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28.復讐

ストーリーの流れ上、7話分を連続投稿しています。

以下のスケジュールでアップしていってますので、

ご注意ください。

・8/13 14時ごろ

・8/14 1時ごろ【イマココ!!】、5時ごろ、10時ごろ、15時ごろ、19時ごろ

・8/15 1時ごろ

「盗賊団と言ったか、淡雪」


聞き返す僕に対して、オートマターは、

「その通りです」と淡々と答えた。


「ふむ、君が相手を盗賊だと特定したということは、

 ミトの町か、もしくは、死霊の洞窟へ来る道中にいた

 商人たちを襲った盗賊グループの誰かだという事か」


その言葉に、彼女は頷く。


「おっしゃる通りです。

 道中で記録した盗賊達の魔力音を、

 地下7階層のとある場所で全て確認しました。

 合計で19人が固まって行動しております。

 また、その第7階層から

 第6階層へ続く上り階段付近を、

 1人で行動している者がおります。

 6階層へのぼった辺りをうろうろとしていて、

 その近辺から離れようとしません。

 丸で周囲の状況を探っているかのようですね」


淡雪の分析に僕はため息を漏らす。


「なるほど、そいつは多分、斥候せっこうだな。

 5階層で見かけた、銅貨だけを残した死体は、

 どうやらその盗賊団に襲われた冒険者たちの

 ものだったようだ」


そうですね、と彼女は同意する。


「偵察員を派遣することで、

 狙い目の冒険者を探しているのでしょう。

 そして、いざ獲物を発見すれば、

 7階層の本隊を呼びに行き、

 襲いかかるというわけですね」


そして、と淡雪は言葉を続けた。


「階段近辺に移動エリアを限定しているのは、

 モンスターに遭遇したとしても、

 階段へと逃げ込めば、

 それ以上は追ってこれない事を

 見越してのことかと思われます。

 それにしても、盗賊団が存在する可能性を、

 5階層ですでに予見されていた

 貴方様のご慧眼けいがんには

 やはり感服するばかりです」


彼女の口からこぼれる過大な賞賛の言葉を聞き流すと、

僕は次の行動について機械人形へと伝える。


それは、斥候役の盗賊へ接触することであった。


・・・

・・


僕らは7階層から6階層へと続くくだり階段の

近くへとやって来る。


「確かにいるな」


曲がり角に身を隠しながら、

こっそりと階段の方に視線を投じれば、

周囲をぎょろぎょろとした目で監視する人間が一人、

警戒心をあらわに、うろうろとしていた。


風体の悪い、すばしっこそうな小男で、

明らかに堅気かたぎではない。


「それで、どうなさるおつもりですか。

 前にも言われていた通り、

 共闘を持ち掛けられるのですか」


僕が頭をひっこめると同時に、

早速、淡雪が今後の対応について質問して来た。


僕は首を縦に振り、

機械人形にそのための準備をお願いする。


「これからあの盗賊と話し合いをしたいと思う。

 だが彼の仕事柄、こちらの話を真剣に聞いて

 くれるかは分からない。だから淡雪」


はい、と頷く彼女に、僕は指示を出す。


「まずは彼の両足に投げナイフを投げて、

 移動できないようにしてくれ。

 それからテーブルについてくれるよう、

 お願いするから」


その言葉の意味がすぐに理解できなかったのか、

淡雪は一瞬だけこちらを無表情のまま凝視したが、

僕がそれ以上何も言わないことを見て取ると、

無言でナイフを取り出して投擲とうてきの準備へと入った。


そうして、対象が後ろを向いた瞬間、

目にもまらぬ速さで腕を振るう。


そして時を置かずして盗賊の方へと駆け出すのであった。


僕も遅れぬように人形の後を追う。


「ぎゃぁ、んん、むぐぐ」


しかし盗賊の元へと辿り着いた時には、

既に彼女が全てのケリをつけてくれた後であった。


両方の太ももにナイフを突きたてられた小男は、

突進してきた淡雪の手によって口をふさがれ、

うめき声を上げることも、

ましてや倒れることすら出来ずにいる。


「ふぅ、うまくやってくれたようだな」


僕がほっとしている間にも、

淡雪は持ってきた縄を取り出す。


「声を立てれば命はありません。

 宜しいですね」


その底冷えするような声に、

突如、襲撃を受けて混乱する盗賊は、

頷くことしかできない。


だが、彼女がふせいでいた手を放すと、

沈黙は保ちながらも、

目の奥に怒りの炎をちらつかせているのが分かった。


淡雪は器用にも

盗賊を後ろ手に一瞬で縛り上げると、

僕の方を向いて首を縦に振った。


どうやら準備は整った、ということらしい。


ありがとう、と彼女に礼を言ってから、

僕は小男の方へと向き直る。


「以前、君たち盗賊の一味を見かけたことがあってね。

 直接、被害をこうむったわけではないが、

 犯罪者を見逃すことはできない。

 だからこうして捕縛させてもらったという訳だ」


完全に嘘ではない、もっともらしい建前たてまえを伝えると、

盗賊は僕を射殺いころさんとばかりの視線で見上げ、

こちらを恫喝どうかつしてきた。


「こんなことをしてただで済むと思うなよ。

 俺が定刻で戻らなければ他の奴らがやってくる。

 当然、お前たちの命はない」


恐ろしい言葉を投げかけてくる相手に対して、

僕は誠実に会話を続ける。


「なんだと。だとすると君は

 あえて単独行動をしていたということになる。

 もしや、斥候せっこうのような役割を

 担っていたということなのか」


既知の事実に過ぎないのだが、

相手の出方を窺うために質問を投げかけた。


すると、相手は言葉少なに、

「ふん、どうだかな」と吐き捨てる。


僕は盗賊に刺さったままのナイフを不意に引き抜く。


そして、その衝撃に目を剥く小男の足へ、

再度その刃を突き立てた。


同じ場所を刺したので、さぞや痛かろう。


盗賊はたまらず叫び声を上げようとするが、

その首元にいつの間にか淡雪のナイフが

当てられているのに気付くと、

何とかその絶叫を飲み込む。


「あまり適当なことを言うようでは、

 この場で始末しないといけなくなる。

 何せ盗賊を相手にして、

 余裕があるわけではないからな。

 それに僕としても本意ではないんだ。

 さて、もう一度聞くが、

 君は盗賊団の斥候せっこうか何かなのか」


盗賊は悶絶しつつも僕の言葉に対し、

ただがむしゃらに首を縦に振る。


「では盗賊団の名前を教えてくれ」


その質問に一瞬、

答えるのを躊躇ちゅうちょする素振そぶりを見せるが、

僕が再度、ナイフに手を伸ばそうとすると、

あっさりと口を割った。


「セビファナ、だ。

 お前のような冒険者なら当然知っているだろう。

 ちまたでも噂される大盗賊団とは俺たちの事だ。

 だから、こんな馬鹿な真似はやめるんだな。

 俺を殺せば組織の者が黙っちゃいねえ。

 地の果て、海の果てまで追い駆けて、

 想像もできないような拷問の末、必ず殺される。

 さあ、だが今なら許してやる。

 まずはこの縄をほどくんだ」


小男の残酷な返答に驚きつつ、

僕は質問を重ねて行く。


「それで、その盗賊団のメンバーというのは、

 この階層にいるのか。それとも例えばだが、

 地下7階層にいたりするのか」


いいや、と盗賊はかぶりを振る。


「8階層だ。7階層にはいない」


僕が淡雪の方をちらりと見ると、

彼女はかすかに首を横に振った。


「へえ、なるほど。ではそのメンバーは全部で何人だ。

 放置しておく事は社会にとって好ましくないだろう。

 人数によっては捕縛しに行きたいんだが」


僕の台詞セリフに小男はよどみなく10人、と答える。


本当の人数に比べて半分の申告だ。


「ふうむ、だがそれだと、大盗賊団、という割には

 やや数が少なすぎないか」


実際の数を知りつつも、疑問を提示すると、

盗賊は少し考えるようにしてから質問に答える。


「最近、ミトの町で大蟻の襲撃があった。

 その際に、かなりの人数が脱落した」


これは事実だ。何せ僕自身が犯人なのだから。

無論、素知らぬふりは忘れない。


「ほう、それは災難だったな。

 まさか、自然災害である大蟻の襲撃に遭遇するとは」


だが、小男は忌々しく舌打ちする。


「へっ、そうじゃねえよ。

 誰かがキマアカ香をわざといて、

 蟻どものを呼び寄せやがったんだ。

 そいつはどうやら、足がつきにくい金貨を狙う

 一匹狼の盗人ぬすっとだったらしい。

 独り逃げ去る後ろ姿を、生き残りが見ているからな。

 俺たちも探しはしたが、

 何せ盗んだものは金貨な上、大量に使った形跡もねえ。

 恐らくかなりのやり手だ。

 全く尻尾を掴ませねえんだからな」


僕は彼の言葉に、なるほど、と返事をしつつ、


「それで、もしもそいつを見付けたら、

 どうするつもりなんだ」


その質問に、盗賊はあっさりと、


「もちろん、念入りにいたぶったうえで、殺すさ。

 俺たちセビファナをコケにした報いを受けさせて

 やらなけりゃならねえ。だが今は無理だ。

 盗賊団を復活させないといけねえからな」


男は爛々と目を輝かせながらそう言い切った。


そうか、それは残念な話だな、と呟いてから、


「ところでセビファナ団の残りメンバーは

 このダンジョンにいる者で全てなのか」


盗賊はかぶりを振って、いいや、と答える。


「他の場所にも多くの仲間がいる。

 例え、このダンジョンにいるメンバーを

 捕まえたとしても、別の奴らが復讐にやって来るだろう。

 だから、こんな無謀な真似はやめた方がいい」


ふむ、と僕は一瞬だけ思考の海へと潜る。


たくさんの仲間がいる、というのは嘘だろう。


セビファナを壊滅させたにっくき犯人の探索を

中途半端にしたままで、

ダンジョンで追いはぎを行い、

軍資金を貯めているのが盗賊団の現状である。


他の場所に仲間を残して活動する余裕などないはずだ。


それに、と僕は声をひそめて淡雪に確認する。


「道中で商人たちを襲った盗賊たちの魔力音は、

 すべて7階層に存在するのか」


彼女は小さく首肯しゅこうした。


「なるほど」


判断の難しいところではあるが、

かつて道中で確認された盗賊メンバーと、

ダンジョンに潜むそのメンバーが

完全に一致しているというのは、

別の場所に他の構成員が存在しない事を示す、

補強材料になるだろう。


「ああ、よく分かった。色々と聞かせてくれてありがとう。

 それじゃあ、残りの盗賊団の元へ行くとしよう。

 さあ、立つんだ」


僕が威圧的に指示すると、

小男は渋々といった様子で、

怪我を抱えたままの足で何とか立ち上がる。


だが、後ろを向いた途端、

彼は腹部から剣を生やすはめになった。


それを成したのは僕である。


「適当な事を言ったら始末すると言ったろう。

 何よりも、セビファナを壊滅寸前に追い込んだ僕を

 殺そうとしているのが致命的だな。

 そんなことを言われては殺すしかなくなる。

 因果応報という言葉をよく覚えておくことだ。

 いや本当に、まったくもって、

 本位ではない結果になってしまったなあ」


そうして、間もなく男は息絶えた。


僕は彼らがやっているように、

金目になりそうなものを頂戴すると、

残りの盗賊団たちがいる

地下7階層へと向かったのである。

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