はどんどん選択肢を狭められ、

追い詰められるかのごとく、

ほとんど可能性がないと思われる投擲にすら

可能性を期待して人形に実行を指示する。


「承知しました。試してみましょう。

 ですが、ものすごい早さで移動しております。

 これはやはり、レポートにもありましたとおり、

 5秒も発動に時間を要する『大地の書』では

 攻撃を当てることはきわめて難しいでしょう。

 相手が止まっていれば話は違うのですが」


「そんなことはわかっている」

と僕が答えると、淡雪は何も言わずに、

レイスがいると思われる方向にナイフを投げ放つ。


だが、残念ながら予想通り、

凄まじい勢いで飛翔した凶器は空を切るばかりで、

反対側にある壁に深々と突き刺さったのみであった。


「淡雪の必殺の一撃でも無理だとは恐ろしい」


僕は生唾を飲み込むと、

改めてレイスというボスモンスターの

驚くべきステータスに思いをせる。


「手持ちの手段だけではやりようがないな」


その呟きに、そうですね、と彼女が頷きながら口を開く。


「ゴースト系モンスターとの戦闘において

 松明による攻撃も定石じょうせきです。

 試してみましょうか」


いや、と僕は嘆息しながらかぶりを振る。


「それはもう、無駄だろう」


はい、と淡雪も同意する。


「そうですね。もう十分でしょう。

 地下20階層ボスのレイスはどう見ましても」


ああ、と僕はほっとしながら肩の力を抜いた。


「そうだな。どこをどう見ても、

 ゴーストと同様の性質を有した、

 ちょっとばかり力と素早さが高いだけの

 ただの雑魚だ」


その言葉に機械人形も、


「はい、貴方様の計算通り、というやつでございますね」


と指輪をいじりながら、

心なしか嬉しそうに応じたのである。

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