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36/43

36.情報

前の話からの続きです。

先ほどとは別のオークキングと

同じ様な戦闘をもう2回繰り返した後、

僕たちは休憩を取ることとした。


周囲にモンスターがいない事を確認してから、

地面に腰を下ろす。


そして先ほどからの戦闘で得られた検証結果について

意見交換を始めた。


まず淡雪が、当たり前のことですが、

と言って口火を切る。


「防御力が一致するモンスター相手であれば、

 同じ攻撃手段で同様のダメージを与える事が出来ます。

 火炎弾であれば12のダメージと言う事ですね。

 この事実を利用して、貴方様は、仕掛け弓のダメージ割合が

 何パーセントなのか探ることを考えていらっしゃった。

 つまり、25%切り上げのときには生存し、

 30%以上のときには死亡する、

 という条件を満たすモンスターを探していらっしゃったのです。

 そして、それがオークキングだったという訳ですね」


僕は軽く頷いて、話の続きを語る。


「奴のステータスについては、

 地下2階層で君が教えてくれた様に、


『体力だけが倍になった程度で、

 他のステータスはオークのままという、

 さほど強くないモンスター』


 ということだった。これはつまり、

 オークのステータスが、

 体力17、魔力1、力12、防御10、早さ8、

 だったのに対して、オークキングのステータスが、

 体力34、魔力1、力12、防御10、早さ8、

 ということを意味する。さて」


一度水を飲んでから改めて口を開く。


「実はこれがおもしろい計算結果を生む。

 25%切り上げダメージの場合、

 仕掛け弓の罠に3回引っ掛けると、

 残り体力が13になる。

 一方で、30%以上のダメージのとき、

 そう、例えば30%切り捨てだとすると、

 3回罠ダメージを与えれば、

 残り体力がは12になる。

 もちろん、30%以上のどんなケースであっても、

 残り体力は12以下になるんだ」


つまり、先ほどオークキングを3度、

罠にめた理由とは、


「残り体力が13なのか12なのか、を確認するためだ。

 もしその後の火炎弾で倒れてしまうようなら、

 仕掛け弓の罠は30%以上のダメージ割合ということになる。

 そして、もしも生存するようであれば、

 それは、25%切り上げ、ということになるんだ」


そして正解はオークキングが生存していたのだから後者。


残り体力に対して25%、小数点切り上げ分の

ダメージを与える、という事であった。


淡雪は深く頷いて、


「あの時点でそこまでお考えになられていたとは、

 思いもよりませんでした。

 よくそんなことに気付かれましたね」


そんな風にめてくれる。


だが、そんなに大したものではないのだ。


「まあ、たまたまだがな。モンスターと戦う上で、

 ある程度、正確なダメージ計算が出来るに越したことはない。

 だから、うまく検証できるモンスターがいないかと、

 オークでの実験の後、すぐ気になった。

 すると、11階層以降にオークキングと言う、

 何ともおあつらえ向きのモンスターがいた、

 というだけだ。なんと防御力はオークと同じで、

 ちょうど火炎弾で検証が可能な体力値だったんだからな」


なるほど、と彼女は左手の指輪をいじりながら呟いた。


「そして火炎弾を3つ残されたのは、

 おっしゃっていた通り、

 1回の検証では信頼性が低いから、ですね」


僕がその質問に頷くと、

淡雪は改めて賞賛の言葉を投げかけてくれる。


だが、ふと妙な感覚が脳裏をかすめたので、

僕はそれまでの能弁のうべんが嘘だったかの様に押し黙った。


その事に気付いたのか、彼女が心配して、

どうかされましたか、と聞いて来る。


僕はかぶりを振りつつも、


「いや、違和感を感じてな。さっき言っただろう。

 おあつらえ向きなモンスターが偶然いた、と。

 そんなことがあり得るんだろうか。

 何だかうまく行き過ぎているように思えるんだ」


その言葉に、淡雪は真紅の瞳をこちらに向けた。


「それは、火炎弾でちょうど検証が出来ることに

 対してですか」


彼女の質問に僕は息を飲む。


そうだ、果たして僕の違和感は、

その事だけであったろうか、何かもっと他にも。


だが、思考の海へと埋没する前に、

淡雪の声が耳朶じだを打ち、

僕は我に返ることになった。


「貴方様、スケルトンがこちらへと

 近づいて来るようです。

 3分ほどで接敵せってきいたします」


僕は急いで戦闘準備を開始する。


だが、武器を取り出している間にも、

ぬぐえない違和感が絶えず胸中に張り付いていた。


「あまりにもピースが上手くそろい過ぎじゃないのか。

 そもそも『奴』を倒させるような配置に思える。

 ボスフロア、罠、松明、大地の書、ダメージ割合、

 本当にすべて偶然の産物なのか。

 何だかまるで誰かの遊びに付き合わされている様な気分だ。

 もちろん、僕の勘違いに過ぎないんだろうが」


そんな内心の呟きは誰に聞かれる事もなく、

ひっそりと心理の底へと沈んで行ったのである。


・・・

・・


スケルトンを危なげなく倒した僕たちは、

地下15階層への階段へ向かいつつ意見交換を行っていた。


「次のフロアに行かれて本当によろしいですか」


そんな淡雪の質問に軽く頷く。


もちろん彼女は僕の真意を理解しようと、

言葉を重ねてくる。


「貴方様が以前にも申されました通り、

 地下20階層以降の攻略は難しく、

 そこで撤退ということは承知しております。

 ですが、15階以降についても、

 本当に戦う、ということで宜しいのですね。

 私はてっきり15階層から19階層までは、

 モンスターたちを無視し、

 20階層の待機部屋から転移装置を使い、

 撤退するものかと思っておりました」


なるほど、彼女の指摘はもっともである。


「なぜならば、敵のステータス情報が

 レポートにはないから、だな。

 奴らの戦力がどの程度か分からない状態で挑むのは

 避けた方が良いという事だろう。

 確かに、次の階層以降に出現するモンスターたちは、

 最近になって何らかの理由で現れた、

 従来とは異なる新しい種類の化け物たちだ。

 さすがの黒炎団もこの短期間のうちに、

 それら新規モンスターたちの詳細情報を

 レポートに加筆する時間はなかったらしい」


その通りです、と淡雪は同意する。


だが、僕は異なった観点からの事実を述べる。


「正しい意見だと思う。だが、見落としもあるぞ。

 地下10階層のスケルトンキングとの戦い。

 盗賊たちを囮にしたとはいえ、

 ほとんど苦労せずに勝利する事が出来た。

 奴はCクラスボス、だったわけだから、

 僕たちはそのレベルのモンスターであれば

 討伐することが可能、と考えることが出来るだろう。

 もちろん、楽観や油断をして良いという訳ではないが」


彼女はやや首を傾げながらも、

確かにそういう見方もございますね、と呟いた。


「アークア様の言葉を繰り返せば、


『その上位種のゴーストナイトがいた。

 戦ったことのないやつもいるだろうが、

 Cクラスのモンスターだ。そんな奴らがうろうろしてる。

 魔法を使うスケルトンメイジに、

 素早く動くゾンビファイターにも出会った』


 との事でしたから、Cクラスのスケルトンキングを

 撃退した私たちに倒せない道理はないでしょう」


無論、敵に関する詳細情報がないという事実は

重く受け止めるべきでしょうが、と続けた。

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