31.正義
ストーリーの流れ上、7話分を連続投稿しています。
以下のスケジュールでアップしていってますので、
ご注意ください。
・8/13 14時ごろ
・8/14 1時ごろ、5時ごろ、10時ごろ、15時ごろ【イマココ!!】、19時ごろ
・8/15 1時ごろ
僕と淡雪は盗賊たちの生き残り4人を引き連れ、
中ボスがいる地下10階層へとやって来た。
レポートに書かれている通り、
この階層は今までのフロアとは異なり、
階段を下りた場所がすぐに「待機部屋」
になっているという特殊性を備えている。
風景はこれまでと変わらぬ洞窟であり、
殺風景なことに変わりはないが、
100m四方はあるぶち抜きの大空間で天井も高い。
また、この階層にはボス以外のモンスターが
一切出現しないとのことだ。
だが一番の特徴は、
やはりダンジョンの入り口にあたる「前室」へ、
一瞬にしてワープすることが可能という点であろう。
ただ、反対に「前室」から「待機部屋」へ
ワープして来ることは出来ないため、
一度戻ってしまえば最初から攻略を
やり直さなくてはならない。
帰還のタイミングについては
よくよく考える必要があるということだ。
「僕ら以外には誰もいないみたいだな。
あっ、ほら見てみろ淡雪、
ずっと向こうの壁の切れ目に、
赤い靄が掛かっているぞ。
人ひとり程度のサイズだが、
あれがレポートにあった
ボス部屋への転送ゲートのようだな」
その言葉に淡雪は頷きながら、
「そうですね。ちなみに先ほど私たちが下りて来た
階段のすぐ右隣にも、靄がございました。
そちらは前室への転移ゲートとの事です」
彼女の説明を受けて振り返ると、
確かにさっき下りて来た辺りに切れ目が走り、
青い靄が掛かっている。
「へっ、そんなことはどうでもいいんだよ。
どうせ憲兵どもに突き出すつもりなら、
さっさとワープゲートを使って地上に戻しやがれ」
その痛罵とも言える口調に僕は肩をすくめながら、
淡雪との会話に水を差した盗賊団リーダーの
シチャキへと振り返った。
「随分と殊勝なことを言うじゃないか。
そんなに自分の罪を償うことに積極的とは」
そんな挑発を彼はまともに取り合わず、
へっ、と鼻で笑った。
何かを企んでいることは確かなのだが、
一体それが何なのかにまで思い至ることは出来ない。
まあ例えば、「前室」にワープした時の
出現位置がランダム、という事かもしれない。
もしそうならば、現れる場所によっては、
彼らにも逃亡のチャンスがあるからだ。
ただ、残念ながらレポートにも
そこまで詳細な情報が掲載されているわけもなく
妄想の域を出ないのだが。
けれど、今はそもそも「前室」への転移を
想定することこそ無意味だ。
なぜなら僕らはこの後、
「よし、このパーティーでボス戦に挑むぞ」
そう、ずっと計画していた通り、
盗賊たちと「共闘」するのだから。
・・・
・・
・
ぎゃあぎゃあと唾を飛ばして抵抗する盗賊たちを、
淡雪が脅しつける形でボス部屋へとワープする。
赤い靄に包まれた瞬間、
石畳の敷かれたドーム状の空間へと出た。
広さは30メートル四方はあろうか。
そして、僕たちから見て反対側、
一番奥の方に椅子へ座ったモンスターが一体、
ゆっくりと立ち上がるのが見えた。
とても大きい。その身長は3mはありそうだ。
あれが、地下10階層ボス「スケルトンキング」か。
奴との戦いが終わるまで僕たちは外に出る事が出来ない。
文字通り死闘を演じることになるわけだ。
「狂ってやがる。こんな即席のメンバーで、
何の準備もなくスケルトンキングに挑むなんて」
シチャキが茫然と呟く。
「ちくしょう、だが、こうなっちまったものは仕方ねえ。
おい、足の縄を切るぞ。
でないと俺もお前もあの世行きなんだからな」
僕はその言葉を聞き流しながら、
「人数内だったのかテストしたかったな。
いや、それよりも目の前のボス戦か。
おい、もう少し前に出ろ。
でないと始めることができないだろう」
「テスト、だと。一体何を言っている。
それよりも足に結んだの縄を。
って、押すんじゃない、ぎゃあっ」
剣を後ろから突きつける形で盗賊たちを前進させると、
突然、シチャキの口から悲鳴が上がった。
どうやら、ボスフロアにある「唯一」の罠に
引っかかったようだ。
彼の足にトラばさみの歯が鋭く食い込んでいる。
だが僕は驚くことなく、
「これですべてのピースがそろったな」と呟いてから、
今しも近づいて来るスケルトンキングに向けて、
火炎弾を2つ、遠投気味に投擲した。
これまで何度も実践を積んできた武器だけあって
うまくボスの足元へと着弾する。
鋭い閃光を放ち爆発するが、
さすが地下10階層の門番だけあって
仕留められるわけもない。
煙をかき分けるようにしてこちらへ迫って来た。
そうして、勢いを殺さぬまま、
その巨体に見合う大剣を大きく振りかぶる。
だが、その挙動は余りに隙がありすぎた。
淡雪が瞬時にして繰り出した投げナイフが、
奴の腕に鋭く刺さると、
僕らへと繰り出そうとしていた剣戟が大きく逸れる。
その一瞬を捉え、淡雪は僕を抱えると
大きく跳躍してボスから間合いを取った。
だがもちろん、距離を空ける事が出来たのは
僕ら2人だけだ。
足同士を結ばれた盗賊たちは、
トラばさみに引っかかっているシチャキのせいで、
全員、移動することが出来ない。
「ちくしょう、戻ってきやがれ。
俺たちだけでボスを殺れってのか」
叫ぶ盗賊たちに、僕は「まさか」と言って、
淡雪から降りる。
そして、囮役の盗賊たちとスケルトンキングの
戦闘が開始され、彼らに注意が向いているのを確かめてから、
背後へとこっそり回り込み、小剣を深く突き立てた。
と、同時に隣にいた淡雪も大きく跳躍すると、
ボスの背骨の部分をナイフで切り付ける。
スケルトンキングが絶叫を上げるのと同時に、
なぎ払う様に大剣を後ろへと振るうが、
その攻撃を敏感に察した彼女は僕を抱えて
一瞬にして剣の届かない範囲へと後退している。
無論、奴も馬鹿ではない。
背後からの攻撃を放置するような選択はせず、
退いた僕たちを蹴散らそうと、
一旦、盗賊たちを放って執拗に迫ってくる。
だが僕を抱えた淡雪のスピードに追いつく事は出来ず、
すぐに諦めることになった。
そう、これは淡雪が僕に教えてくれた通りだ。
すなわち、スケルトンキングは決して、
逃げに徹した僕たちを捉えることはできない。
なぜならば、ワイルドボアから僕を抱えて
やすやすと逃げるおおせる機械人形を相手に、
素早さで劣るスケルトンキングが
追い付けるはずがないからである。
淡雪が言った通り、「負けることはない」のだ。
とはいえ、この事実をもって、
僕はボス戦に挑むことを決意したわけではない。
なるほど確かに彼女は「負けない」と言った。
だが、それは勝てることと同義ではない。
何せ、このボス部屋においてに引き分けはないのだ。
どちらかが倒されるまで外に出ることはできない。
むしろ、逃げ回るだけで決着が付かないならば、
最後は僕が餓死して終わりである。
「だからこそ、その欠けたピースを
埋めなければならなかったわけだ。
そして、欠落しているファクターが
何なのかは明らかだった。
それは無論、共闘してくれる仲間、などではない。
必要なのは、僕らが攻撃をするために、
隙を作ってくれる囮役の人間だった。
すなわち、今まさにトラばさみと
格闘している彼らの事だな」
僕たちはボスと激闘を繰り広げるシチャキたちを
距離を空けつつ観察する。
盗賊たちは泣きそうな顔をしながらも、
迫って来るスケルトンキングへ
必死に武器を浴びせかけていた。
彼らは皆、すぐにでも得物を放り出し、
剣戟降り注ぐあの場から逃げ出したいのだが
シチャキが罠に掛かっているせいで、
足を結ばれた4人全員が
その場に釘付けになってしまったのだ。
僕はその惨状を見ながら大きく頷く。
「全て作戦通りだな」
そう言って計画の成功を確信したのだった。
・・・
・・
・
「足のみを縄で結ばれたのは、捕縛するためではなく、
この場で逃げられなくするためだったわけですね」
彼女の質問に僕は頷いた。
「完全に縛り上げては、囮として戦うことはできない。
かと言って、フリーにすれば、
きっとボスから逃げ回るだけで、
囮役を果たしてはくれないだろう。
一か所に留まり、ボスを引き付けてもらうには、
全員の足を縄で連結させ、
この部屋にあるトラばさみに1人を引っ掛けて、
他の者たちも逃れられない様にする必要があった。
罠の場所はレポートに記載されているから、
誘導するのは楽だったな」
中途半端に足だけを結ばれた理由が
やっと分かりました、と淡雪は呟く。
「それでは、9階層で盗賊たちを
ゴブリンナイトらと戦わせたのは、
足を結んだ状態で戦闘が可能かどうか、
検証するためですか」
その通りだ、と僕は答える。
幸いながら、それなりに戦えていたから、
ボス戦もまあ大丈夫だろうと考えたわけだ。
「ですが、よく分からない点もございます。
地下8階層にて、貴方様が縄を緩めておくことで、
盗賊が一人、逃げ出そうとしました。
その際は、見せしめに始末することで、
他の者たちを大人しくさせることが目的かと
思っていましたが、考えてみれば、
もっと直接的な方法が幾らでもございます。
端的に申上げれば、かなり迂遠な方法です。
あのような手法を採用された理由が
他にあったのでしょうか」
僕は彼女の勘の良さに舌を巻きながら、
肩をすくめた。
「大人しくさせる事も目的の1つではあった。
ただ、それ以上のより大きなハードルを
乗り越えるために必要だったんだ。
特に彼らをボス戦の囮にするにあたってはね。
それが何か分かるかい」
いえ、と頭を振る彼女に対し僕は語る。
「それは、今回の作戦を僕の倫理観が許容できるか、
という精神的な問題だよ」
よく分かりません、と首を傾げる淡雪に、
できるだけ分かりやすく説明をする。
「そうだな、例えば地下6階層に斥候役の盗賊がいたが、
最終的に始末することになった。
さて、どうしてだったろうか」
僕の問いかけに、彼女は考える素振りも見せず、
「貴方様の忠告に従わず、嘘ばかり申したからですよね」
まあそうだな、と僕は答える。
「次に様子見に派遣された4人組。彼らはどうだ」
「はい、盗賊団が貴方様を仇敵とみなしていると
斥候の話から判明したからです。
また、話し合いの場を持つためには、
盗賊たちの人数を減らす必要がある、ということでした」
それについても頷きつつ、
「その通りだ。そしてその後、モンスターを牽引してきて、
盗賊たちにぶつけた。この時の理由も同じだった」
さて、どうだ分かったか、と問う僕に対して、
淡雪は申し訳ございません、頭を下げる。
「不出来な淡雪をお許しください。
貴方様の高度な思椎を理解することが出来かねます」
ああ、いや、と僕は頭を振る。
「難しく考える必要はないんだ。
つまり、何の理由もなく始末するような
非人道的なことはしていないだろう。
すべて話し合いをした上で、
妥当な根拠に基づいて行動しているんだ」
根拠、でございますか、と彼女は鸚鵡返しに呟いた。
「そうだ。斥候にはあらかじめ、虚偽を言えば始末する、
と予告してあった。4人組を不意打ちで始末した事は、
盗賊団という大勢の犯罪者集団を相手取るには
やむを得ない対応と言えなくもない。
また、モンスターを利用した牽引作戦も
彼我の人数差を考えれば、
何とか工夫を凝らして悪を倒そうとした
正義の所業と言って差し支えない」
ですが、と淡雪は口をはさむ。
「貴方様はおっしゃいましたね。根拠を用意した、と。
根拠に基づくのではなく、用意するとおっしゃった。
丸で、あえてその状況を自ら作りだされた様な」
そこまで言ってから彼女は、ああそうなのですね、と
自ら納得したようにぎこちなく頷いた。
「言葉の通りなのですね。
貴方様は私が盗賊団の存在を察知した最初から、
盗賊団を丸ごと潰すおつもりだった。
ですから、そのための理由を、
状況に応じて作りだしていたのですね」
僕は人形の指摘を認める。
その通りだ。
大蟻をけしかけた盗賊たちに残党がいるかもしれない、
という可能性は常に考慮していた。
そして彼らの報復対象になるかもしれない事を
憂慮して来たのである。
だから、盗賊たちを全滅させる機会があれば
それを逃すつもりはなかった。
「ですが、それならばなぜ、話し合いをすることに
それほど固執されるのですか。
たかだか盗賊という外道たちです。
理由なく始末してはいけないのですか」
淡雪はぎこちなく首を傾げるが、
「いやいや、それではただの殺人鬼だ。
しっかりと対話を通して、行動を決めることが
文明人の鉄則だよ。気に入らないから、とか、
自分に都合が悪いから、といって、
たちまち暴力に訴えていいわけではないんだ。
だからこそ」
と、僕は言葉を続ける。
「斥候にはあえて嘘を吐きやすい質問をした。
盗賊団の規模や、居場所など、正直に答えられる
わけがないからな。また、盗賊団が大勢と言うのは
むしろ都合が良かった。ダンジョンを根城にする
犯罪者達に対抗するためなら、不意打ちをしようと、
モンスターをけし掛けようと、
どんな方法であれ、正義には違いない。
なぜなら、まさかそんな大勢を捕縛して連行することは
出来ないのだからその場で始末するしかないからだ。
そして、淡雪の質問にあった、
わざと盗賊を逃がした理由だが、斥候の時と一緒だよ。
逃げようとすれば命はないと、事前に伝えているんだ。
にも関わらず、盗賊たちは逃げ出そうとしたし、
あろうことか僕を殺そうと襲い掛かりさえした。
つまり、今の段階は、あの4人を僕が始末しても、
構わない状況なんだ」
だから、死ぬかもしれないボス戦に、
盗賊たちを連れて来くることを、
僕の倫理観は良しとしたのである。
「例えそれが、貴方様が恣意的に
導いた状況であったとしても、ですね」
もちろんである。
社会人なのだから、むしろこういった状況の
コントロールは積極的にせねばならない。
さもなければ責任を放棄しているとさえ言える。
「それが話し合いを大切にする、ということだ。
対話主義、と言い換えることもできるな。
平和を実現するための唯一の方策とも言われているが」
一通りの経緯を話し終えると、
こちらの穏やかな雰囲気とは真反対の、
阿鼻叫喚渦巻く盗賊たちの方へと目線を移した。
ちょうどその時である。
「ぎゃあッ」
盗賊のうちの一人がボスの剣に首を跳ね飛ばされた。
残りのメンバーも大きなけがを負うか、
虫の息の有様である。
「だが、計画通りスケルトンキングにも
かなりダメージを与えているな」
骨のみで動く化け物の体には、
それこそ無数のひび割れや切断箇所が見受けられる。
「ちくしょうッ、やってられるか」
そう言って、部下の1人が
遅まきながら足元の縄を何とか切ると、
ボスから距離を取ろうとした。
だが、駆け出そうとした盗賊の足には、
淡雪が一瞬のうちに投擲したナイフが深く刺さり、
つんのめって地面に倒れ込む。
「くそっ、何をしやが」
そう言いかけた男は、ボスの振り下ろした剣に
あっさりと命を絶たれた。
「てめえ許さ」
虫の息で這いつくばるもう一人の男も
最後まで言い終えることなく、
鋭い一撃に成すすべなく絶命する。
そして、最後に残されたシチャキにも
奴はとどめを刺そうと横なぎに剣を振るうが、
その時、やっと彼を拘束していた罠が外れ、
ぎりぎりで後退し、何とかその攻撃をやり過ごす。
スケルトンキングは尚も盗賊に迫ろうとするが、
先ほどまで彼の掛かっていた罠の上を通過しようとしたところ、
間抜けにも自分が引っかかってしまう。
トラばさみを外そうとするもすぐには外れないらしい。
思わぬチャンスだ。
だが、シチャキは既に体中に傷を負い、
大量に出血している。
攻撃どころか逃げ回ることすら難しいだろう。
そう思っていると男はこちらへと駆け寄って来た。
なんだろう、助けを求めるつもりだろうか。
その行動を怪訝に思っていると、
淡雪がスッと体を前に滑りこませる。
僕がやはり頭に疑問符を浮かべていると、
なんとシチャキが雄たけびを上げ斬りかかって来た。
「お前だなッ、セビファナ盗賊団に
大蟻を仕掛けた犯人はお前だなッ。
ちくしょう、もっと早く気付くべきだった」
僕は思わず瞠目する。
なぜばれたんだ。
淡雪は淡々と目の前で彼の刃を受け止めた。
「ずっと違和感があったが、やっとわかった。
斥候が俺たちの情報をゲロしたと、
お前が言ったとき、確かにこうぬかしたな。
『そいつは機械人形や他の宝物には一切手を出さず、
金貨だけを狙ったプロだったらしいじゃないか』
おかしいんだ。大蟻の襲撃から唯一、生き残ったのは、
さっき死んじまった下っ端のアクラだ。
そいつはな、あの場に機密であるオートマターが
存在するなんてことは知らなかったはずなんだよ。
そりゃそうだ、古き人形と言えば
魔神大戦を終結させたと言われる伝説の遺産。
権力者どもが血眼になって探す最も危険な玩具だ。
だから、そいつが盗掘によって偶然、発見された時も、
仲間内のごく一部の奴らにしか、
その事実については知らせていなかった。
俺ですら本物は御目にかかったことがねえんだ。
なのに、お前の口からは機械人形という名が出た。
それが何を意味するのか今やっと分かったんだ」
そう言って、濁った目で僕の方を睨みつけた。
「だが、気付いた理由はそれだけじゃねえぞ。
俺たちに対する仕打ちがそっくりなんだよ。
自分は隠れて誰かに代わりに戦わせるっていう卑怯な真似がなっ。
ちきしょう、よくも俺の家族を無残に殺しやがったな。
絶対に許さねえ。女の後ろに隠れてねえで、
前に出てきやがれ臆病者が。
いや、わかっているぞ。恥を知らねえのか、この」
「そこまでです」
冷徹な声が響いたかと思うと、
シチャキの心臓をナイフが一突きにしていた。
淡雪にもたれ掛かるようにして男が倒れると、
彼女は煩わしそうにその死体から離れる。
「盗賊ごときには分からないでしょう。
赤坂様の高尚な思慮深さや優しさを。
それにとても可愛い所だってございます。
いえ、ともかく、全ては自業自得。
犯罪者に対してすら、赤坂様は対話の機会を
提供されたというのに、このような結果を
招いたのは自らの浅ましさです。
疾くこの世から去りなさい」
僕は目の前で繰り広げられた急な展開に
やや動揺としながらも、
ボス戦の最中であるということは忘れずにいた。
「さあ、今は戦いの続きと行こう」
そう宣言し、トラばさみの罠に引っかかっている
骸骨の化け物の方に向き直ると、
無骨な鉄の塊を3つ放り投げる。
降り注ぐそれが、こつんこつん、と
間抜けな音を立てて奴の頭に当たった瞬間、
足元の死体をも巻き込んで大爆発が巻き起こった。
「多少のダメージはあったか」
しかし、期待むなしく止めを刺すには到らなかったらしい。
もうもうと立ち上る粉塵の向こうに、
満身創痍といった様子ながらも、
佇立するスケルトンキングの姿が見え隠れしていた。
その光景に思わず舌打ちしようとするが、
いつの間にか僕の隣から姿を消していた彼女が、
化け物の頭上へ死神の如く舞い降りるのを見て、
思わず息を飲んだ。
僕が茫然としている間にも、
人形は一瞬のうちに手に持つナイフを、
敵の頭蓋骨へ抉るかの様に深々と突き刺す。
そして呆気なく、その一撃がスケルトンキングの
命に終止符を打ったようだった。
奴は攻撃を受けた瞬間に、
ぴたりとその動きを静止させる。
それから、ゆっくりと骨の体を空中に溶かし始めた。
その情景はまるで一瞬にして風化が進む化石の様であり、
白骨はあたかも紙ふぶきの如く風に散って行くのである。
淡雪が長く美しい黒髪も棚引かせながら、
ゆっくりとそのナイフを引き抜ぬのが見えた。
「どちらが死の権化なのか分かりゃしないな」
僕はそう呟くと、どうやら無事に
地下10階層のボスを打倒できたようだと、
大きく息を吐いたのである。