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27.共闘

長らくお待たせしました。一気に投稿したほうが良い

ストーリーの流れだったため、書き溜めを行いました。

少し時間を置きながらですが7話分を連続で投稿します。

<投稿スケジュール>

・8/13 14時ごろ【イマココ!!】

・8/14 1時ごろ、5時ごろ、10時ごろ、15時ごろ、19時ごろ

・8/15 1時ごろ

「共闘、ですか。それは本気でしょうか」


そう問いかけて来る淡雪に、

僕は何も言わず肩をすくめ先を歩き始める。


そして、質問には答えることなく、別の話を切り出した。


「そう言えば、黒炎団のレポートによれば

 この階層から宝箱が出現するんだったかな」


唐突な話題転換にも関わらず、

彼女はオートマターらしく恬淡てんたんと応じる。


「その通りでございます。この地下5階層からは、

 様々なアイテムが入った宝箱が配置されているようです。

 基本的に宝箱はランダムな場所に現れる、

 とレポートにはありましたが」


僕は頷きながらも淡雪の言葉を補足した。


「だが、例外もあると記載してあったろう」


「おっしゃる通りです」、と彼女は答える。


「このダンジョンには様々なギミックを解く事で

 初めて入る事のできる隠し部屋が何室もあるようです。

 そうした場所には必ず宝箱が存在する、と記述がありました」


僕はその返答に満足すると、

改めて淡雪に相談を持ちかけた。


「ありがとう。それで少し意見を聞きたいんだが、

 僕としてはそのギミックのある隠し部屋とやらに

 行ってみたいんだがどうだろうか。

 宝箱、というものを一度見てみたい。

 それに最近は少しモンスター退治を熱心にやりすぎていて、

 この調子では早晩そうばん、ダンジョンに飽きてしまいそうだ。

 少し息抜きをしたいと思うんだが」


水を向けられた機械人形は、

つねからの無表情で僕の顔をじっと見つめて、


「貴方様が行かれたい場所が、私の行きたい場所ですよ。

 もしも赤坂様がお苦しいと思うのでしたら、

 このダンジョンの道行みちゆきすらも、

 ご無理などなさらず、中断されて良いのです。

 もっと貴方様に相応しい別の場所へ参りましょう」


彼女の生真面目きまじめな返事に、僕は苦笑しながら、


「いやいや、それほど面倒に思っている訳じゃないさ。

 むしろ、色々な物が見聞きできて、

 なかなかダンジョンというのも

 旅するには良い所だと思っているんだ。

 ただ、モンスターと戦ってばかりじゃ、

 飽き性の僕のことだ、すぐに放り出してしまうに決まっている。

 ダンジョンの踏破とうはが、君の故郷に至る道なんだろう。

 なら、なおさら大切にしなくちゃいけない。

 だからそのためにも、食傷気味しょくしょうぎみにならないように、

 色々な体験をしたいと思うんだ」


淡雪は何を言おうか迷ったのか、

僕の方を見つめたまま固まっていたが、

しばらくしてからようやく口を開いた。


「そこまで考えて下さっているなんて、

 淡雪は本当に幸せ者でございます。

 ええ、それでしたら早速、隠し部屋へと参りましょう。

 この5階層にも1つだけございます。

 今でしたら、幸いながらモンスターに遭遇そうぐうする事なく、

 その場所までたどり着くことができそうです。

 すぐにご案内致しますね」


彼女はそう言うと、僕の手を引いて先導し始めた。

その指は人形だからかひんやりとしている。


なぜか心なし機嫌が良いように感じたが、

横顔を見るといつもの無表情であった。


勘違いだろうと納得すると、

僕はされるがままダンジョンを歩いて行った。


・・・

・・


淡雪に連れられてやってきた場所には、

何の変哲もない、見慣れた洞窟の光景が

相変わらず広がっているだけであった。


だがよく見れば、

地面の一部が台座のように盛り上がっていて、

その天板には拳大こぶしだいの半円状の溝が、

横一列に20個、並んでいる。


台の高さは腰くらいまでで、

幅は両腕を広げた程度である。


そして天板に穿うがたれたみぞの部分には、

どういった意味があるのか、

左から2個目、4個目、それから16個目に、

青色の球体がはめ込まれているのであった。


「いや、難しく考える必要はないか。

 これはまた、単純なギミックだな」


そう呟いてから台座へと近寄ると、

突然周辺がうすらと輝き出した。


僕は何かが起こるのかと一瞬身構えるが、

空中に青色の球体が一つだけ現れると、

輝きはすぐに収まってしまう。


どうやら、この石を台座の溝のどこかに

めるようだ。


「そう言えばレポートにも、

 ここのギミックについて記述があったな。

 少し思い出してきた」


そう言いながら宙に浮かんだ球体を掴むと、

その玉は突然、浮力を失って

僕の手にずっしりとした重みを伝えて来た。


慌てずにしっかりとキャッチすると、

僕は、さて、と言いつつ、

あっさり左から8つ目の溝に

その石をめ込もうと手を伸ばす。


もう少し考えたほうがいいのかもしれないが、

何といっても、迷う理由がない。


なぜならば、これは明らかに、

数学のテストなどでよく見かける、

ある種の法則性を持った数値の羅列から、

そのパターンを推定する問題だからである。


そう、間違いなく、目の前の台座には

左から数えて「2の乗数」個目の溝に、

球体が埋め込まれていた。


2の1乗、すなわち2。2の2乗、すなわち4。

2の3乗がなくて、2の4乗、すなわち16。


左から数えて2個目、4個目、16個目の溝に、

確かに青く輝く石が収まっているのだ。


加えて、溝の総数は20しかない。


2の5乗は32だから、

溝の数をオーバーしてしまう。


だとすれば、2の3乗である、8、の溝に

石をめるとしか考えられないだろう。


まあしかし、その溝だと確信した理由は、

もっと単純明快なのだが。


それは、そもそもレポートに、

このギミックの答えが記述されていたことを

思い出したからである。


「淡雪、この場所に石を埋め込めば良いと

 確かに書いてあったな」


念の為に機械人形に聞くと、

彼女は、はい、と首を縦に振る。


「レポートには確かに、

 左から8番目の溝へ、

 宙に現れる青色の石を埋め込むべし、

 と記述されておりました」


そうか、と僕はその返答に頷きつつも、

そのレポートの内容に、

不思議と違和感を覚えて聞き返した。


「答えしか載ってなかったんだったかな。

 つまり、どうして8番目の溝に球体をめるのか、

 という肝心の理屈について記述はないのか」


淡雪は首をがくりとかしげる。


「はい、そういった解説は見当たりませんでした。

 ですが、彼らは学者でなく冒険者ですので、

 なかなかそういった懇切丁寧な説明、

 という訳には行かないでしょうか」


彼女の返事は的を射たものだったので、

僕は、なるほど、と納得すると、

青色の石を左から8番目の溝へとめ込んだ。


次の瞬間しゅんかん、ずん、という衝撃音とともに、

その台座の後ろにあった壁の一部が地中へと吸い込まれる。


そうして、後ろへ隠されていた空間と、

室内に置かれた宝箱が現れたのだった。


・・・

・・


「さすがに簡単なギミックだけあって、

 宝箱の中身も大したことがない」


僕はそんなことを言いながら、

入手した魔鉱石10個をリュックへと放り込んだ。


「そう言えばユエツキ姫は今、どのあたりの

 階層まで進んでいらっしゃるんだろう」


その質問に淡雪はすぐに答える。


「ただいま11階層にいらっしゃいます。

 ですが、しばらくそこから動いてはいないようですね。

 おそらく、他の冒険者たちが、

 地下10階層ボスのスケルトンキングを倒し、

 11階層へと至るのを待っているのでしょう」


僕は頷いて、彼女の言葉に同意した。


「きっとそうだろう。黒炎団レポートにもあったが、

 ボス戦に挑める人数は、6人まで、だ。

 倒しても、次に別のグループが挑む際にはリポップしている。

 およそ100人の探索団なのだから、

 相当時間がかかるだろうな」


そこまで言ってから、

僕は話題が中ボス戦になったこともあり、

かねてより悩んでいた課題を切り出す事にする。


この部屋を隠す壁は僕らが入室してすぐに復帰しており、

モンスターが入って来る心配はなく

落ち着いて話し合いをすることができる。


外に出るときは、壁についたレバーのような

突起を引けば良い仕組みだ。


「淡雪、いい機会だから少し相談させて欲しい事があるんだ。

 話にあった、スケルトンキング戦についてなんだが」


彼女は美しい顔をこちらへ向けると、

無表情のままたたずんだ。


「ずっと考えていたんだが、

 地下10階層スケルトンキングについて、

 僕ら2人だけで倒すことができるだろうか。

 知ってのとおり、ボス部屋は一度入れば、

 その戦いが終わるまで出ることができない。

 だからもちろん、無理をするつもりはない。

 少しでもリスクがあるようなら、

 中ボスとは戦わず、手前の待機部屋から

 ダンジョンを脱出してしまうべきだと思うんだが」


その質問に、淡雪はぎこちなく首を傾げる。


「倒せるかどうかは、正直わかりかねます」


そうか、と僕は嘆息するが、

彼女は、「しかしながら」と続けた。


「負けることはおそらくないでしょう」


そう言い切る淡雪の言葉に、

今度は僕の方こそ首を傾げる。


彼女はその理由を、変わらぬ無表情で語った。


「かの中ボスにつきましても、

 ステータス情報がレポートに記載されていました。

 体力132、魔力1、力24、防御20、早さ16、

 というパラメーターでございます」


ふむ、と僕は頷く。


「詳細な数値は覚えていなかったな。

 だがいずれにしても、今まで戦ってきたモンスターらとは

 全ての能力値が桁違いだ。

 つまり、何が言いたいのかというと、

 単純にパラメーターを比較換算して、

 強さを割り出すことはできないんじゃないか、という事だ。

 たとえば、ワイルドボアのステータスは、

 体力13、魔力1、力17、防御12、早さ20だったが、

 単純に体力差をとって、およそ10倍程度の強さ、

 という訳ではないだろう。

 力や防御、速さといった能力値の総合的な差が

 実際どれ位の影響を生むのかは分からないんだから」


そう語る僕の言葉に、

淡雪はあっさりと、その通りです、と答えた。


「貴方様のご賢察けんさつに間違いはないと思います。

 ですが、淡雪の考えていることはもっと単純なのですよ。

 いみじくも、おっしゃられましたように、

 ワイルドボアの早さは20、でございました。

 一方で、かの中ボスの値は16、でございます」


ああ、そうか、と僕は自分の迂闊うかつさに呆れた。


「複雑に考えてはいけないんだな。

 むしろ、単純に考えなければいけない」


はい、と彼女は頷いた。


「少なくとも、ワイルドボアよりも、

 かの中ボスの足はおそうございます。

 ですから、私が貴方様を抱えて逃げ回れば、

 つかまることはないでしょう」


なるほど、実際に彼女はワイルドボアの突進攻撃を

やすやすとかわしていた上に、

僕をらくらくと持ち上げて、

そのモンスターから逃げ回る大立ち回りを

難なくこなしていたのだ。


それよりも早さが劣るモンスターに、

間違っても追いつかれることはないだろう。


そう、これこそが淡雪が、「負けることはない」

と語った理由なのであった。


なるほど、確かにそれならば、敗北だけはなさそうだ。


だがしかし、僕は安心するのと同時に、

「決め手がもう1つ、足りない」、と直感する。


そうして、どうすればその欠けたピースが埋まるのかと、

深い思考の海へと沈むのであった。


だが、そんなに簡単に答えが出る訳もない。


しばらく考えてもアイデアが浮かばなかった僕は、

現時点での検討を諦めると、

この階層の探索を切り上げ、

次の階層へと向かうことにするのであった。


そして、地下6階層へとたどり着いたとき、

不意に前を歩く機械人形が立ち止まる。


「盗賊団の反応がありました。数は複数」


彼女は冷えた鉄の様な声で淡々とそう告げたのだった。

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