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35/43

35.賞賛

僕らを追跡ついせきしてくるオークキングが

2つ目、そして3つ目の仕掛け弓の罠に

まんまと引っ掛かったのを見て、淡雪に声を掛ける。


「よし、それじゃあ火炎弾の出番だ。

 できれば狙いやすい状態にしたい。

 催眠ガスの罠の場所まで連れて行ってくれるか」


そう言うと、こちらです、と彼女が僕の手を引いて、

案内をしてくれる。


もちろん、他のモンスターや罠を避けながらだ。


移動している最中、淡雪が口を開いた。


「貴方様、今回の実験について、

 私の考えがあっているのか

 確認させて頂いても宜しいですか」


構わない、と告げると彼女は礼を言って話し始めた。


「まず、地下2階層でオークを使った、

 仕掛け弓と火炎弾による検証において

 その罠が割合ダメージだ、という事が分かりました。

 そして、具体的な数値については、

 余り細かい計算をしても意味がございませんので、

 仮に5%きざみで考えるものとした場合、

 少なくとも残り体力の25%切り上げ、

 ないしは30%以上だろう、

 という所までは判明したのです」


僕が頷くのを見て、人形は言葉を続ける。


「ただ一方で、実際に何パーセントなのか、

 という部分の確認はできておりませんでした。

 なぜならば、25%切り上げなのか、

 それとも30%以上なのか、という実験をする環境が、

 低階層では整っていなかったからです」


そうだな、と僕は頷く。


「おさらいをすれば、ゴブリンとオークの体力は、

 それぞれ12、17で、防御力は同じ10だった。

 だから火炎弾による攻撃は、

 どちらにも同じだけのダメージを与えるだろう、

 という風に仮定することが出来たわけだ。

 そして、火炎弾はゴブリンをぎりぎり一撃で

 ほふることができる攻撃アイテムだから、

 オークに与えるダメージは、

 ゴブリンの体力と同様の12だろう、と推察できた」


「はい。そうした仮定に基づき、

 仕掛け弓と火炎弾の組み合わせで

 貴方様は検証を実施された。

 その結果、仕掛け弓でダメージを与えてから

 火炎弾を当てた場合は倒せるのに、

 反対に火炎弾を当ててから罠を矢を射かけた時は

 生存することが分かった」


彼女は僕の反応をうかがいつつ、


「火炎弾のダメージは一定でしょうから、

 どうやら仕掛け弓の罠とは、

 残り体力に依存する割合ダメージである、

 という事が推定されました。

 また、罠に掛かった後に火炎弾を当てるとオークは死亡します。

 火炎弾のダメージは12なわけですから、 

 ノーダメージの体力17のオークに、

 仕掛け弓の罠は少なくとも5ダメージを

 与えているという事になります」


だから、と淡雪は検証の結果をまとめる。


「30%以上、と計算できるわけです。

 ですが、ご聡明そうめいな貴方様におかれましては、

 場合によっては25%小数点切り上げもありうる、

 とご賢察けんさつをされたのです」


これらの数字はあくまで5%刻みで考えた場合のものであり、

完全に正確な値ではない。


だがまあ、あまりに詳細な割合を算出しても

意味はあるまい。


何よりも、僕の頭ではこれくらいの計算が限界なのである。


「あの段階では、それ以上の特定は不可能でございました。

 なぜならば、他に検証ができるようなモンスターが

 他にいなかったからですね。

 貴方様はこう考えていらっしゃったはずです。

 防御力が同じで、更に体力の高い敵が必要だと」


僕は頷きつつも補足した。


「君の言う通りだ。しかし、それだけでは駄目だ」


すると彼女は、承知しております、と答える。


「罠ダメージを加算していった時に、

 25%切り上げなのか、それとも30%以上なのか、

 明確にどちらかを区別出来る様な、

 そんなステータスの敵でなくてはいけない」


そのとおりである。そして、そのキーになるのが、


「またしても火炎弾、というわけですか」


移動しながらそうした会話を繰り広げている間に、

ちょうど僕たちを追跡して来たオークキングが、

催眠ガスの罠に引っかかり、いびきをかき始めた。


僕はすぐさまきびすを返すと、

取り出した火炎弾を奴に向かって投擲とうてきする。


轟音が鳴り響き、先ほどまで敵のいた場所に、

爆炎が渦巻いた。


そしてもうもうと立ち上る煙がしばらくして晴れると、

そこには豚の化け物が、

冷たい洞窟の地面に倒れ伏していたのである。


さて、うまく行っただろうか。


僕は結果を確かめるためにモンスターの元へと駆け寄る。


そして焼けこげたオークキングのすぐそばにまで近づいた、

その刹那せつなであった。


何と突如としてモンスターが起き上がり、

僕の方へその凶悪なかいなを振りかざして来たのである。


この世界に来た時に比べて多少マシになったとはいえ、

今でもほぼ一般人と変わらない強さの僕だ。


もし、オークキングの攻撃をまともに喰らえば、

死をまぬがれられる保証は一つもない。


そんな、あと少しで僕の命が絶たれようとする寸前、

それは起こった。


そう、予定通り、信頼するオートマターの

鋭いナイフによる一閃いっせん

敵の首を軽々と跳ね飛ばしたのである。


僕は大きく嘆息しつつ、

胴体だけになって地面に再度、倒れ伏した

敵の亡骸なきがらを見つめた。


そして先ほど急に起き上がり、

僕に攻撃して来た時の様子を克明こくめいに思い出しながら、


「よくぞ生きていてくれた。

 もしも死んでしまっていたら正確な数字は

 永久に分からなかっただろう。

 おかげでやっと計算が完了した」


そう心からお礼を言ったのである。

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