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32.物理

ストーリーの流れ上、7話分を連続投稿しています。

以下のスケジュールでアップしていってますので、

ご注意ください。

・8/13 14時ごろ

・8/14 1時ごろ、5時ごろ、10時ごろ、15時ごろ、19時ごろ【イマココ!!】

・8/15 1時ごろ

「ボスを撃破するとアイテムが出現するらしい。

 中身は一定とのことだが」


僕がスケルトンキングが消滅した辺りで待っていると、

間もなく何もない空間から宝箱が現れた。


レポートには、ボス部屋の宝箱に罠はない、

と明記されていたので、安心して蓋を開ける。


中には木で造られた無骨な弓矢が入っていた。


「必中の矢、という武器だそうです。

 本数は10本で、使えばなくなってしまうとのこと」


初めてのボスのドロップアイテムということで、

感慨深く感じながらそれを取り出すと、

にぎりや紐の突っ張った部分を意味もなく触ってみる。


「必中、とあるだけあって、

 必ず命中する矢、ということで良いのか」


その質問に淡雪は、はい、と答えた。


へえ、と僕は感心すると、

周りを見回して試射するのにちょうど良い標的を物色する。


そしてある対象に思い至ると、

記憶を頼りにそれに向かって矢をつがえ、

素人ながらの下手くそなフォームで矢を放った。


だが、そうしたでたらめな射的にも関わらず、

矢は鋭く飛翔すると、

標的であった地面のとある場所に見事命中する。


当たった瞬間、

その地面に隠れていたトラばさみが起動し、

近くに倒れていた盗賊の死体へと噛みついた。


矢はほどなくしてちりの様に消滅してしまう。


「へえ、なるほど」


僕が感嘆していると、淡雪が解説の続きをしてくれる。


「はい、お試しになられたように、

 弓に不得手ふえてな者が使用しても、

 百発百中の的中率を誇る、とのことです。

 ただ、冒険者の間では残念ながら、

 外れ武器、と言われているようですね」


そりゃまたどうして、と僕は尋ねる。


「そもそも攻撃力がほとんどないから、との事です。

 ゴブリンですら12回命中させないと倒せない、

 とレポートにも記載されております」


奴は体力が12しかない最弱のモンスターだから、

本当にわずかなダメージしか与えられないのだろう。


せっかく強力なボスモンスターを倒しながら、

そんなアイテムしか出てこないようでは、

外れ武器だと罵倒ばとうする冒険者たちの気持ちも

分からなくはない。


「だが、そうだな。例えば地下11階層からは、

 ゴースト、というモンスターが出現する。

 そいつらは姿が見えないために非常に難敵だと、

 レポートには記載されていたはずだ。

 だが、一方で体力自体は0、ともあった。

 わずかなダメージでも葬れると。

 案外、この必中の矢が役に立つんじゃないか」


僕は良いアイデアを思いついたと提案してみるが、

彼女はたちまちかぶりを振った。


「いえ、物理的な攻撃を一切無効化するのが、

 ゴーストの特徴の1つのようです。

 そうした攻撃はすべてすり抜けてしまう、

 とレポートには記載がございます。

 ですので、弓矢は効かないものと考えるべきでしょう。

 私の投げナイフも同じことかと思います。

 また、もう1つの特徴として、

 アークア様がおっしゃっていた通り、

 姿が見えない、ということがありますので、

 そもそも弓を当てる事自体、

 かなり困難というのがあるようです。

 なお、火が弱点とのことですから、

 松明たいまつを接触すれば即死させられます。

 そのため、一般的な攻略法としては、

 攻撃を受けた時に、その方向に松明たいまつを振り回す、

 のだそうですよ」


格好悪いですが、と冷えた口調で呟く淡雪に、

僕は肩をすくめながら、

持ってきた松明たいまつの準備を命じておく。


それから腕を組みながら大きく嘆息した。


「ううん残念だが、とりあえず役に立ちそうにないな」


そうぼやきながら、僕はその外れ武器を

背嚢リュックへと放り込んだ。


「持って行かれるのですか。

 失礼ながら、大した値段では売れないそうですよ。

 嵩張かさばりますし、

 ここに置いて行っても良いかと思いますが」


彼女の言葉に頷きながら、


「そうだな。だがまあ、あったほうがいいだろう」


そう言って、少し重くなった背嚢リュックを背負う。


「どうせ、ここでは試せないしな」


僕は壁に囲まれたボスフロアを見回しながら、

小さな声で呟いたのだった。


・・・

・・


宝箱からアイテムを入手してしばらくすると、

赤と青のもやが2つ現れた。


赤の方をくぐれば地下11階層へと到り、

青の方に進めば「前室」に戻るそうだ。


さて、進むか退くかどうしようか。

僕は数秒、思考に没頭する。


実を言えば、当初の計画では何階層まで潜るか、

厳密には決めてはいなかった。

地下10階層ボスを確実に倒せる手段を、

事前に備えることができなかかったためである。


場合によってはスケルトンキング手前の「待機部屋」で

冒険は終了、ということも念頭にあったくらいだ。


だが、幸いながら盗賊を利用して、

奴との戦いを有利に進める事ができた。


だから正直、せっかくここまで来たのに、

引き返すのはもったいない、という気持ちがある。


なぜならこのあと、青いもやくぐり、

一旦、前室に戻ってしまえば、

再度、ボスと戦うための準備をやり直さなくてはならないし、

何よりも改めて1階層から攻略を始めなくてはならない。


はっきり言って、僕がこのダンジョンに

飽きた時点で攻略は終了であり、

それが一番可能性の高い失敗要因であった。


幸運にも、まだこのダンジョンに飽きてはいないし、

さほど頑張りすぎてもいないことから、

精神的な疲労はほとんどない。


だが、地下1階層からやり直しと言われれば、

たちまち食傷気味な気分となることは

容易に想像がつき、僕の怠惰な心理状態では、

とても再チャレンジする気にはならないだろう。


「ふむ、もう少し進んでみるか。

 リスクを極小にコントロールできる内は」


そんな風に総合的な判断を下すと、

僕たちは地下11階層へと続く赤いもやへと進む。


すると一瞬にして、ヒカリゴケに照らされた

見慣れた通路へと転移していた。


背後の壁には亀裂が走っており、

そこに青色の靄が揺れている。


ここを潜れば地下10階層の「待機部屋」に

戻ることが出来る、とレポートにはあった。


「さてとまずは。近くに魔力音の反応はないな」


僕の質問に淡雪は、はい、と答える。


「そうか。ところで確か地下5階層で、

 既に死んでいるはずのゴーストであっても、

 魔力音は検知できるだろう、

 という話を君から聞かせてもらった。

 だから、魔力音に気を付けてさえおけば

 大丈夫だとは思うが、

 万が一ということもある。

 油断せずに進む事としよう。

 じゃあ、まずは宝箱の回収と行こうか。

 隠し部屋の方に案内してくれ」


彼女はぎこちなく頷くと先に立って歩き始めた。


魔力音の発生源を避ける形でダンジョンを進み、

30分ほどで目的地へと辿たどり着く。


モンスターとは出会わなかった。


「地下5階層や7階層にあった隠し部屋と

 同じ仕組みの数理ギミックか」


壁の手前が台座状に盛り上がり、

その天板には拳大こぶしだいの半円状の溝が並んでいる。


だが、その数がこれまでの物と比べ、

段違いに増えていた。


今までは横一列に数十の穴が空いているだけだったのが、

今回は8段に分かれており、

1段につき50個のくぼみがある。


合計400個の溝があるということだ。


そして、青色の球体が左から数えて、

1段目の7個目と49個目にめ込まれている。


僕は迷うことなく、


「7の倍数、ということなんだろうな。

 だとすると、次は7×7×7で343か。

 上から6段目の、左から43個目が正解だろう。

 淡雪、レポートにもそう書いてあるか」


全ての内容を暗記しているわけではない僕は、

念のために機械人形に訪ねる。


だが、彼女は冷えた声音こわねで、


「いえ、この仕掛けについて記載はないようです。

 詳しく調査する時間がなかったのかもしれません」


よく分かりませんが、と首を傾げながら答えた。


そうか、と僕は返事をしながら、

宙に現れた球体を手に取ると、

343個目の穴へそれを埋め込む。


レポートで答え合わせが出来ないことに

若干の不安を覚えたが、

幸いながら、ただの杞憂きゆうだったようで

背後の壁の一部が地面へと吸い込まれると

奥に隠し部屋が現れた。


僕は肩透かしを食らいながら中へ入ると、

部屋の片隅に設置されていた宝箱を開ける。


中にはつやめかしい輝きを放つ

金貨20枚が収められていた。


「悪くない収穫だな」


お金と言うのは本当に心を豊かにしてくれると、

僕は認識を新たにしながら、

何度も枚数を数えてからそれを回収する。


それにしても本当にどうして、

黒炎団はこのギミックを解かなかったのだろう。


「まあ淡雪が言った通り、攻略を優先して

 時間がなかったのかもしれないな。

 いや、もしかすると金貨数十枚というのは、

 A級パーティーにしてみれば、

 さほど魅力がないのか」


そんな風に1人で納得しながらも、

これまでの隠し部屋のことを思い返す。


「そう言えばレポートには一体どのように、

 これらギミックについて記載されていたっけな」


確か地下5階層の分については、

「8つ目の溝へ青色の石を埋めるべし」

と記載があったはずだ。


また地下7階層も5階層と同様に、

「9つ目」と記載されていたと思う。

どちらにも、答えだけが書かれてあって、

計算の過程は書かれていなかった。


そして、地下11階層にはそもそも記載がない。


ふむ、と僕は首を傾げると、

背嚢リュックの一番下に収めてあったレポートを

苦労して引っ張り出し、

ぱらぱらとあるページに目を通す。


だが、やはり確信を持つまでには至らず、

嘆息してからレポートを元に戻すのであった。


「ところで淡雪、この部屋だが、

 モンスターがやって来る事はないと思っていいだろうか。

 10階層までは大丈夫だったが、

 ここからはゴーストが出現する。

 壁を抜けて襲い掛かって来る様な事はないか」


僕の懸念に淡雪は少し考えるように黒髪を揺らしながら、


「大丈夫だと思われます。レポートにもゴーストが壁抜けを

 するような特徴は記されておりませんし、

 また、この階層の魔力音をずっと追っていますが、

 すべてのモンスターが通路に沿った動きをしています。

 つまり、壁をすり抜けて移動する存在は確認できません」


ありがとう、と僕は礼を言う。


だとすれば、この部屋の隠し戸がそのうち閉まるから、

安全地帯になると言うわけだ。


そうして僕はこの部屋で、

本日の野営をする事に決めたのだった。

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