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34/43

34.親玉

日間27位ありがとうございました。

これも読者様たちのおかげです!

本当にありがとうございました!!

「ゴーストが今の罠の発動によって動きを止めました。

 積み上がった岩石に足止めされているようですね。

 ただ、トラップによって積み上がった瓦礫がれき

 しばらくすると消えてしまうそうですから、

 今のうちに距離を取りましょう」


その淡雪の言葉に、僕は呆気に取られつつ、


「もしかすれば、とは思っていたが、

 まさか本当に全てのピースがそろう可能性があるのか。

 だが余りにもうまく行きすぎだろう。

 丸で、さも誰かが意図したかのようじゃないか」


そう思わず呟いたのだった。


すると彼女はそんな僕の様子に気付き、

心配して声を掛けて来てくれる。


だが、僕はかぶりを振って、何でもない、と答えた。


そして気を取り直し、

背嚢リュックから予備の松明たいまつを取り出したのである。


「松明に火を付ける余裕が出来た。

 逃げる理由がなくなったな。ここで迎撃するぞ」


その言葉に彼女は戸惑う事もなくぐにうなずくと、

たちまち臨戦態勢へ移行する。


そうして1分ほど待機していると、

通路をふさぐほどうずたかくなっていた瓦礫が

嘘のように消え失せた。


「本当になくなってしまった。

 どう見ても石だったのに、実際は魔力の塊という事か」


「はい、私の方でも魔力音を検知しておりましたから

 間違いございません。

 それよりも貴方様、足止めを食らっていたゴーストが

 こちらへと近づきつつあります」


注意して下さい、と警戒を促す人形へ僕は首を縦に振る。


だが、やはり姿は見えない。


それどころか、物音ひとつ聞こえず、

気配すら察せられないのだから、

本当に恐るべきモンスターと言うべきだろう。


だが、僕とて既に2度、苦汁を味わった身である。


淡雪が伝えてくれるゴーストの所在を参考に、

今度こそ襲い掛かって来るゴーストの攻撃を

紙一重で避けることが出来た。


そして、通り過ぎようとする相手に向かい、

勢いよく松明を振りかざす。


次の瞬間、モンスターの口から呪詛じゅそとしか言いようのない

おぞましい絶叫が上がった。


そう、火の部分がうまくゴーストに触れたのだ。


敵はたちまちの内に炎を全身に巡らせると、

怨嗟えんさの声を上げながら、

その体を焼失させて行ったのである。


・・・

・・


「たかだかゴーストにこれほど苦戦しているようでは

 やはり厳しそうだな」


僕は戦いの最初の方で落としてしまった松明たいまつを回収しつつ、

今の戦闘を回想していた。


「地下20階層ボスである、

 レイスの事を考えていらっしゃるのですね」


察しの良いオートマターが、

ゴーストのドロップアイテム「美しい手鏡」

を拾いながら返答する。


「そうだ。ゴーストの極めて上位の存在でBランクボス。

 やはり姿は見えず、物理攻撃が一切効かない。

 その上、この階層のゴーストとは比べ物にならないくらい

 素早く動くために、松明でとらえることは困難らしい」


淡雪は同意しつつ、それだけではありません、と続ける。


「何よりもステータスがこれまでのどの敵よりも凶悪です。

 レポートには、体力150、魔力50、力35、

 防御20、早さ16、とあります。

 これはスケルトンキングを容易にしのぐ数値です」


僕は眉根を寄せて軽く嘆息した。


「ボスフロアも罠だらけと来ている。

 スケルトンキングのフロアはトラばさみ一つだけだったが、

 レイスの方は、仕掛け弓、落石、トラばさみと多種多様だ。

 何よりも悪辣あくらつなのは、さっき経験した通り、

 浮いているゴースト系モンスターには、

 罠を踏まない事からギミックが作動しない、ということだな。

 引っ掛かるのは冒険者ばかりなり、という有様ありさまらしい」 


したがって、普通ならば魔法やそれに準じた攻撃に

頼らざるを得ないのだが、


「残念ながら僕も淡雪も魔法を使うことはできない。

 ならばゾンビの落とす大地の書を沢山集めればいいだろうか」


いいえ、と彼女が美しい髪を揺らす。


「レポートによれば確かに正攻法の一つのようですが、

 幾つもの難点がある、と記載されています。

 大地の書の使用には、発動を念じてから

 5秒ものタイムラグがあるようなのです。

 その間に当然ながら敵はかなりの速度で移動致します。

 効果の範囲もかなり限定的なようで、

 魔力音により所在をつかめる私でも、

 その攻撃を命中させることは難しいでしょう」


たった5回命中させれば良い、とのことなのですが、

と機械人形は続けた。


ううん、と僕はうなりつつ、


「高価な魔導書の正体は安易な方法への誘導か。

 偶然かそれとも」


そんな事をひとちていると、

淡雪が、どうかされましたか、と尋ねてくる。


「いや何でもない。しかし、なるほど。

 だとすれば大地の書の1回の攻撃力は30ということか」


「おっしゃる通りです。それで、どう致しましょう。

 やはり、大地の書を収集されるのでしょうか。

 現在もゾンビを幾らか狩ったおかげで、

 3つ所持はしておりますが」


その問いかけに僕は「1つ。いや、予備も考えて2つなのか」

などと、まとまらない考えをぶつぶつと口にしてから、

別の質問を投げかけてみる。


「ちなみにだが、魔力音が聴ける淡雪なら、

 松明を当てることも簡単だと思うが、

 その場合、何回攻撃することになる」


「レポートによれば、松明の攻撃だと30回、

 つまり1回5ダメージ、とのことですね」


ふうむ、この有能な人形であれば、

やってやれなくも無い数字なのかもしれないが、

そうしたリスクのある戦術を

僕が選択することはあり得なかった。


「非現実的だな。松明だけで倒す事は無理そうだ。

 それに大地の書を何度も命中させるのも、

 効率が悪すぎる」


そう言って大きな溜め息を吐くと、

彼女が冷えた鉄の様な声で問うてきた。


「それはダンジョンの攻略は20階層まででギブアップ、

 ということでしょうか」


その端的な質問に僕はゆっくりと頷きつつ、


「やむを得ないだろうな」


と残念そうに答えたのである。


・・・

・・


「まあ、いずれにしても行ける所までは行くとしよう。

 出会ってないモンスターとも戦ってみたいんだ。

 まだスケルトンとオークキングがいたと思うが、

 前者については親玉と戦ったからもういいだろう。

 オークキングを倒す事にする」


人形は冷えた眼差まなざしをこちらへと向ける。


「単独行動する者が14階層に何組かいるようです。

 ですがお気を付け下さい。

 罠が大変多いフロアになっております」


僕は彼女の言葉に思わずにやりと笑う。


そして、取り出したレポートを眺めつつ、

地下14階層へ続く階段の場所へと足を進めた。


その途中でユエツキ姫の動向を確認する。


「現在、すでに18階層におられます。

 このペースでしたら、

 すぐに20階層へ辿たどり着かれるでしょう。

 ですが損害も増えているようですね。

 最初と比べ7割程度にまで人数が減っていますから」


だが、かなりの犠牲者を出しているとはいえ、

驚異的とも言える行軍スピードは維持しているようだ。


この調子ならば、僕らが20階層の待機部屋に

辿り着く頃には、姫たちは21階層よりも

下のフロアに進んでいることだろう。


つまり、もう会うことはなさそうだ。


「少し気になる点があったが、

 どうやら確かめる機会はなさそうだな」


そんな事を考えている内に地下14階へと到着した。


僕はレポートを参照しつつ、

仕掛け弓が配置された通路へと陣取る。


「オークキングが来るまで、

 この辺りで待ち伏せするとしよう。

 前方の罠を利用したいと思うが、

 うまくあっちからやって来そうか」


僕の質問に淡雪は首を縦に振り、

幸いながら1分後には姿を現します、と答えた。


僕は小剣を取り出して戦闘に備えつつ、

オークキングのステータスを彼女に確認する。


「オークに比べて体力のみが倍で、

 他のステータスは同じ、

 という、さほど強くないモンスター、だったかな」


地下1階層で淡雪が言った台詞を

思い出しながら繰り返すと、

人形は、その通りです、と髪を揺らした。


「オークの体力が17で、オークキングが34です。

 その他は、魔力1、力12、防御10、速さ8、

 という具合ですべて同じです」


そうか、と僕は腕組みをしながら思考の海にもぐる。


「火炎弾の残りは3個。つまり3回、か。

 ぎりぎりオーケーと言ったところだな」


その独り言に人形はぎこちなく首をかしげつつ、


「火炎弾を連続で投擲し、

 お倒しになられる予定でしょうか」


そう聞いて来る彼女に対して、


「いや、むしろ逆だな」


と返事をする。


はあ、それはどういう、

と更に彼女が質問を重ねようとしたところで、

通路のはるか向こう側に、

オークを一回り大きくしたモンスター、

すなわちオークキングが姿を現した。


「来たか。なあ淡雪、この状況、2階層のモンスタースポットで

 オークと戦った時のことを思い出さないか」


僕は小剣のつかを改めて強く握り直しながら、

彼女に語り掛ける。


「えっ、はい。たしか、赤坂様が仕掛け弓と火炎弾の

 組み合わせでオークたちを倒して行かれ、

 その検証の結果、仕掛け弓が割合ダメージである、

 ということを証明された時のことですよね」


そうだ、やはりよく覚えている、と僕は感嘆する。


「当時の推定値としては、おそらくだが、

 残り体力の30%以上のダメージではないか、

 ということだった」


いいえ、と彼女はかぶりを振った。


「貴方様は私におっしゃいました。

 25%の可能性もあるだろうと。

 なぜならば、切り上げ、という考え方が

 存在するからだと」


なるほど、さすが機械だけある。


ならば、彼女は既に答えを見付けられる位置まで来ている。


「むしろ逆、とは、つまりそういうことだよ」


淡雪は無表情のまま首をぎこちなくかしげる。


そんな会話をしている間にも、

近づいてきたオークキングが仕掛け弓の罠に掛かったようだ。


どこからか飛来して来た矢が奴の肩口に突き刺さり、

大きな叫び声がとどろいた。


「よし、移動しよう。今回は残念ながら

 仕掛け弓が続け様に配置されている場所がないから、

 こうして敵を誘導する必要がある」


彼女は首を傾げたまま、


「仕掛け弓の罠でないと駄目なのですね」


と聞いて来たので僕は頷く。


すると淡雪は首の位置を元に戻し、

こちらの顔を無言で数秒だけ見つめる。


それから僕の手を取って行動を開始したのであった。


だが、その移動の最中、

突然、彼女が首を180度ぐるりと回し、僕の方を振り向く。


そして、「貴方様の言葉を思い出していました」、

と語りだした。


なかなかにホラーな光景であるが、

僕はなんとかポーカーフェイスを保ちながら、

淡雪の言葉に耳を傾ける。


「2階層においてオークでの検証が終了し、

 仕掛け弓のダメージが、少なくとも、

 残り体力の25%切り上げ、以上だろう、

 という結論を得た後のことでした。

 賞賛する私に対し貴方様は確かにこう続けられたのです。


『期待してくれるのはありがたいんだが、

 しかしより詳細な検証は無理なんだ。

 具体的に何パーセントか分からないんじゃ、

 戦闘に組み込むなんて、とてもとても。

 ゴブリンと同じ防御力のモンスターは、

 このあたりの階層だとオークの他にはいないからな。

 これ以上の実験はできない』


 その言葉を思い出してやっと分かりました。

 ですが本当なのですか。

 あなた様はまだ攻略を始めたばかりの

 地下2階層という段階で、

 既にこの階層で追加検証を実施することを

 念頭に置かれていた、とでも言うのですか」


いやいや、それは過大評価だ、と僕は否定した。


「10階層を超えられるかどうかが、

 そもそもわかってなかった。

 たまたま運が良かっただけだよ」


しかしながら、と彼女は言葉をはさむ。


「このためなのでしょう。雑魚のモンスターや、

 スケルトンキングとの戦いの際に、

 火炎弾の使用を抑制されていたのは」


淡雪の鋭い指摘に僕は感心する。


「よく分かったな。そうだよ。実はこの調整は大変だった。

 なぜかミトの町でしか売っていないもんだから、

 追加ができず、最初に購入した14個しかなかったんだ。

 いろいろ使ってスケルトンキングとの戦闘前の時点では、

 既に8個しかなかった。そのためボス戦には5個しか

 投入できなかったんだ。なぜなら、どうしても3個は

 残す必要があったからな。

 でないと、せっかく検証をしても1回では信頼性が低い。

 やはり3回は試験しないと」


そう言うと、彼女は左手の指輪をいじりながら、


「25%切り上げか、そうでないのか、

 を検証するためには、ですね」


と冷えた声音こわねで言った。


僕はこの優秀な機械人形の言葉に深くうなずいたのである。

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